今、アートで沸騰するダイバーシティ。(その2.5:ハレと日常の新時代)

桜を愛でつつ、たがいの健康を祝し、祈る。日本中がハレの気分となる季節です。(写真:アフロ)

花を咲かそう。そして

祭り、記念行事からインスタレーション、フラッシュモブまで日常的にイベントが開催されています。しかしイベントはハレの日、ハレの舞台。動かすには大きなエネルギーが必要です。被災地支援では花は咲くと歌いつつ、花を咲かす活動で懸命に復興を牽引するイベントが開かれています。これによって地縁のある方だけでなく、遠方からの観光、ボランティアそして演者が集まる新しいイベントが生まれています。これも確かなダイバーシティ進化です。しかしそういうハレ続きでの疲れも深刻です。予算、プランそして人材には限りがあります。日常生活もあるし、本当の復興事業もあります。燃え尽きてしまうイベントも各所で見られるようになりました。これは被災地に限らず、地方活性化や事業啓発・啓蒙活動なども同様の状況です。花は咲かせた。でも花は散ってしまいます。花は何のために咲かすのか?それは実を結ぶためです。多くの人の活力という花粉を受粉して、大きな実を結び、未来に活かすことがハレの日が持つ使命です。毎日がハレである場所には遊園地などのアトラクション施設がありますが、街としての代表というなら、それは東京・銀座です。そこで暮らし、働く人にとって部屋着で出歩くことはタブー。言葉遣いや振る舞いにも、銀座の構成者としての気概が満ちています。銀座に多様な来訪者があふれても、迎える側の意識に揺るぎはないようです。永遠の花という存在、銀座なのです。

花冷えの雨に煙ろうとも銀座はハレの街
花冷えの雨に煙ろうとも銀座はハレの街

この気概をすべての開催者、開催地で持つことは難しいことです。それは実を結ぶことが求められるからです。花が実になるためのヒントをくれるパフォーマンスアーティストたちにそのヒントを教えてもらいたいと思います。

生きるという輝きの種を心の中に蒔く

生きるチカラをハレの舞台で与えてくれるアーティストの中に、生きること自体の素晴らしさを感じさせてくれる人がいます。小澤綾子さんは輝く声と明るい笑顔を絶やさないポップスシンガーです。

筋ジスと闘い歌う歌手小澤綾子さん 日本IBMに勤務し、次世代育成に取り組み、家庭も守る。それがすべて彼女の日常
筋ジスと闘い歌う歌手小澤綾子さん 日本IBMに勤務し、次世代育成に取り組み、家庭も守る。それがすべて彼女の日常

昨年までは片手に杖をついてステージに上がっていましたが、今は両手になっています。進行性の難病、筋ジストロフィーと闘いながら歌っているのです。幼い頃から体調不安を抱えていましたが、診断がついたのは20歳になった頃。10年後には車椅子、進行すれば寝たきりと進行するという説明に絶望。想像するだけでも苦しくなります。しかし小澤さんは決意します。<死ぬのは怖い。でも生きるしかない。元気でいられる時間が限られているなら、今を全力で楽しく生きていこうと決めた。>

全力で生きる日常の一部がパフォーマンスであり、連続していることと、あふれる明るさに観客全員が打たれます。全力で生きることはとても疲れます。へこたれることもあります。でもそれも全力の一部。だれかに助けてもらうのも全力の一部です。きっと明るさを与えれば、自分にも明るい笑顔と手が差し伸べられるはずです。

もし開催に行き詰まり、途方に暮れたら、一緒にやれる仲間を見つける。彼らのイベントに加えてもらう。持ち回りにすることでもいいでしょう。できることを、できる人が、できる時に。そしてできるカタチを創りだすことです。小澤さんの歌を聴いて、一緒に生きる日常を実感します。

筋ジスと闘い歌う小澤綾子ホームページ

自分のありようはパートナーの鏡

鈴木さとみさんは写真家を出発点に現在、見て・さわって・ねころがって感じる体感型インスタレーション作品を中心にアート活動を展開しています。

作品に包まれる鈴木さとみさん しあわせにあふれた景色も作品です。
作品に包まれる鈴木さとみさん しあわせにあふれた景色も作品です。

わたくしがアトリエゆにこことしてお会いしたのは2013年。パートナーである全盲の写真家鈴木淳也さんを先に知りました。淳也さんはさとみさんに触発されて写真の世界に入り、見えないからこそ撮れるフォトグラファーに。見えないから見える瞬間の表情、空間イメージに驚かされました。

鈴木淳也さんの作品 見えないからこそ撮れる至高の瞬間。連写ではなく今だと全感覚と感性でシャッターを押します。
鈴木淳也さんの作品 見えないからこそ撮れる至高の瞬間。連写ではなく今だと全感覚と感性でシャッターを押します。

さとみさんが淳也さんと結婚し、その感性から触発されて触覚を中心としたアート世界に入り込んだのがゆにここの世界。羊毛フエルトを小さな鈎針で少しづつほぐしたり、ひっぱったりして造形すると、見ても、触っても、実に穏やかな造形物「むにゅ」が生まれます。さとみさんは2014年からプロアーティストゆにこことして活動開始。脚光を浴びた淳也さんの写真は現在、休眠中です。本業の音響工学で博士号を取得し、オーディオ技術開発にまい進しています。おふたりはたがいに触発され、そこから切り開いていく自分を見つけています。アーティストとして淳也さんがまたいずれ出てくる時が来るでしょう。それもゆにここだからこそ。

前に出る。休眠する。お互いのハレ姿を映しこみながら生きていけば、それは常に成長となるはずです。

「Fantasia2017展」 2017年2月13日~2月18日での展示から。作品に入る体験ができるインスタレーションが大好評でした。

アトリエゆにここ時代のショートドキュメンタリー:2013年夏 筆者制作

UNICOCOホームページ

ハレと日常の間を創り出す

振付家・ダンスファシリテーターのくはのゆきこさん。このファシリテーターという名称を最近よく聞きますね。シンプルに言えば会議の進行役。でも自分も介入し、リーディングする。でもあくまで俯瞰して中立。わたくし自身も依頼されることがありますが、なかなか難しいものです。司会と言われれば、自分を消して進行できるのですが、ファシリテーションですから。それをダンス指導で行うとは、どんなことなのでしょう。

くはのゆきこさん@SHIBUYA
くはのゆきこさん@SHIBUYA

くはのさんは福岡の企業に勤務する普通の経理OLでしたが、人間関係に悩んでいました。発作的に飛び込んだダンスワークショップ。悩みと格闘しながら、ダンスとも格闘。数年後にはダンスを生業に切り替えました。未経験者のオトナの挑戦だからこその新しいアクションがそのままダンスに現れます。NHK Eテレ『障害者のための情報バラエティー「バリバラ」』番組内で、200人を超える様々な障害を持つ人たちのフラッシュモブを演出。ダイバーシティなダンスづくりの天才の誕生です。いろんな人を踊らせる。そう、自分自身が飛び込んだにんげんだからできるのです。つまりファシリテーターそのもの。彼女のワークショップは奇想天外。

フラッシュモブ?いえ爆裂記号カラダンスを上演中@三軒茶屋歩行者通路
フラッシュモブ?いえ爆裂記号カラダンスを上演中@三軒茶屋歩行者通路

輪になった10人ほどに与えられるテーマ。「今日の朝ごはんを踊ろう」ふりかけごはんに味噌汁…それを踊らされます。それを次々に。これを言葉だけなら全員分覚えられません。しかし踊っていくと全員分覚えられる。しかも順不同でも。カラダも脳も活性化し、エネルギーが溢れてきます。「自分の性格を踊ろう」こうなるともう自己紹介を超えた自分発見とオーバーホールが一気にやってきます。様々なるスタイルのワークショップをひっさげて、4月から東京進出。通称はくはっち。ワークショップの中心は「記号カラダンス」あらゆる人がじぶんらしく体を動かす自由度の高いものです。

今日の朝ごはんで熱気爆発。シブヤ大学ワークショップにて
今日の朝ごはんで熱気爆発。シブヤ大学ワークショップにて

くはっちは言います。「記号カラダンスにはルールもなければ間違いもない。参加者のみなさんはご自分のカラダでパッションのおもむくままに踊るだけ。そのカラダコミュニケーションがどれだけ素敵なことで周りもハッピーにすることか! その後の会話が弾まないわけがありません。ダンスが終わった後のたくさんの笑顔と笑い声に包まれることが、わたしの最高のご褒美です」

ファシリテーターをダンスでやることで見えてきたハレと日常生活の落差の間を埋めるもの。だれもがちょっとだけ意外な自分を引き出してみる。それを手伝ってみる。むしろ手伝うファシリテーターになることそれが落差を埋めるのではないでしょうか。

くはのゆきこ公式ウェブサイト(記号カラダンス、突然)

意外な自分を見つけに行きましょう

ハレと日常に活力を得たい。誰かと楽しみたい、楽しませたい。そうみんなが思うことと実現し、継続していくことが、きっと社会をいつまでも思いやりのある楽しいものにしていくはずです。身近な変化から始めるもよし、体験を探して街に飛び出すもよし。飛び出してみたい方にお勧めのイベントがこのGWのアタマに開催されます。

画像

ユニバーサルキャンプTOKYO2017。東京都心の品川駅港南口にある品川シーズンテラスを会場に、記事シリーズで紹介したパフォーマーたち、紹介できなかった素晴らしいアーティストたちによるエンタテイメント、体験プログラムそしてセミナーまで。かつてないダイバーシティイベントです。参加入場料は一部のセミナーを除いて無料。たくさんのプログラムラインアップから興味のあるものに参加してみてください。きっとあなた自身のパフォーマンスのスイッチが入ることでしょう。

ユニバーサルキャンプTOKYO2017公式ウェブサイト

このイベントは昨年紹介したユニバーサルキャンプin八丈島の発展形です。12年培ったイベントがいよいよ都心で大きな展開へ。八丈島とTOKYOそれぞれのイベント特性にも注目です。

参照記事:キーワードは「老人」。日本の近未来を創造するユニバーサルキャンプin八丈島報告。

記事シリーズ案内

今、アートで沸騰するダイバーシティ。(その1:美術市場報告)

今、アートで沸騰するダイバーシティ。(その1.5 美術の輝き)

今、アートで沸騰するダイバーシティ。(その2:パフォーマンス・アート報告)

最後に

今回のシリーズをまとめてみると、日本のアートシーン、イベントの現状における多様性と社会の多様性のつながりが視えました。多様さへの臆病さと平凡さ(一歩下がってしまう)から踏み出せない自分をどうしたらいいのか悩む人は多いこともわかりました。でも紹介した様々な個性を知ることで、ちょっとだけ臆病さを振り切り、平凡だけど自分らしさで前を向いてみれば、輪の中に入れそうです。これからもそういう視点を持って紹介していこうと思います。