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「ロミオとジュリエット」主演俳優、未成年ヌードをめぐり再びスタジオを訴訟。公開から56年

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
「ロミオとジュリエット」の主演俳優ふたり(Paramount Pictures)

 1968年の映画「ロミオとジュリエット」に主演したオリヴィア・ハッセーとレナード・ホワイティングが、未成年ヌードをめぐって再び訴訟を起こした。

 訴えられたのは、映画を製作配給したパラマウント・ピクチャーズと、DVDを販売するクライテリオン・コレクション。ハッセーとホワイティングは、2020年末にも、当時未成年だったのにフランコ・ゼフィレッリ監督からヌードになることを強要されたとしてパラマウントに対する訴えを起こしたが(ゼフィレッリは2019年に亡くなっている)、それとは別の訴訟だ。

 この新しい訴訟は、2023年に発売されたデジタル復刻版DVDをめぐるもの。デジタル化され、高画質になったことで、当時未成年であるふたりのプライベートな部分がより鮮明に見えるようになったと、原告は主張。このデジタル化は「古典映画を安っぽいポルノにした」というふたりは、デジタル化に同意していないのにあのような形でヌードがさらされたせいで、「ゼフィレッリの裏切りを再び思い出し、大きな屈辱を受けた」と述べている。

“裏切り”とふたりが述べるのは、先の訴訟にあったように、「ロミオとジュリエット」に出演を同意した時、ゼフィレッリは「ベッドルームのシーンでは肌色の下着を身につけ、実際にヌードになることはない」と言っていたからだ。しかし、撮影も終わりに近づいたある日、ゼフィレッリは突然ヌードになれと言ってきた。「そうしなければ映画はうまくいかない」「この映画には多額のお金が投資されている」「拒否したらこの後君たちはハリウッドから雇ってもらえなくなるだろう」とプレッシャーをかけられ、ふたりはしかたなくボディメイクを施され、ヌードで演技をしたのだという。

 15歳だったハッセーと16歳だったホワイティングにヌードを強要したのはゼフィレッリで、パラマウントは撮影現場の事情を知らなかったのかもしれないということは、ふたりも認識している。それでも、「パラマウントには違法に入手された未成年のヌードが含まれる映画を配給した責任がある」と、ふたりは先の訴訟で述べていた。長い年月が経ってから訴えを起こしたのは、「#MeToo」を受けて、カリフォルニアでは未成年への性虐待についての訴訟に関する時効が一時的に撤廃されたためだ。しかし、彼らが期限ギリギリに滑り込みで起こしたその訴訟は、表現の自由の範囲を越えないとして、判事から棄却されてしまった。

パラマウントは問題のシーンの削除を拒否

 最初の訴訟が起こされた時、ゼフィレッリの息子は、「高齢の俳優が、50年以上も経って、ある日突然、虐待のせいで何年も精神的な苦痛を味わったと言い出すとは」と、ふたりを批判するコメントをしている。しかし、ふたりの俳優は、「#MeToo」があり、社会の風潮が変わったおかげで、何もわからなかった自分たちはゼフィレッリに手懐けられ、搾取されて、映画に必要だからではなく彼が見たいからという理由であれらのシーンを撮影されたのだと気づいたと述べている。

 今回の訴訟のために新たに雇われた弁護士のひとり、ウィリアム・ロメインは、そういった屈辱に耐えてきたふたりは、デジタル化によって若い肉体のプライベートな部分をさらされたことについても、「これは間違っている」と思ったのだと語る。57年前に撮影現場で起きたことはその背景にあるが、この訴訟はあくまでデジタル化についてとのこと。弁護士らは昨年末にパラマウントに問題のシーンを削除するよう要求する手紙を送ったが、先月、パラマウントは拒否の返事を送りつけてきたという。パラマウント、クライテリオンは、今のところ、この件について何もコメントをしていない。

「ロミオとジュリエット」は、ハッセーとホワイティングにとって初めての主演作。アカデミー賞には作品、監督部門を含む4部門で候補入りし、衣装、撮影部門で受賞した。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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