Yahoo!ニュース

役をちらつかせて性行為を強いたハリウッドの「#MeToo」男たちは今どうしているのか

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
懲役23年を宣告されたハーベイ・ワインスタイン(写真:ロイター/アフロ)

「#MeToo」運動がハリウッドを騒然とさせてから、4年半。今、日本の映画界でも同じことが起き始めている。女性たちが声を上げ、日本でも、映画監督、プロデューサー、俳優らが、役をちらつかせて駆け出しの女優たちに望まない行為を迫っていた事実が暴露された。

「#MeToo」によってキャリアが大きく凋落した業界関係者はハリウッドに多数いるが、問題の行為には、撮影現場で性的なジョークを言う、体を触ってくる、目の前でマスターベーションをするなどいろいろあった。それらの行為が暴かれた後、男たちはみんな姿を消したものの、中には最近になって地味に仕事を始めている男たちもいる。たとえばダスティン・ホフマンは、今週、主演するインディーズ映画がアメリカで公開になるし、「#MeToo」でワーナー・ブラザースとの契約を打ち切られたブレット・ラトナーも、新作を監督しようと動き始めている様子だ。また、先週末のグラミー賞授賞式では、ルイス・C・Kがコメディアルバム賞を受賞した。ノミネートされた段階で批判が起きたにもかかわらず、受賞まで果たしたということは、少なくとも彼を許してもいいと思っている人は結構いるということだろう。

 しかし、役を人参のようにぶらさげ、何十人、あるいは何百人もの若い女性たちに被害を与えた男たちに対しては、そう甘くない。それらの男たちは、事実上、みんな業界を追放されている。訴訟を起こされ、刑事捜査の対象になり、中には実刑判決を受けて刑務所入りしたケースもある。

 一番厳しい罰を下されたのは、そもそもハリウッドで「#MeToo」が起きるきっかけを作ったハーベイ・ワインスタインだ。ハリウッドで最もパワフルなプロデューサーだったワインスタインは、ミーティングという名目で若手女優をオフィスやホテルの部屋に呼びつけ、性的な行為を強要した。躊躇する女性に対しては、有名な女優の実名を挙げ、「ほら、あの女優を見てみろ。俺の言うとおりにしたから、あそこまで成功したんだ」と説得している。それでも拒否されると、「あの女優はすごくやりづらい。雇わないほうがいい」などと悪評を流し、その女優のキャリアを潰した。まさにそんな仕返しのせいで「ロード・オブ・ザ・リング」に出演する機会を失ったアシュレイ・ジャッドは、「#MeToo」騒動が起きた後、ワインスタインを訴えている。

 ワインスタインに対する民事訴訟は、ほかにも複数起こされた。一方、刑事捜査はニューヨークとロサンゼルスでそれぞれに進められ、ニューヨークでは2022年、懲役23年の有罪判決が確定。昨年春にはロサンゼルスでも正式に起訴されたため、現在は護送先のロサンゼルスで服役している。

 かつて「オスカーを牛耳る男」とも言われたワインスタインは、映画芸術科学アカデミーからを追放され、妻からは離婚された。彼から被害を受けた女性の数は、名乗り出ただけで80人以上。有名どころでは、グウィネス・パルトロウ、アンジェリーナ・ジョリー、アーシア・アルジェント、ローズ・マッゴーワン、ミラ・ソルヴィーノ、ケイト・ベッキンセールなどがいる。

400人に被害を与えたジェームズ・トバック

 「バクジー」でオスカー脚本部門にノミネートされたジェームズ・トバックも、悪質だった。ニューヨークに住む彼は、手当たり次第に若い女性を狙っては密室に連れ込むということを日常的にやっていたのである。

 トバックが獲物を漁る場所は、街中だったり、大学の前だったり、公園だったりした。よく使った手口は、自分の映画のDVDや監督組合賞の会員証を見せ、自分は著名な監督だと語った上で、「次の映画に出る女優を探している」と誘うもの。そうやってホテルの部屋などに連れ込むと、オーディションだと言い訳をし、女性に服を脱ぐよう強要し、体を触ってきた。

 実際のオーディションでも、彼は、性的なシーンをもっと激しくやれと命じたし、映画のリハーサル中には女性を見ながらマスターベーションをしたという。彼から被害を受けた女性たちの多くは、映画界の現実に絶望し、女優になることを諦めたが、彼から誘われたことのある有名な女優には、ジュリアン・ムーア、レイチェル・マクアダムスなどがいる。

「次の映画に君がふさわしい」と街中で若い女性に声をかけ、被害を与えたジェームズ・トバック
「次の映画に君がふさわしい」と街中で若い女性に声をかけ、被害を与えたジェームズ・トバック写真:ロイター/アフロ

 トバックのセクハラについてはそれ以前にもメディアに取り上げられたことがあったが、「#MeToo」が起きた2017年10月に「L.A. TIMES」が38人の女性から聞いた話をまとめた記事を掲載すると、さらに395人の被害者が名乗り出てきた。ロサンゼルスの検察は彼への捜査を行ったが、被害者が協力しなかったり、時効になっているケースが多かったりして、起訴には至っていない。

 彼の最後の映画は、「#MeToo」直前にヴェネツィア映画祭でお披露目された「The Private Life of a Modern Woman」。知られるかぎり、今後の作品の予定はない。

演技クラスを利用して女生徒に手を出したジェームズ・フランコ

 自分の演劇学校に通えば、優先的に映画に出してあげる。そんなセールストークで役者志望の若者を募り、演技の勉強やオーディションという名目で女性に性的なシーンをやらせたのが、ジェームズ・フランコだ。

 人気俳優であるフランコは、自分のプロダクション会社を持ち、監督、プロデューサーとしても活躍していた。ほかにも、文学、芸術、学問など幅広い世界で活動する彼は、2014年、ニューヨークとロサンゼルスに演技の学校を設立。自分の映画を作る際、この学校で学ぶ生徒には特別枠を設け、一般のオーディションを受ける人たちより役をもらいやすくすると、彼はうたった。

 しかし、実際に役をもらえた例はほとんどなかった上、オーディションの告知が来たと思えばいつも売春婦の役。それらのオーディションではセックスシーンをやらされ、「後で検討するため」と言っては、フランコはそれらのシーンを録画した。また、自分がセックスの相手を演じる際、女性器を覆う透明のカバーを勝手に剥がしてきたこともある。最初の話になかったシーンを「ボーナスシーンの撮影だ」と言ってやるように命じ、拒否する女優は現場から追い出したこともあった。

 監督と女優の関係だけでなく、先生と生徒の力関係も悪用したフランコの行動が表に出たのは、2018年初め。それから1年半後、フランコは被害者女性ふたりから訴訟を起こされ、このふたりとフランコの学校の元生徒1,500人に対し、2,200万ドル(およそ25億5,000万ドル)を支払うことになっている。フランコは、今もまだ罪を認めていない。

ハリウッドの超大作にも出たジェームズ・フランコ。今後の出演作の話はない
ハリウッドの超大作にも出たジェームズ・フランコ。今後の出演作の話はない写真:Splash/アフロ

 彼の最後の出演作は、「#MeToo」前に完成していたインディーズ映画「ゼロヴィル」。この映画で彼は最悪の映画や演技に贈られるラジー賞に候補入りしている。ほかにも「#MeToo」前に撮り終えている映画があるが、公開予定はない。これから製作予定の、あるテレビ向け映画に、数多くのプロデューサーのひとりとして名前が入っているものの、実際にどこまでかかわるのかは定かでない。

 いくつもの映画でフランコと仕事をしてきたセス・ローゲンは、フランコの行動が暴露された直後、「これからも一緒に仕事をする」と発言していた。だが、その後、彼はその言葉を後悔。昨年5月、ローゲンは、イギリスの「Sunday Times」に対し、「虐待、ハラスメントには反対。そういう行動をする人をかばうことも、わかっていて誰かをそんな状況の中に追いやることも、僕はやらない。2018年のインタビューで、まだジェームズと仕事をするとコメントしてしまったが、実際にはその後、彼と仕事をしていないし、これからも予定はない」と語っている。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

猿渡由紀の最近の記事