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「フィールド・オブ・ドリームス」人気が再燃。ドラマ化、来年の試合も決定

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
(Universal)

 先週のメジャーリーグの試合をきっかけに、「フィールド・オブ・ドリームス」の人気が再過熱している。

 ケビン・コスナー主演の1989年の映画にオマージュを捧げ、映画の舞台であるアイオワ州に作られた球場で行われたホワイトソックス対ヤンキースの試合は、アメリカで、テレビとストリーミングを合わせ、なんと590万人の視聴者を集めた(アメリカでは、視聴率をパーセンテージではなく人数で表記する)。メジャーリーグのレギュラーシーズンの試合としては、2005年以後、最高の数字だ。試合を放映したフォックス・スポーツによると、広告収入も、メジャーリーグのレギュラーシーズンとしては自社最高記録だったという。ただし、フォックスは、具体的な数字は公表していない。また、試合の後、「フィールド・オブ・ドリームス」のDVDとブルーレイの売り上げは、Amazonで3000位台から一気に6位にまで上昇している。

 9対8の接戦でエンディングもドラマチックだったが、この試合はスタートもすばらしかった。コスナーは、試合の1時間前の特番から出演。映画でシューレス・ジョー・ジャクソンを演じたレイ・リオッタは、出演こそしなかったものの、この日のために作られた短いビデオのナレーターを務めていた。いよいよ試合が始まるという時、カメラは、とうもろこし畑の中を歩くコスナーを背中からゆっくりと追い始める。背後に流れている音楽は、映画のテーマミュージック。くぐりぬけた先にあるのは、まさに映画で見たような球場だ。彼はゆっくり、マウンドに向かって歩き続ける。そしてある時、ふと振り返ると、これまた映画のように、とうもろこし畑から選手たちが出てくるのだ。この演出がなんとも興奮させるのである。コスナーは、その後の感動のスピーチを、「Is this heaven? Yes, it is」という言葉で締め括った。もちろん、映画に出てくる「Is this heaven? 」「It’s Iowa」という会話のやりとりを受けたものだ。

 この大反響を受けて、MLBは早くも、来年もまた「フィールド・オブ・ドリームス」試合を開催すると発表。具体的な日程は後に発表されるが、8月を狙っているとのことだ。対戦チームに関しては、カブスとカーディナルスになるのではとの憶測がなされている。

 そんな中で、今度は、ユニバーサルが「フィールド・オブ・ドリームス」をドラマシリーズ化すると発表した。製作総指揮を務めるのは、映画のプロデューサー、ローレンス・ゴードン。「グッド・プレイス」のマイケル・シュアが脚本と製作総指揮を手がける。ユニバーサル・テレビジョンのプレジデント、エリン・アンダーヒルは、シュアについて、「才能豊かで野球愛に満ちた彼こそ今作にふさわしい」と述べている。シリーズは、NBCユニバーサルのPeacockで配信されるということだ。

 昨年7月に立ち上げられたPeacockは、東京オリンピックが1年延期になってしまったことで、話題作りや会員獲得に苦戦してきた。オリンピック開催で狙い通りに会員数を増やしたものの、オリジナル作品においては、まだまだディズニーのDisney+やワーナーメディアのHBO Maxに遅れを取っている。突如訪れた「フィールド・オブ・ドリームス」再ブームを、彼らは待ってましたとばかりに受け止めたのだろう(ひと足先に、Peacockでは、やはりユニバーサルのヒット映画である『テッド』のドラマシリーズ企画にゴーサインが出されている)。

「なぜ?」「想像力の欠如」などさまざまな反響

 だが、この企画について、人々の受け止め方は、さまざまのようだ。ソーシャルメディアで最も目に付くのは、「なぜ?」というコメント。愛された作品がリメイクされる時に、必ず聞かれる言葉である。「最悪の企画」「やめて!だめ!ハリウッドよ、新しいアイデアを思いついてくれ。クラシックをめちゃくちゃにしないで」と、猛烈に反対するものもあった。逆に、「すばらしい映画がどんなドラマシリーズになるのか楽しみ」「怖くもあるけど、エキサイティングでもある」と期待を示す人もいる。また、「『フィールド・オブ・ドリームス』試合の視聴率は、単にノスタルジアの反映。そこに乗っかろうとするのは愚かで、想像力の欠如」「1回の試合が成功しただけでスタジオは飛びついたんだね」など、皮肉る声もある。

 このように賛否両論ではあっても、人々の話題に上ったことはたしかだ。今後、キャスティングなどが発表されるたびに、このタイトルは注目されることになると思われる。制作のスピードによっては、来年の「フィールド・オブ・ドリームス」試合に合わせて、なんらかのプロモーションもあるかもしれない。それはまた新たな話題を呼び、おそらく新たな世代の観客を呼び込むことになるだろう。公開から32年を経た今、「フィールド・オブ・ドリームス」は、第二の人生を歩もうとしているのだ。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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