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北米でも8位デビュー。スタジオも白旗を上げた「47RONIN、」苦悩の製作過程

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト

「47RONIN」が、クリスマスにアメリカでも公開された。1位は2週間前に公開された「ホビット 竜に奪われた王国」で、「RONIN」は8位。西海岸時間28日現在、初日5日間の売り上げはわずか2100万ドルと見込まれている。一歩先に公開された日本でぱっとしなかったこともあり、ユニバーサルもほぼ期待は捨てていたようで、映画にとってハイシーズンであるクリスマス時期にも関わらず、ライバル作品のように新聞に毎日広告を出すことも、派手なビルボード広告を掲げることもしなかった。「Variety」によると、ユニバーサルは「RONIN」の製作費を早々と前四半期に計上したとのことだが、それは映画が利益を生むことはないと思われる場合に取られる、いわば白旗を上げる行為。「RONIN」の製作費は1億7500万ドルとされているが、業界サイト「The Wrap」は2億2500万ドルにもふくれあがったと報道している。いずれにしても、2013年、1億5000万ドル以上をかけた映画の中で、最も売り上げの低かった作品になったのはたしか。宣伝費ほかのコストを含めると、全世界で5億ドルを稼がないかぎり、元が取れない計算だ。マレーシア、シンガポール、タイ、台湾では1位デビューを果たしたものの、現在、北米外からの売り上げはトータルで600万ドルにしか達していない。

製作上のトラブルは、早くからレポートされていた。もともとは昨年11月の感謝祭シーズンに公開される予定だったが、再撮のために今年2月に延期され、さらに、今年のクリスマスに延期された。再撮は主に、クライマックスのバトルシーンでキアヌ・リーブスをもっと多く出すために行われたようだ。再撮を担当したのは、セカンド・ユニット監督フィル・ニールソン。当時、カール・リンシュ監督は事実上クビにされ、ユニバーサルのトップがポスト・プロダクションのコントロールをすると報道されたが、実際にはリンシュは編集作業にもたずさわったらしい。いずれにしても、DGA(監督組合)の規定で、撮影を終えた以上、監督を降ろすことはできない。

リンシュは、今作で長編映画デビューを果たした新人監督。ハイネケンやBMWのCM、ミュージックビデオで名を馳せ、2010年の短編SF映画「The Gift」でハリウッド業界人の注目を集めた。リドリー・スコットの娘と交際していた時期もあり、「プロメテウス」の監督候補に挙がったが、20世紀フォックスが同意せず、結局はスコット本人が監督を務めている。ワーナー・ブラザースも「2300年未来への旅」のリメイク版をオファーしたが、「RONIN」とスケジュールがぶつかるため、降板したとの報道もある。リンシュは、「RONIN」の製作トラブルについて、いっさいコメントをしていない。

製作上のトラブルや公開の延期の報道は、映画にネガティブなイメージをもたらすが、必ずしもそのとおりになるとは限らない。今年夏に公開された「ワールド・ウォーZ」も、予算オーバーや再撮、マーク・フォースター監督とブラッド・ピットの不和説などで、失敗作の烙印を早くから押されていたが、結果は全世界で5億4000万ドルのヒットとなり、続編の企画も進んでいる。ただし、フォースターの続投はないようだ。

*西海岸時間12/30/13アップデート:週末が終わった後の実際の集計によると、「47RONIN」の5日間の北米興収は、推定をやや下回る2061万ドルで、9位だった。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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