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フィンランドがNATO加盟を表明。ロシアはガス停止で対抗+製鉄所からイーロン・マスクへの支援要請

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家
来日したフィンランドのサナ・マリン首相と岸田首相。5月11日(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

5月12日は、欧州と日本の今後の流れを変えそうな、大きな動きのある一日だった。

フィンランドが日曜日にNATO加盟を申請予定

フランス、ドイツ、エストニア、ポーランド、チェコ、ルーマニアなど各国首脳から、またNATO事務総長、EU大統領など、次から次へと支持が表明された。

アメリカも同様である。

上院の民主・共和両党の主要メンバーは、木曜日にフィンランドのNATO加盟プロセスを支援することを約束した。民主党外交委員会のボブ・メネンデス委員長は、「もしスウェーデンとフィンランドがNATO加盟を申請することになるなら、当委員会はすでに迅速な投票を確保するために動いている」と述べた。同委員会の共和党ナンバー2であるジム・リッシュ氏も、「このプロセスではフィンランドを支持する」と公言している。

ロシアは反発した。ロシア外務省は、もしフィンランドが加盟した場合、ロシアは「国家安全保障に対する脅威に終止符を打つため、軍事技術的およびその他の措置を相互に講じる義務がある」と、午後の声明で述べた。

さらに、NATOが「わが国に対する軍事的脅威のもう一つの側面」を作ろうとしていると非難し、「ヘルシンキは、このような決定の責任と結果を認識しなければならない」とも述べた。

ペスコフ露大統領府報道官は、ロシアの対応は「このプロセスの実際的な結果、つまり国境に向けた軍事インフラの前進」による。さらに、「これらのことはすべて、具体的な分析と、状況を均衡させるために必要な措置を練るための要素になるだろう」とした。

ガスを脅しに使うロシア

また、エネルギー問題をめぐっても緊張が走った。

ロシアのガス大手ガスプロムは11日、ロシアに課された欧米の制裁への報復として、ポーランド経由で欧州に向かうガス輸送の主要パイプラインの使用を停止すると発表した。

この主要パイプラインとはヤマル・ヨーロッパと呼ばれるものである。今回停止するのは、ベラルーシとウクライナ、ポーランドを通過して、ドイツに到達するラインである。もう既に、ポーランドへのガス輸送は止めていたが、ドイツへは止めていなかった。

事業者によると、ドイツでは、ウクライナ経由のガス配送量が、2日間で約40%減少した。ロシアのガス大手・ガスプロムは11日、このルートで欧州に届けられる量が、前日の18%から12日木曜日には約30%減少することを確認した。

ベルリンは、ガスを脅しに使っているとロシアを非難している。モスクワとキエフも、この落ち込みを互いに非難している。

強弁するプーチン大統領

プーチン大統領はこの日、経済問題についてのネット会議において、制裁によってモスクワよりも西側がより大きな被害を受けると述べた。

制裁では、ロシアよりも西側が苦しんでいると述べ、ロシア経済は「外的課題」に直面しても回復力があると誇った。

「制裁の立案者は、膨張した盲目の野心とロシア恐怖症に導かれて、自国の国益、自国の経済、自国民の繁栄に、より強い打撃を与えている」、「欧州のインフレ率が急上昇し、一部の国では20%に近づいていることを見れば、このことがよくわかる」、「制裁にこだわり続けることは、EUやその市民にとって最も困難な結果を招くことは必至だ」と述べた。

英国の防衛協定

そんな中、英国のジョンソン首相は、11日にハープスンド(スウェーデンのストックホルム西方にあるスウェーデン首相マグダレナ・アンデションの夏の別荘)とヘルシンキを訪問し、北欧二カ国との相互防衛・保護協定に調印した。

スウェーデンやフィンランドは、ロシアの反応を心配している。正式加盟までには早くても数ヶ月はかかり、その間にロシアがどのように出てくるか、特に飛び地のカリーニングラードを心配しているのだ。

NATOへの加盟が拒否されたウクライナにこれほどの援助が送られるのだから、もしロシアが何か起こしても、NATO加盟国が両国を援助はするのは間違いない。英国のこの協定は、英国の空軍・海軍・陸軍が、兵士も含めて出動する可能性を否定していないことが、異なる点である。

英首相がスウェーデンを訪問、アンデション首相と安保合意文書に署名した。5月11日
英首相がスウェーデンを訪問、アンデション首相と安保合意文書に署名した。5月11日写真:代表撮影/ロイター/アフロ

安全保障を提供するこの構想により、ジョンソン首相は自国が欧州の防衛において大きな役割を担っていることを示した。

これを優れたリーダーシップで外交上手と見るか、EUから離脱して独自アピールに必死と見るか。アメリカから要人が来ても、ブリュッセルにやって来てロンドンには行かないことがスタンダードになっている。英国はNATOの会議には参加できるが、米国要人が来れば必ず行われるEUとの会合には参加できないのだ(ウクライナ戦争以降、「招待」されることがあるという)。

ウクライナの立場

フィンランドやスウェーデンのNATO加盟はこれほど欧米に歓迎され、ピッチをできる限り早めて加盟させようとし、英国は軍を派遣する可能性まで見せて厚遇している。これを見て、ウクライナの心境は大変複雑だろう。

ウクライナのクレバ外相は、この日、加盟交渉に長い時間がかかるとしても、EUに自国の「予約された場所」を確保するよう呼びかけた。

クレバ氏はドイツ公共放送ARDで、「ウクライナはヨーロッパの家族の一員であるとよく聞きますが、今はこの場所をEUの中に確保することが重要です」、「ウクライナが一刻も早くEUに加盟するという話ではないが、ウクライナのためにこの場所を確保することは非常に重要だ」と述べた。

キエフはロシアの侵攻が始まって数日後の2月28日にEU加盟を申請したが、西側加盟国の中には、ウクライナに候補者資格を与えることに難色を示す国もあり、速やかな加盟は却下されている。

マクロン大統領は9日(月)、ベルリンで、ウクライナのような国がEUに加盟するには「何十年も」かかると述べ、その間は、2020年にEUを離脱する英国も含むことができる「欧州政治共同体」に加わるべきだと示唆した。ドイツのショルツ首相もこの考えを支持している。

来日するEUの要人二人とフィンランド首相

首相官邸での会談に先立ち、岸田首相に挨拶するデアライエン欧州委員会委員長とミシェル欧州理事会議長。5月12日
首相官邸での会談に先立ち、岸田首相に挨拶するデアライエン欧州委員会委員長とミシェル欧州理事会議長。5月12日写真:代表撮影/ロイター/アフロ

この日はEUのミシェル大統領、デアライエン欧州委員会委員長、そしてフィンランドのマリン首相が訪日している。

マリン首相は、国の位置を変えることはできないが、政策は変えることができると語った。

彼女がこの大事な時期に日本にやってきたのは、日露戦争のときにポーランドが日本に協力を申し出たのと、基本的な発想は同じだろう。ロシアをはさんで東にある国・日本、西にある国、ポーランドやフィンランド、そしてEU。

ミシェルEU大統領はNHKへのインタビューに「プーチン大統領は多くの間違いを犯した。彼はEUがただちに分裂すると考えたが、そうはならなかった」と述べた。岸田首相は、日本とEUは力強い前向きなメッセージを発信すると言った。

一方国連では、同日は、ジュネーブの国連人権理事会で、ロシア占領軍による残虐行為の疑いに関する調査の開始が承認された。賛成33票、反対2票(中国、エリトリア)、棄権12票で決議は採択された。

これは、3月初旬に結成されたウクライナに関する特別委員会に対し、2022年2月末と3月にキーウ、チェルニヒフ、ハルキウ、スミィの各地で起きたロシア軍とされる深刻な人権侵害について「調査」するよう求めたものである。この調査は、すでに行われている国際刑事裁判所とウクライナ当局の調査に加えられるべきであるとする。

日EUの首脳会談では、人権侵害に対しても共に協力すると確認したことから、この方面でも両者は共に歩むことになるのだろう。

と言ってるそばから、世界でも人権侵害が最も深刻といえる隣国、北朝鮮が3発の弾道ミサイルを発射した。韓国の新大統領就任の動きと関係があるのか、ウクライナ戦争とも関係があるのか。初めて金正恩氏がマスクをして現れ、コロナ禍の存在を認めた日でもあった。

欧州でも日本でも、「風雲急を告げる」かのような1日だった。

※マリウポリで包囲された司令官がイーロン・マスクに助けを求める

マリウポリのアゾフスタル製鉄所で、ロシア軍に包囲されている戦闘員の中のウクライナ人指揮官のセルゲイ・ボリナ氏は、11日、米国の億万長者イーロン・マスクに、支援を直接ツイッターで訴えた。ソーシャルメディアで今話題になっている。

イーロン・マスクへ。不可能と思えることを信じることを教えるために、あなたは他の星から来たと言われている。我々の星は隣同士である。私が住んでいる場所では、生き残ることはほとんど不可能だ。アゾフスタルから仲介国へ脱出するのを助けてくれ。あなたでなければ、誰ができるのか? ヒントをくれ。

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。前大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省関連で働く。出版社の編集者出身。 早大卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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