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アストラゼネカ製コロナワクチン、仏独伊西など、15カ国以上で使用を一時中止。EUの決定は?

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家
アストラゼネカ社のワクチン。回数の問題が起きたあと、ラベルが変わった??(写真:ロイター/アフロ)

3月15日、フランスとドイツが、アストラゼネカ社製のワクチンの投与を、一時中断した。同日午後には、イタリアとスペインも続いた(同社はイギリス&スウェーデンの会社)。

数日後の3月18日(木)に、欧州連合(EU)の機関である「欧州医薬品庁(EMA)」の臨時会議があるという。それまで一時中止ということになっている。

今までこのEU機関は「同社製のワクチンは安全である」としてきたが、次から次へとこのワクチンの投与を中止する国が増えたため、新たな対応を迫られたのである。

15カ国以上が一時中止

一時中止している国は、一般的に日本で報道されているより、ずっと多い。

筆者がフランスの報道で把握しているのは、デンマーク、ノルウェー、アイスランド、オーストリア、さらにエストニア、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルグ、ブルガリア。アイルランド、オランダ、そしてフランスにドイツ、イタリア、スペイン。欧州で15カ国ある。

欧州の国以外では、タイが12日(金)に使用中止、コンゴ共和国が投与を延期した。

今回、フランスとドイツ、欧州医薬品庁の三者は、足並みをそろえたと考えるべきだろう(イタリアとスペインも?)。当初は、欧州医薬品庁の発表は16日(火)とされたのだが、すぐに18日(木)に変更となったという。

デンマークから始まりドミノ倒しのように

皮切りだったのは、デンマークである。3月10日(水)に、ワクチン接種を受けた60歳の女性が血栓を形成して死亡したことを受けて、同社のワクチン接種すべてを、2週間停止した。

この動きは、「アストラゼネカ社のワクチンを接種した人々の間で血栓の重篤な事例が報告されたことを受けたものである」と、デンマーク保健当局は声明で述べている。

しかし、「現時点では、ワクチンと血栓の間に関連性があるとは判断されていない」と慎重に付け加えている。

ノルウェーもすぐに追随し、同社のワクチン接種をすべて中止した。アイスランドやブルガリアも同様である。

ノルウェーでは14日(土)に、デンマーク、アイスランド、ブルガリアと同様に、同社のワクチンを接種した比較的若い人たちに、皮膚の出血が見られた事例について懸念を示した。しかし、ワクチンとの関連性はまだ確立されていない。

オーストリアでは、49歳の看護師が、注射を受けた数日後に「重度の血液凝固障害」で死亡したことを受けて、同社製ワクチンの使用を中止したことを発表した。別の35歳の女性は、ワクチン接種後に肺に血栓ができたが、回復しているともいう。

また、エストニア、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルグの4カ国も、使用を停止した。

欧州医薬品庁(EMA)によると、問題のバッチ(セット)には100万回分が含まれており、EU17カ国で配布されたという。

安全なのか否か、揺れる国々と組織

このころから、フランスではほぼ毎日のように、アストラゼネカ社のワクチン問題を、トップニュースの扱いで報じていた。もう同社製のワクチン投与は始まっているのだ。これは大問題だ。

因果関係は証明されていないこと、欧州医薬品庁は「安全だ」と認めていること、具体的に症状が出たのは◎人中◎人など、具体的な数字をあげて、説得につとめていた。

このような事態になるもっと前から、同社製のワクチンは、フランスやドイツ等で、65歳以上の投与をしない方向になったり許可したり、揺れていたのだが。

薬剤疫学教授であるスティーブン・エバンス氏(London School of Hygiene & Tropical Medicine)はロイター通信に対し、「これはヨーロッパでの、いくつかの孤立した報告に基づく超慎重なアプローチである」と述べた。

「ワクチンの副作用が疑われる自発的な報告の問題点は、因果関係と偶然を区別することが非常に難しいことです」と述べ、コロナウイルスによる病は、血液凝固と非常に強く関連していると付け加えていた。

14日(日)にはアイルランドが投与を中止した。さらにイタリアでは、前日にワクチンを接種した教師が死亡したことを受けて、日曜日にワクチン接種を大変短い間停止した後、イタリアのピエモンテ州(北西部)ではワクチン接種の再開を決定した。しかし、予防措置として同社のワクチンを除外した。

イタリア医薬品庁のトップ、ジョルジオ・パル氏は、同社のワクチンが「いかなるリスクもない」と断言し、「発生するリスクよりもメリットが大きい」と考え、「感情論」を乗り越えて「科学的データ」に基づくことを呼びかけた。

このように次々と一時中止の国が続いたことで、アストラゼネカ社は14日(日)に声明を発表した。

それによると、「同社のワクチンを、EUおよび英国で接種した1700万人以上の利用可能なすべての安全性データを慎重に調べた」結果、特定の年齢、性別、バッチまたは国のグループにおいて、肺塞栓症、深部静脈血栓症(DVT)または血小板減少症のリスクが増加したという証拠は得られなかった」と述べている。

一方、EUおよび英国では、ワクチンを接種した人に、血栓症(DVT)や肺塞栓症が報告されているが、「この規模と、類似した規模の一般の集団で自然に発生するよりもはるかに少ない」としていた。

12日(金)、世界保健機関(WHO)はこのワクチンを「使用しない理由はない」と断言した。

EU機関が再検討を決定

欧州医薬品庁(EMA)は、「英国での約500万回の予防接種の中で観察されたアナフィラキシーの可能性がある41件の報告」のうち、少なくともいくつかについては「おそらく」因果関係があるとしている。

その中では、重度のアレルギーがワクチンの副作用の可能性のリストに追加されるべきだが、ワクチンはまだ安全であると主張していた。

しかし上記の事態を受けて、欧州医薬品庁(EMA)は、3月15日(月)のプレスリリースで、同社製のワクチンと、接種した人に血栓が現れることとの関連性の可能性に関する調査の結論を出すため、18日(木)に臨時会議を開催することを発表した。

WHOのほうは、各国にワクチンの使用継続を呼びかけつつ、16日(火)に専門家グループを招集する予定である。

なぜ北欧の国々がリードしたのか

今回の一時中止の動きは、デンマーク、ノルウェー、アイスランドと、欧州の北の国々から始まっている(このうちデンマークだけがEU加盟国)。

なぜ北欧の国々がリードしたのかという質問に、アンヌ・セヌキエ医師(IRIS / Institute for International and Strategic Relations のGlobal Health Observatoryの共同ディレクター)が答えている。

「北欧諸国の当局は、普通ではないことに注意を払い、我々よりも包括的なのです。健康への注目度はグローバルであり、特に『健康と安心(well-being)』の分野ではそうなのです。

自然の代替医療は、欧州の南の国よりも北の国で多く行われています。実際、彼らは住民と医療機関の間の信頼関係を維持し、公共の場で疑問を投げかけることができる能力をもっています。

フランスでは、疫病への対応が政治化しており、マスクやワクチンなどの失敗を指摘して、責め合うことに時間を費やしています」

これからEUはどう対応するのか

一方、EUの行政機関である欧州委員会は、EU加盟国の平等を基礎に、EU単位でワクチンの調達をはかっているが、なかなか上手くいっていないのが現状だ。

このように、EU加盟国というより、北欧という地域の国々がリードすることで、EUに組織的な影響を与えないのかという質問には、「そのようなことはないでしょう」と言っている。

「健康に関する真のヨーロッパの組織は、パンデミックが始まって以来、欠けていたものです。『健康のヨーロッパ』は、徐々に構築されているとはいえ、まだ存在していません。欧州医薬品庁(EMA)は、EU加盟国でのワクチンの使用を認可することを目的としています。とはいえ、各国の主権が尊重されているので、各国の行動は自由なのです」と語っている。

コロナ禍になって、国家主権が表に立つ傾向があり、影が薄くなっているEUであるが、パンデミックは初めての体験であり、これから少しずつ足並みを揃えていく可能性がある。EUは一致団結すれば、アメリカと同じくらい世界に影響力のある組織である。日本にも影響をさらに与えるのは必至となる。

今後どのように推移していくのか、注目していきたいと思う。

<追伸>

この件は、先週から毎日大きくフランスで報道されており、大変重要なニュースなのはわかっていた。しかし、既に接種した人もいるのだし、日本でも投与が予定されているワクチンであり、医学の専門家ではなく、大組織の中で科学部のチェック等を受けられる環境も可能性もない自分が書くのはどうかというためらいがあり、記事にしなかった。

一方で、日本ではあまり報道されていないようで、なぜこんなに欧州の情報は少なくて遅いのかと、もどかしい思いをしていた。

今回、フランスとドイツが同時に動き、EU機関である欧州医薬品庁が改めて検討するというニュースを聞いて、書くことに決めた次第である。

<引用・参考資料>

France 24(国際ニュース専門チャンネル)

Covid-19: Several European countries suspend AstraZeneca vaccinations over blood clot fears

Le laboratoire AstraZeneca annonce une nouvelle baisse des livraisons en Europe

France Info(公共放送)

DIRECT. Covid-19 : l'Agence européenne des médicaments se prononcera jeudi sur les soupçons d'effets indésirables liés au vaccin AstraZeneca

Ouest France(最も部数が多い地方紙)

Coronavirus. Ces pays qui suspendent l’utilisation du vaccin AstraZeneca jusqu’à nouvel ordre

Marianne(週刊誌)

Pourquoi seuls les pays nordiques en Europe ont suspendu le vaccin d'Astrazeneca

欧州医薬品庁(EMA)

EMA’s safety committee continues investigation of COVID-19 Vaccine AstraZeneca and thromboembolic events – further update

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。前大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省関連で働く。出版社の編集者出身。 早大卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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