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ライエン委員長による現状報告。欧州議会は非常措置の採択へ。:ブレグジット

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

16日(水)、欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長は、がらがらの欧州議会で、現在の状況を議員たちに報告した。

<ライエン委員長の動画のリンクはこちら。>

「われわれは大部分の問題について前に進む方法を見いだしているものの、依然として2つの問題が残っている。それは公正な競争条件と漁業権だ」「今後の数日が決定的に重要になる」と述べた。

彼女はまた、「基準に関して(現在共有している水準から引き下げない)非退行の強力なメカニズムで合意した(a strong mechanism of non regression/mécanisme musclé de non régression)。これは大きな前進だ」とも述べた。

ただ、全部の分野というわけではない。仏誌『キャピタル』によると、デア・ライエン委員長は英国は、環境、社会(や労働)の分野では「非退行の強力なメカニズム」を受け入れているというが、これはつまり、他の分野はまだわからないという意味になる。

確かにライエン氏のいうように「大きな一歩の前進」とは言えるだろう。でも、EU側は英国の規制緩和によるダンピングを警戒しているし、英国側は縛られて自由にアメリカ等と交渉できなくなるのを警戒しているし、主張の違いはまだ平行線だ。

また彼女は「ガバナンスに関連した問題がおおむね解決されつつあることを報告できるのは喜ばしい」と語った。

このことも、詳細はわからない。EU側は、古典的な仲裁手続による紛争解決を待たずに、関税などの対抗措置を取れるようにしたいと考えているのだが(それでも紛争が解決しなかったら、欧州司法裁判所の出番を望んでいるのだろうか)。

国家補助金についても、「共通の原則」と双方の実施の保証があることで進展が見られた、とライエン委員長は語った。国家補助金制度については、EUは非常に厳しい。英国が企業への補助金の洪水の門を開くことを警戒して、拒否しているのだ。

漁業問題について交渉は依然として非常に厳しい」と指摘、「時々、解決策が見つからないと感じることがある」とライエン氏は認めた。

漁業問題は、移行期間や再交渉期間など、あらゆる面でブロックされたままである。英国は毎年の交渉を望み、ヨーロッパは拒否している(ただ、毎年の交渉となると、関連する種は数百種もあり、これが問題となる可能性もある)。

あるEUの高官によると、英国は、EUの漁船による3年間にわたる英国水域への段階的アクセスを申し出たが、拒否されたという。この問題に関して両陣営はかけ離れている。

また、英国側は、スペインやオランダ等が所有する英国籍の船舶や乗組員の国籍についても譲歩を求めている。

どのみち、メルケル首相やフランスのクレマン・ボーヌ欧州相も言うように、今週末までに本当にある程度の決着をみないといけないだろう。

欧州議会が非常措置を採決する

英紙『ガーディアン』によると、バルニエ氏は3つのシナリオがあると説明していたという

1つ目は、今週末までに合意が成立し、12月28日の欧州議会での批准を可能にすること。

2つ目は交渉が決裂すること。

3つ目は、年末に合意が成立し、2021年に欧州議会の同意を得て、合意なしの離脱を避けるために「暫定的に適用」されることだという。あるいは、合意なしと批准の間のギャップを埋めるために、何か措置を講じることも可能である。

おそらく、「仮に今週末までに合意が成立しても、それは大筋であり、とても全部は無理だろう。それに、まだ合意なしの可能性は残っている」ーーと判断したのだろう、16日の『ウエスト・フランス』のニュースによると、欧州議会は18日に、EUー英国間の航空と道路のコネクションに関して、一時的な措置についての採決を行うという。

EUが発表した「非常措置」にのっとっているが、本当に「合意なし」になってしまったら、何もしないままだと、両者の空とユーロトンネルのコネクションは消滅してしまいかねないのだ。一台の飛行機も飛ばず、一台のトラックも海峡を渡れず・・・である。

両者の交通を持続するには、ライセンスと安全性証明の二つが必要になるが、これを一時的に延長するという案を、議会で採決にかけるのだ。これが可決されれば(されるに決まっているが)、2021年6月30日まで今まで通り有効となる。

英国籍事業者に、大きな制限

ただし、ある特定のポイントでカボタージュ、つまりここでは、英国の航空や運送などの事業者が、「外国」に相当するEU地域内で輸送することが、制限・禁止されることとなる。

今までは英国はEU加盟国だったので、EU内は飛行機も輸送トラック等の車も、ほぼ自由に動き回れた。しかし今後は制限がかかるのだ。

具体的には、最初の2ヶ月間は、英国籍の事業者は、英国ーEUの輸送のあと、EU内で2回の運行が可能である。その後の3ヶ月間は1回、その後はゼロとなる(「合意なし」なら、欧州の格安航空の草分け「イージー・ジェット」は本当に存亡の危機になるだろう)。

ただし飛行機の場合、医療の理由に限っては、英国ーEUの輸送の後なら、EU内の輸送が認められる。

鉄道輸送に関しては、欧州議会は既に10月、政府間委員会にトンネルの安全性に関する主要な権限を残しながら、フランスに対して、英国との間で固定鉄道輸送(ユーロスター等)のガバナンスに関する新たな国際協定の交渉を行うことを認める法案を採択している。

国内市場法、また一波乱の前兆

「連合王国の分裂の危機」を呼び起こした、国内市場法。

貴族院が下院の決定に抵抗したが、結局貴族院と政府との間の長い論争の後、妥協点に達した。要は貴族院が負けたのだと、BBCが報じている。今後下院に戻されるが、採決される可能性が高いという。

このことに、早くもウェールズ自治政府が抗議の声をあげているという

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。前大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省関連で働く。出版社の編集者出身。 早大卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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