Yahoo!ニュース

真に現場で何が起きたのか、詳細報告:サッカー人種差別問題で選手全員退場、パリSGとバシャクシェヒル戦

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家
ピエール・ウェボ氏(写真:ロイター/アフロ)

12月8日にパリで開催されたチャンピオンズ・リーグのグループステージ最終節は、サッカー史上初の出来事が起きた。

パリ・サンジェルマンとイスタンブール・バシャクシェヒルの一戦だったが、人種差別に抗議して、選手が全員退場したのだ。

ただ、日本語情報を見ていると、実際に起きたことについて情報が不十分なように思うので、この稿を書いている。

この原稿の内容は、12月9日フランス2(NHKに相当)の、夜のメインニュースでの報道をもとに執筆している。

当日の経緯

試合が13分くらい経ったときのことである。

第4審判であるルーマニア人のセバスチャン・コルテスク氏は、トルコチームのアシスタント・トレーナーがあまりにも文句を言いすぎると、主審にマイク(無線)で伝えた。

「あそこの黒人だ」「誰だか見にいけ」「あんな振る舞いはありえない」。

この音声がニュースで実際に流れたが、雑音はあるし、複数の音声がかぶっている感じではっきりわからないが、おそらくルーマニア語なのだろう。少なくとも英語には聞こえなかった。

この「文句を言いすぎるトルコチームのアシスタント・トレーナー」で「黒人」とは、ピエール・ウェボ氏のことだった。

何に文句を言っていたのかというと、「相手DFプレスネル・キンペンベのハードチャージに、ウェボ氏が激昂した」という報道がある。おそらく本当だろう。このフランスのテレビニュースでも、ナレーションには登場しなかったが、画面にキンペンベ氏のプレイが写真で流れたので。

ところが、コルテスク氏のマイクでの発言の中に、ウェボ氏は「ネグル」という言葉を聞いて、激昂してピッチに出てきたという。

彼は英語で「なぜネグロと言うんだ!?(Why say negro?)」と、何度も同じセリフを叫んで怒っている場面の録画ビデオが、テレビで流れた。

つまり流れとしては、以下と思われる。

1、キンペンベ氏のプレイを見てウェボ氏が激昂。

2、その激昂の様子を見て、コルテスク氏がマイク(無線)で、主審におそらくルーマニア語で問題の「あそこの黒人だ」「誰だか見にいけ」「あんな振る舞いはありえない」等の発言。

3、その発言をマイク(無線)で聞いたウェボ氏が、さらに激昂して英語で抗議しながらピッチに出てきて、試合は中断。さらに英語で抗議を続ける。

直後の展開

英語では「ネグロ・ニグロ」はひどい差別用語で、侮蔑語である。

キリアン・エムバペ氏は「もし本当にそう言ったのなら、審判は退場するべきだ」と抗議した。

コルテスク氏は「ルーマニア語では、ネグルはただの黒という意味だ。差別的な意味はない」と説明した。しかし、ウェボ氏は彼に「あなたは白人に向かって、この白人とは言わないだろう! 白人なら『this guy』というはずだ。なぜ黒人に向かっては『黒人』というのだ!」と英語で抗議を続けた。

ニュースの最後には、フランスのスポーツ・若者大臣の会見の模様が映し出され「誰かを肌の色によって指すのは受け入れられない」と語っていた。今後調査が始まるというナレーションで、ニュースは終わった。

ちなみに、「黒」という単語は、ルーマニア語ではネグル、スペイン語ではネグロ、イタリア語ではネロ、フランス語ではノワールというように、ラテン語圏では「N」で始まることが多い。

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。前大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省関連で働く。出版社の編集者出身。 早大卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

今井佐緒里の最近の記事