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全訳:イギリスのジョンソン首相から、EUのユンケル委員長へブレグジット新提案を書いた4枚の手紙

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家
ユンケル委員長とジョンソン首相、バルニエ交渉官。9月16日ルクセンブルクでの会合(写真:ロイター/アフロ)

2019年10月2日、ジョンソン首相はユンケル委員長に新しいEU離脱案を提出した。

4枚の手紙が、イギリス政府の公式ホームページに公開されている。これが本当に最後の提案となるのだろうか。

内容は元々わかりにくく誤解を招きやすいものなので、より正確な理解のために全文翻訳をした。

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10 ダウニング・ストリート

ロンドン SW1A 2AA

首相より

2019年10月2日

親愛なるジャン=クロード(手書き)

公正で理にかなった(合理的な)妥協:アイルランドと北アイルランドに関する新しい議定書のための英国の提案

いま、EU条約第50条(離脱を望む加盟国に対する手続きを定めた条項)に基づいて、英国とEUの間で新しい協定を交渉する時間はほとんどありません。10月(17・18日予定)の欧州理事会の前にこのことを成し遂げる必要があります。

英国政府は、合意ある離脱を望んでいます。私は全員がそう望んでいると思っています。もし私たちが合意に到達できないのなら、それは私たち全員に責任がある国政術の失敗を意味します。私たちの前任者たちは、もっと困難な問題に取り組んできました。私たちは、このことをきっと解決できます。

双方がいま、時間に間に合うように、妥協して、既存の立場を超えて合意に向けて動く十分な意志があるのかどうか、よく考える必要があります。私たちはそうする準備ができていますし、この手紙は、私が合理的な(理のある)妥協と見なすもの、つまり合意が具体化し始めることができると私が信じている広い着陸地帯を用意しています。

私たちが提案する妥協案は、先の離脱合意にあった、いわゆる「バックストップ」を取り除きます。私は、英国議会において3回拒否されたという事実を含め、この難しさを色々な場所で今まで説明してきました。

この文脈において同じく重要なこととして、バックストップは、欧州連合(EU)との関係において、未来の架け橋として機能することが提案されていました。そこでは、英国はEUの関税協定と密接に統合され、多くの分野でEUの法律と整合するものでした。

この提案された将来の関係は、現在の英国政府の目標ではありません。政府は、将来の関係とは、英国が独自の規制事項と貿易政策を支配する自由貿易協定に基づくべきだと考えています。これらの状況では、提案された「バックストップ」はどこにもつながっていない橋です、だから新しい前向きな道を見つけなければなりません。

従って、アイルランドと北アイルランドに関する新しい議定書を、今ここに提案します。本議定書の法的文書草案を本日、タスクフォース50にお送りします。私は提案の詳細を説明する注釈を添付し、この手紙と注釈を本日公開しています。

それは、およそ5つの要素に基づいています。

何よりもまず第一に、私たちの提案は、ベルファスト(聖金曜日)合意と一致する解決策を見つけるという責務を中心としています。

この枠組みは、北アイルランドのガバナンスの根本的な基盤であり、協定を保護することは、すべてにとって最優先事項です。

第二にこれは、ベルファスト(聖金曜日)合意で規定されているものを含む、英国とアイルランドの協力における、長期的分野での責務を確認しています。しかしそれだけではなく他にも、EU(の設立)よりも先立つものもあります。共通旅行エリア(コモン・トラベル・エルア)は、北アイルランドに住むすべての人の権利と、北と南の協力に関するものです。これらは、(EUよりも)先立つ議定書において定められたものであり、新しい議定書でも維持されるべきものです。

第三に、議定書は、アイルランド島は、島のすべてが一つの規制区域であるというものを、潜在的に創ることを規定しています(it provides for the potential creation of an all-island regulatory zone on the island of Ireland)。それは農産品を含むすべての物品 (goods)をカバーします。この区域は、北アイルランドとアイルランドの間の物品貿易の規制チェックをすべて排除しますが、北アイルランドの物品規制は、EUの他の地域と同じ規制であることが保証されます。

第四に、この規制区域は、影響を受ける人々の同意がなくてはなりません。英国の一部が異なる政治の実体の規則を受け入れることになる協定を受け入れるには、このことは不可欠です。それは、民主主義の根本です。私たちは、北アイルランドの自治政府(the Northern Ireland Executive)と議会は、これらの取り決めを承認する機会を持つべきだと提案します。これらが発効する前、つまり移行期間中、およびその後は4年ごとにです。もし承認が得られない場合、協定は失効します。同じことは「the Single Electricity Market」(アイルランドの卸電力市場)にも当てはまり、同じ原則となるでしょう。

第五に、そしてこれが最後ですが、これらの協定の下では、移行期間の終了の後には、北アイルランドはEUの関税同盟ではなく、英国の関税領域の一部となります。移行期間の終了時に、英国がEUの関税同盟を離れることは、この英国政府にとって常に根本的なポイントでした。私たちはそのことを完全に完璧に行わなければなりません。貿易政策の支配は、私たちの将来のビジョンの根本です。

このことは、北アイルランドで開かれた国境を維持することと、完全に一致しています。北アイルランドとアイルランドの間の物品貿易は、英国とEUの物品貿易全体の1%強を占めています。この境界を別の方法で運営することは、全く合理的です(理にかなっています)。いかなる発生するリスクも、EUの単一市場と、英国市場の両方で管理が可能です。特に、第三国からの輸入はすべて、EUおよび英国の税関当局によって引き続き管理されます。

英国とEUの税制体制を遵守するために必要なすべての通関手続きは、分散したやり方で行われるべきであり、物品が2カ国間を移動するときに電子的に事務処理が成されたり、物理的チェックは貿易関係者の敷地内、あるいはサプライチェーンの他の地点で行われて非常に少数であったりすることを、私たちは提案しています。

このことを可能にするには、これらの特定の状況に対して、柔軟で創造的な解決策を見つけるという精神で、現在から移行期間の終わりまでの間に、既存の税関規則に対して、特定の実行可能な改善と簡素化の両方を、私たちは導入する必要があります。

これらの協定は、英国とアイルランドの当局間の緊密な協力によって支えられます。これはすべて、将来国境においてチェックを行わないという、(双方による:原注)確固たる誓約と結合していなければなりません。

全体として、私たちの提案は、今のアイルランドと北アイルランドで一般的な状況から変化することを意味すると、私たちは認識しています。私たちの共通の任務(タスク)は、これらの変化が、現在の状況に対して日々の混乱をできるだけ少なくすることを確かにすることです。私たちの提案がそれを達成すると、私は信じています。

最後に、この移行を通じて北アイルランドを支援するために、そして他の人たちと利益を得ながら協力しあって、英国政府は、北アイルランドのためにニューディールを提案します。経済成長と北アイルランドの競争力を高めることを助け、特に境界をまたぐフォーカスで、インフラ計画を支援する適切な誓約を伴うものとなるでしょう。

まとめますと、これらの提案は、英国の人々がEUを離脱するという決定を尊重し、一方では北アイルランドとアイルランドにおけるその決定の結果を実務的に扱っています。

ーこれらの提案は、北アイルランドの人々が同意する限り、移行期間の終了後、アイルランド島全体で、潜在的に長期間にわたって継続的な規制の一致を提供します。

ーこれらは、EUのルールが望まれない場合、無期限に維持できないことを意味します。バックストップの協定の主要な欠陥を修正しています。

ー英国の貿易政策が最初から完全に英国の管理下にある、意味のあるブレグジットを提供します。

ーこれらは、北アイルランドとアイルランドの国境が開かれたままであることを保証し、ベルファスト(聖金曜日)合意の大きな収穫が保護されることを可能にします。

これらの提案が、包括的な自由貿易協定を結ぶという目標を反映した政治宣言を行うために、必要な変更を最終的に決定することと合わせて、第50条の合意に達することができるように、解決に向けた迅速な交渉の基礎を提供できることを願っています。そうすれば、英国は10月31日に、EUを秩序正しいやり方で離脱することができます。

これによって、私たちは将来の前向きな関係に焦点を合わせることができます。そこには、私たちの利益のすべてがあると私は信じています。

私はこの手紙と書類の同じものを、欧州理事会の他のメンバーとミシェル・バルニエに渡すでしょう。

いつもあなたの親友であるボリス(手書き)

ジャン=クロード・ユンケル閣下

<参考記事>どういう意味?謎だらけの「関税同盟は抜けるが規制領域に入る北アイルランド」:ブレグジットでイギリス案

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。前大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省関連で働く。出版社の編集者出身。 早大卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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