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プチデモンのドイツでの収監。「欧州委員会がやれ」と訴える独議員と、怒るカタルーニャ市民

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家
バルセロナのドイツ領事館の前にて「民主主義は犯罪ではない」と独語で書かれている。(写真:ロイター/アフロ)

3月27日(火)、カタルーニャで主要道路をブロックする抗議デモが起きた。

一つはA7と呼ばれる、フランス国境近くの高速道路、もう一つはN340という国道で、

南西部の沿岸部につながる。どちらも、バルセロナに入るための主要道路だ。

デモを組織したのは、断固独立派の「共和国防衛委員会」である。月曜日にこのデモを呼びかけ、「もう後戻りはできないところまで来た」と声明を出した。

再度出た欧州逮捕状

問題の起こりは、3月23日(金)、スペインが欧州逮捕状(と国際逮捕状)を、再びカルレス・プチデモン氏に出したことだ。

「反逆罪および公金流用」の容疑である。

前に一度出ていたのだが、昨年(2017年)12月にスペインが引っ込めた経緯がある(筆者はこれを、EU(欧州連合)の欧州委員会が中心になって引っ込めさせたと推察した)。

「EUに失望した」

プチデモン氏は、3月22日と23日に、フィンランドを訪れて国会議員に会い、ヘルシンキ大学のセミナーに参加していた。

ヘルシンキ大学で、主に学生を前にプチデモン氏は講演した。

「EUは、スペイン当局がわれわれに暴力で抑圧してきたとき、何も言わなかった。市民としてヨーロッパは、世界の他の地域にとって民主主義のモデルであると信じていたのに」。

そして25日(日)に、氏はドイツとデンマークの国境で、身柄を拘束された。

でもその発表をいち早く行ったのは、彼の政党のスポークスマンである。氏は複数の弁護士と一緒だったのだ。

氏は現在、ドイツ北部のノイミュンスターという町で収監されている。

ここを訪れた彼の弁護士によると「プチデモン氏は決してスペインには戻らず、戦い続けるという強い明確な決意をもっている」という。そして、ドイツの司法(正義とも訳せる)を完全に信頼しているという。

この動きに怒っているカタルーニャ独立派の市民は、欧州逮捕状が再び出た金曜日、身柄拘束された日曜日、そして前述(道路封鎖)の今週と、3回抗議デモを行っている。

「なぜドイツが」と大不満のドイツの議員

しかし、なぜドイツなのだろうか。

デンマークとの国境で拘束なら、デンマークでだって可能だったではないか。やはりEU第一の大国、ドイツが決める羽目(?)になるのだろうか。

やっとドイツの政局が安定したと思ったら、これだ。裏ですでに、スペインとドイツの間に合意があるのだろうか。

ドイツの自由民主党の議員Alexander Graf Lambsdorffは、「法的には、逮捕に異議を唱えることはできないが、政治的に大きな問題を引き起こす」という。左翼党は「恥ずべきことだ」「即座に彼を自由にするべきだ」と訴えている。指導者の一人は「(プチデモン氏が拘束されたノイミュンスターの町がある)シュレースヴィヒ=ホルシュタイン州の裁判所が、カタルーニャの未来を決めるのに巻き込まれたなんて、冗談だろう」という。

同盟90/緑の党と自由民主党の議員は、「たった一カ国のEU加盟国の裁判に任せないで、欧州委員会がやれ(書類をとれ)」と訴えている。あまりにもごもっともな苦情である。

今週は結論が出ないことははっきりしている。もしスペインに送還されれば、最悪の場合は最大30年間の投獄となる。

ここに至るまでに、マドリッドの政府によるカタルーニャ自治政府へのさまざまな巧妙な突き崩しがあった。

実に深刻な事態で、登場人物はみな大真面目なのだが、なんだか笑ってしまう。日本ときたら、隣国は、永遠の金正恩、永遠のプーチン、永遠の習近平に囲まれている。こんなふうにみんな一緒にもめている様子すら、うらやましく思えてしまうのだ。

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。前大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省関連で働く。出版社の編集者出身。 早大卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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