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世田谷で3.5億円が即日完売。埼玉県久喜市では未来先取り……驚きの「建売住宅」最新事情

櫻井幸雄住宅評論家
野村不動産が分譲した「プラウドシーズン成城五丁目」は最高3.5億円……。筆者撮影

 上の写真正面が販売価格3億5000万円の建売住宅だ。

 2階建てで、2階の巨大な窓の内側はLDに。南向きで、日当たり抜群のリビングスペースが実現する。敷地外周には天然石の石積みが配置され、建物外壁も一部石張りという豪華な仕様も特徴である。

 建設地は小田急線成城学園前駅から徒歩8分の世田谷区成城五丁目。大正時代、成城エリアの住宅開発が始まったとき、最初に手が付けられたエリアのひとつだ。由緒ある住宅地内に建設されたのが「プラウドシーズン成城五丁目」。全6戸の建売住宅である。建売住宅なのだが、その内容はこれまでの「建売」の基準を大きく超えている。

 まず、広い。6戸の土地面積は約150平米から160平米で、建物面積は約120平米から134平米。多くの建売住宅に見られる土地100平米・建物100平米よりはるかに大型だ。

 6戸の分譲価格は2億3000万円から3億5000万円。今年7月の販売で6戸すべてが即日完売し、3倍の抽選になった住戸もあった。

 付け加えると、「プラウドシーズン成城五丁目」を分譲した野村不動産は、昨年、同じ成城エリアで2億円台の建売住宅6戸を販売し、そちらも即日完売した。

 建売住宅で2億円台から3億円台の高額物件が合計12戸、大人気になったわけだ。

 一方、埼玉県久喜市では、全戸ZEH(ゼロエネルギー住宅)で、住宅地内の公園に5GWi-Fiを敷設。スーパーマーケットでネット注文した商品が無人運転の自動配送ロボで届けられる仕組みまで導入予定(現状は実験中)という、未来先取りの建売住宅地が販売を開始している。

 マンションと比べると地味な印象のある建売住宅だが、今、新しい挑戦を行う動きが出ている。

建売だからこそ、できることも

 「建売住宅」とは、土地と建物をセットにして販売する一戸建てのこと。購入者が決まる前に家を建てて、土地付きで販売……建ててから売るので「建売」と呼ばれるわけだ。 

 建売住宅は、購入者の希望どおりに建築される注文住宅よりもランクが下と考えられがち。高額物件も出にくかった。2億円、3億円も払うなら、建売ではなく注文で家を建てたほうがよい、と考えられていたわけだ。

 これに対し、「プラウドシーズン成城五丁目」は建売住宅ならでの長所を生かしている。

 たとえば、全6戸で電柱・電線のない家並みを実現している。電線を地下に埋設した結果、周囲の住宅地には電柱・電線があるのに、6戸の住宅地内にはそれがない。

「プラウドシーズン成城五丁目」の電柱・電線がない、スッキリした家並み。筆者撮影
「プラウドシーズン成城五丁目」の電柱・電線がない、スッキリした家並み。筆者撮影

 電線の地下埋設で電柱がないと、家並みがスッキリする。車の出し入れで電柱が邪魔になることもない。加えて、将来、家の建て替えを行おうとするとき、クレーン車などの重機を入れやすいという利点も生まれる。

 電線埋設は長所の多い方式なのだが、注文住宅で1戸だけ建設するときに、それを行うことはまず不可能だ。駐車場への車の出し入れに電柱が邪魔になるからといって、電柱をなくしたり、位置を変えることもむずかしい。駐車場の場所を変えるしかない。

 数戸から数百戸をまとめて建設することで、その一画だけ電線埋設で電柱をなくすことができるのは建売住宅ならではの利点となる。その分、費用がかかるのだが、物件の魅力をあげるために挑戦するケースが増えてきた。

 建売住宅の挑戦的試みは、東京の高級住宅地だけのものではない。

 首都圏の郊外、埼玉県久喜市では未来を先取りしたスケールの大きな建売住宅の街が開発されている。

全172戸で最新のスマートタウンをつくってしまう計画

 埼玉県久喜市で開発が行われている、未来先取りの建売住宅は、「BLP-MINAMIKURIHASHI SMART VILLA(以下、BLP南栗橋スマートヴィラ)」という。

「BLP南栗橋スマートヴィラ」街区の入り口に設けられているウエルカムプラザ(販売センター)。筆者撮影
「BLP南栗橋スマートヴィラ」街区の入り口に設けられているウエルカムプラザ(販売センター)。筆者撮影

 名前からしてお洒落な建売住宅はトヨタホームと東武鉄道が事業主となり、全172区画の規模となる。

 その特徴は前述したとおり、全戸ZEHで、公園にも5GWi-Fiを敷設。自動配送ロボまで導入予定などでスマートタウンを実現することだ。加えて、住宅地内の道は歩行者の安全を確保するため、「センターサークル(信号なしで安全に走行できる交差点)」や「クルドサック(住宅地内の車道を行き止まりとして、無用の車の進入を防ぐ工夫)」などを採用する独自性もある。

「BLP南栗橋スマートヴィラ」の区画内に設けられたセンターサークル。欧米でよくみられる、信号なしでも安全に車が交差点を通過できる仕組みだ。筆者撮影
「BLP南栗橋スマートヴィラ」の区画内に設けられたセンターサークル。欧米でよくみられる、信号なしでも安全に車が交差点を通過できる仕組みだ。筆者撮影

 さらに、区画内では車道とは別に車が入れない「遊歩道」を配置する。この遊歩道は車道と同様に公道となり、久喜市によって管理される。

「BLP南栗橋スマートヴィラ」内に設けられた遊歩道。子育て世帯にも、シニアにもうれしい道だ。筆者撮影
「BLP南栗橋スマートヴィラ」内に設けられた遊歩道。子育て世帯にも、シニアにもうれしい道だ。筆者撮影

 遊歩道は歩行者の安全を守るし、住人のふれあいの場にもなる。そして、住宅と住宅の間隔を空けることができる、という効果も生む。

価格が高くなっても、納得して購入される

 「BLP南栗橋スマートヴィラ」でも街区全体の電線埋設により電柱のない家並みが広範囲に実現している。それらが実現したのは、埼玉県久喜市も連携した街づくりプロジェクトであるからだ。正確にいうと、埼玉県久喜市、東武鉄道、トヨタホームに加え、イオン、早稲田大学・小野田研究所の産官学5者連携による街づくりが行われている。

 街づくりに数々の工夫を凝らし、質の高い建物を採用しているため、「BLP南栗橋スマートヴィラ」の建売住宅は4000万円台、5000万円台の価格設定となっている。周辺では3000万円台からの建売住宅がみつかることからすると、割高な印象がある。が、その内容を理解し、納得して購入する人が多い。

 今、建売住宅では、工夫を凝らした物件が少しずつだが出始めている。マンションばかりが脚光を浴びるようになった現在、建売住宅の開発者も物件の魅力を上げるため努力しているということだろう。

 戸建てファンにはうれしい動きが始まったわけだ。

 なお、「プラウドシーズン成城五丁目」も「BLP南栗橋スマートヴィラ」も、ここでは書き切れなかった工夫が建物内外にいくつもある。それらを紹介すると専門的、もしくはマニアックになりすぎるため、ここでは省いた。それらは、有料記事のほうで書かせていただくこととした。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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