「24時間ゴミ出しOK」がNGになる?止まらないマンション管理費上昇の深刻な裏事情
今、マンション管理費の上昇が問題になっている。
管理会社から毎年のように「管理費の値上げ」が要求され、値上げが無理なら、管理委託契約の打ち切りが持ち出されるケースも出ている。管理会社が管理サービスの提供をやめてしまうわけだ。
なぜ、そのような状況が生まれてしまったのか。
電気料金が上昇した影響もあるが、それ以前からマンション管理費はじわじわと上がり続けていた。2013年から2022年までの10年間で平均2割ほど上がったとされ、慢性的な管理費上昇に今回の電気料金上昇が追い打ちをかけたというのが、本当のところだ。
管理費の高さが問題ならば、安い費用で引き受けてくれる管理会社に変える手がある。管理会社をより安いところに変える、いわゆる「リプレイス」は平成時代からよく行われていた。
ところが、今は安さを売りにする管理会社がなく、リプレイスした管理会社から値上げを求められるケースも増えてしまった。
「管理会社を変えれば、問題が解決する」という時代ではなくなっているのだ。
では、なぜ電気料金が上がる前からマンションの管理費が上昇していたのか。
それは人件費の問題が大きく、実情を知ると、日本のマンション管理は曲がり角に来ていることがわかる。
人件費の上昇で、マンション生活で人気が高い「24時間ゴミ出しOK」も続けられない可能性がある……今まで語られることがなかったマンション管理の業界裏事情を明らかにしたい。
家族持ち30代には困ることが多い労働条件
今の世の中、人件費が高くなる商売は、どこでも採算がとりにくい。人件費を抑えるため、ロボット利用など機械化ができるところはよい。が、マンション管理は機械化がむずかしい。
比較的単純な作業の「清掃」でさえ機械任せにしにくい。夜中、無人になるオフィスならば、廊下やロビーの清掃をロボットに任せることができる。しかし、マンションの場合、24時間、人の出入りがあるし、夜中に騒音を出す作業は行えない。
昼間、共用廊下を清掃しているときに住人が通れば作業を中止し、住人が歩きやすいように脇による。清掃道具を持ってエレベーターに乗るときも、住人優先だ。そのような気遣いは、ロボットにはむずかしい。
マンション管理には人の手に頼る部分が多い。
「24時間ゴミ出しOK」にも人手が必要だ。
住人がゴミを出すのは、建物内のゴミステーションなどと呼ばれる小部屋まで。鉄筋コンクリート造の部屋で頑丈なドアが付いているから、事前に生ゴミを出しても鳥に荒らされることがなく、日が当たらず、涼しい部屋なので臭いの問題も生じにくい。
そして、ゴミ収集日には、その小部屋から収集場所までゴミを出す人手が必要になる。
このゴミ出し作業をマンションの住人が交代で行えるかどうか……。「そこは、管理会社にお願いしたい」というのが住人の本音だろう。
「ゴミ出し作業」もロボットでは行えない。マンション管理では人が行う作業が多くなるから、どうしても人件費の比重が大きくなる。と、そこまでは一般の人も理解しやすいだろう。
しかし、管理会社社員の労働条件に関してはどうだろう。
管理会社の仕事のうち、内容が特殊であるため定着率が低いとされる職種がある。それが「フロント」、各マンションの担当者となる管理会社社員だ。
フロントは、管理組合の会議があれば参加し、要望を聞くし、アドバイスも行う。
それは当然の業務なのだが、問題はマンション管理組合の会議が通常、土日・祝日の休日に行われること。多くの住人の仕事が休みとなる日に会議が行われるため、それに出席するフロントの社員は家族と休日を共にすることができない。
そして、管理という仕事の性格上、夜中も緊急の連絡が入る。
管理会社の1人のフロントが担当するマンションは1つということはない。ひとケタということもなく、今は20前後を受け持つことが多い。
20ものマンションを担当すれば、すべての休日は会議に参加することになるし、夜中の緊急連絡もひっきりなしに……。フロント社員が家族持ちで、子供がまだ小さい30代であれば、「たまったもんじゃない」と不満を漏らしても不謹慎と責めることはできないだろう。
フロントの負担を減らすため、管理費が値上げされる
平成のはじめくらいまで、分譲マンションには「住み込みの管理人さん」が多かった。分譲マンション内に主に夫婦で住み、管理業務を行うスタッフだ。住人に重宝がられたのだが、令和の今、「住み込みの管理人さん」は“絶滅危惧種”並に少ない。理由は、休みなしで頼られてしまうからだ。
休日となっている日も、また夜中でも「管理人さん!」と住人がやってくる。それに対し、「今は時間外です」と拒絶することができず、無償の奉仕を行ってしまう……それが当たり前とみなされる時代ならば、頑張る人もいた。しかし、今、そのような仕事は、ブラックとみなされてしまう。結果、「住み込みの管理人さん」は引き受け手がいなくなった。
それと似たような状況が今、管理会社のフロントに起きているわけだ。
管理会社のフロントは20前後のマンションを受け持つことが多いと書いたが、それでは多すぎることを管理会社も承知している。それでも、担当するマンションの数が多くなってしまうのは、フロント社員が次々に辞めてしまうから。残った社員にしわ寄せがきているわけだ。
現在、管理会社のフロントで主力となっているのは50代の社員。子育てを終え、休日出勤もさほど問題にしない人たちだ。が、今50代の人たちは10年後、20年後にはリタイアする。後継者を育てるためには、労働条件の改善が急務となっている。フロントの要員を増やして、各人の負担を減らす。そのためには、給与水準の引き上げが必要となる。
つまり、これまでと同じような管理サービスを提供しようとすれば、今以上の人件費が必要となる。だから、管理会社は管理費の値上げを求めているわけだ。
管理は「フルコース」でなくてもよい時代に
人件費が上昇し、これから先はさらに上がってゆくことが予想される中、マンションの管理費は恒常的な値上げが避けられない。
ただし、値上げが避けられないのは、「今までと同じ管理サービスを求めた場合」の話である。
従来のマンション管理は、すべてを管理会社に丸投げした。いわば、料理のフルコースのようなもので、その分、マンション住人は楽ができた。
しかし、フルコースの料金が高くなった今、マンション管理に新しい動きが生じている。それは、管理会社に委託したほうがよいものと、管理組合(住人)で行ったほうがよいものを分け、管理会社に払う管理費を節約する方法だ。
住人が管理業務の一部を行って費用を節約するのだが、それで住人の負担が増えすぎるのも困る。そのため、住人が行う管理業務をアプリの活用で簡略化、自分たちで楽にできるようにしているのが、最新の方法だ。
その内容は、2021年7月に上昇するマンション管理費を抑制する切り札 「アプリ管理」がゆっくり動き出したという記事でも紹介した。
当時、登場したばかりだった「アプリ管理」は、その後料金設定を下げるなどの工夫を行い、この2年間で採用例が大幅に増えた。それにともなって、サービス内容も大幅に改善されている。
「アプリ管理」は、時代のニーズに合わせて進化しているのだが、それについては改めて紹介したい。