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電気代高騰でマンション管理費が上がる?タワマンでは深刻な問題に

櫻井幸雄住宅評論家
電気代高騰で、マンションの管理費は上がる?イメージとして、筆者撮影

 高騰する電気代が家計を圧迫している。これまで通りの生活をしていたら、前年比で電気代が1.5倍になった、いえいえ、わが家は2倍に……切実な声が聞こえてくる。

 春は冷房も暖房も使わない日が多いので、まだよい。しかし、本格的な夏が始まれば、エアコンをフル稼働させる日が多くなるため、高い電気代の影響は冬よりも大きくなるだろう。

 今から夏の電気代に戦々恐々だが、じつは電気代高騰でやりくりに苦労しているのは個々の家庭だけではない。マンションの管理組合も、想定以上の電気代高騰で収支が合わなくなるところが続出。管理費の値上げを話し合うケースが生じている。

 特に電気代高騰の影響を大きく受けるのがタワマンと呼ばれることが多くなった超高層マンション。エレベーターに関する電気使用量が多いし、内廊下方式を採用する場合はそのエアコン代も大きいからだ。

 ここまで電気代が高くなると、これからのマンション選びでも、電気使用量に無関心ではいられない。

 電気代高騰が与えるマンションの管理費への影響を調べ、さらに新築マンション購入時に覚えておきたいチェックポイントを解説したい。

節電で電気使用量を減らす。が、住人からは反対意見も

 まず、現在のマンションにおける電気事情を調べた。

 「電気料金が上がったので、このままでは毎月の管理費を上げざるを得ない」という状況は、多くの分譲マンション管理組合で議論の的となっている。

 エレベーターを一切使っていない低層3階建てマンションで、オートロックも駐車場の機械装置もなしというケースなら、使用する電気は共用廊下の照明や給水関係設備くらい。もともと大きな費用ではないので、影響は小さい。が、それはレアなケースだ。

 現在、ほとんどのマンションがエレベーターやオートロックの自動ドアを備え、内廊下の空調設備まで備えるケースが増えている。当然、電気代高騰の影響が大きい。

 なかでも、毎月の電気使用量が多い超高層マンションでは、1戸あたり毎月数千円の管理費値上げが検討されるところが出ている。

 そこで、まず考えられるのが、可能な限りの「節約」だ。

 たとえば、共用廊下の照明を減らす(電球などを間引きするなど)ことや、内廊下の空調を夜間停止する。夜間はエレベーターの稼働台数を減らすことも実際に行われている。

 細かな節約で、可能な限り電気代を節約するわけだ。

 順当な対応策だと思われるが、じつはこの節約、住人全員の賛成が得られるわけではない。というのも、住人のなかには「毎月の管理費が上がっても、これまで通りの生活をしたい」「節約することでマンションのイメージが落ち、資産価値が下がるのは避けたい」という意見があるからだ。

 そういった意見が多いマンションでは、電気代高騰による管理費の値上げがすでに行われていた。すべてのマンション管理会社に聞き取り調査をしたわけではないので、あくまでも参考数値だが、すでに半数程度のマンションで管理費の値上げが実施された、もしくは実施予定という管理会社があった。

 管理会社によって値上げが強行されたわけではない。あくまでも、住人の合意で値上げが容認されているケースが一定数あると考えられる。

 マンション管理に関する記事では、「管理費の値上げを容認するマンション住人など1人もいない」という論調が目立つが、実際には「住み心地や安全重視で、そのために必要な管理費値上げならば、やむなし」と考える住人もいて、その比率は決して少なくないのだ。

 もちろん、値上げを喜ぶ人はおらず、管理会社の努力が足りないと怒る人もいる。マンション管理にはいろいろな考え方があるわけで、そこが「管理」のむずかしさといえる。

 そのため、最新のマンション管理では「ある程度のお金を出しても、満足度の高い管理を求める」人が多いケースと「管理費用を極力抑えるため、できることは住人たちで行う」という人が多いケースがあることを理解し、マンションごとにふさわしい管理サービスを提供する方向に進んでいる。

 「満足度の高い生活を維持するため、ある程度の出費は仕方がない」と考える人の多いマンションでは、すでに管理費の値上げが行われている。

 それが、実情なのである。

新築分譲時に提示される管理費は、どの時点の電気代で計算?

 もうひとつ、電気代高騰による影響が出ると考えられるのが、これから販売されるマンション、特に超高層マンションの管理費設定だ。

 新築マンションは販売時に「入居後の管理費」を提示されるのだが、現在の電気料金を基に計算すると、管理費がこれまでより高くなってしまう。

 超高層マンションの場合、管理費がもともと高く、70平米の3LDKで管理費が3万円を超えることがある。それが、電気代高騰によって数千円上がる可能性があり、毎月のランニングコストが高い、といわれかねない。

 その解決策として、管理費のうち電気代を実費として別途請求する方法も検討されている。それなら、電気代高騰の影響がわかりやすいし、電気料金の変動により、月ごとに上げたり下げたりできる、という利点もある。

 しかし、この方法だと、電気代が毎月変わり、その引き落とし処理が大変になるなど、いくつかの問題が想定されて実現の見通しは立っていない。

 そのため、今後は新築分譲時に説明なしで管理費が高くなっているマンションが出てくるだろう。高くなった管理費を見て「このマンションはパス」とする人も出てきそうだ。

 が、その前に考えたいことがある。

 それは、高くなった電気料金を基に計算を行い、その数字から管理費を算出することは、“正直さ”の表れといえるからだ。

 それより困るのは、電気代高騰を無視し、これまでの電気代から管理費を算出するケース。その場合、実際の生活が始まってから、管理費の値上げが持ち出される可能性がある。

 つまり、どの時点の電気代で管理費を計算しているか、は不動産会社の誠意を確認できるポイントとなってくる。購入時にぜひ聞いておきたいところである。

 他に、管理費に関して“正直”な不動産会社を見極める方法はないか。

 ここで、ひとつ多くの人が知らない事実を明らかにしたい。

駐車場の稼働率設定で管理費が変わる、という事実も

 多くの人が知らない事実とは、新築分譲時にマンションの管理費をいくらにするかは、駐車場に関してどのような見通しを立てるかによって変わるということだ。

 たとえば、駐車場の稼働率(どのくらいの割合で借りてもらえるか)を高く見積もれば、毎月の管理費は安く算出できる。駐車場から入ってくるお金が多いので、毎月の管理費は安くしても大丈夫、というわけだ。

 逆に、駐車場の稼働率を低く見積もれば、毎月の管理費は高くなってしまうのだが、その場合は駐車場利用者が減っても大丈夫という利点がある。どちらの算出方法をとるかは不動産会社によって異なるのだ。

 稼働率を低く見積もる不動産会社の場合、駐車場稼働率を5割程度に見積もることがある。今、首都圏、近畿圏では全戸分の駐車場を敷地内に用意するマンションが減り、多くても7、8割のことが多い。

 全100戸のマンションの場合、70台分か80台分の駐車場を設置するのである。その稼働率を5割に見積もる、ということは、70台分か80台分のうち、実際に借り手がつくのは35台か40台……そのような状況になっても大丈夫なように管理費を算出するわけだ。

 駐車場が少ない超高層マンションの場合、全住戸の3割程度しか駐車場は用意されないもの。その場合、駐車場はフル稼働するのが普通なのだが、厳しく見積もる不動産会社では、超高層マンションの駐車場稼働率も5割〜7割程度で計算する。

 駐車場の稼働率を低く見積もる慎重型の不動産会社の場合、電気代高騰を勘案すると、毎月の管理費はますます高くなってしまう。が、入居後の不安は少ない。これも、“正直”ポイントに加えてもよいだろう。

 つまり、これからマンションを買う場合は、単に管理費の額を見るだけでなく、現在の電気料金を基に算出しているのか、そして、駐車場稼働率をどれくらいに見積もっているのかを確認しておくことが大切となる。

 管理費が安く設定されていても、古い電気料金を基に計算してあったら、入居後に管理費が上がる可能性がある。

 また、駐車場の稼働率を高く見積もっている場合、将来、駐車場利用者が減ったときにも、管理費が上がるリスクが生じる。

 「いつの電気料金を基にしているか」と「駐車場の稼働率想定」は、タワマンだけでなく、新築マンション全般の購入時に大事なチェックポイントとなるのである。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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