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新築マンション錬金術、「今買えばスマートに3000万円儲かる」はまだ通用するのか

櫻井幸雄住宅評論家
都心マンションは、まだ「今買えば、儲かる」のだろうか。(写真:アフロ)

 新築マンションの価格が上昇している理由は、値上がり期待のマンションに人気が集中し、局所的に価格が上がったことが大きい。一部のマンションが金儲けの手段として人気を高めているわけで、その内情については建設費?中国人?いえ、新築マンションを値上りさせたのはミレニアム世代のスマート錬金術の記事で説明させていただいた。

 その続編として、新築マンション錬金術というべきこの手法は、今も、そしてこの先も通用するのか。言い換えれば、今、新築マンションを買えば、簡単に3000万円儲けることができるのか、というズバリの質問に答えたい。

“儲かるマンション”は、すでに高額化

 都心や郊外駅近の新築マンション価格が大きく上昇した現在、中古で売っても、かつてのような高値は期待しにくくなっている。

 なんらかの事情で、格別に安く販売されるマンションならば中古で高く売ることも可能だろうが、その場合は新築分譲時に購入者が殺到し、高倍率の抽選となってしまう。

 山手線内側に位置する都心マンションは軒並み価格が高くなってしまった。その希少価値から、この先も値崩れはしないだろうが、これ以上大幅に高くなることも期待しにくい。

 10年以上経てば新たな局面が生じ、都心マンションの価格が再び跳ね上がりだすかもしれないが、当面、新築マンション価格が高止まりするだろう。

 新築価格が高止まりすれば、中古価格はそれよりも安くなる。中古で売って、儲けを出すことはむずかしくなるわけだ。

 加えて、3000万円特別控除に関して、税務署の目が厳しくなっていることも大きい。

 これまで、マイホームであるマンション住戸を売却して大きな利益が出た場合、3000万円特別控除で税金を払わずに済むケースが多かった。が、その状況にも変化が生じているのだ。

短期間の売却では、特別控除が認められないケースも

 3000万円特別控除とは、正確に言うと「居住用財産を譲渡した場合の3000万円の特別控除の特例」。マイホームを売ったとき、譲渡所得(買ったときの値段より高く売れた額)のうち3000万円までは税金がかからない、という特例だ。

 マイホームを売り、より大きな家やより便利な場所の家にステップアップしやすくしてくれる制度で、都心マンションを売却する人の多くがこの特例を利用してきた。

 それは、これまで都心マンションならば、買ったときよりも中古で高く売れるケースが多かったからだ。

 といっても、バブルが崩壊して以降2014年くらいまでは、3000万円の枠を十分使えるほど大きな利益が出ることは希。値上がり幅は500万円から1000万円というケースが多かった。

 しかし、2015年以降、都心マンションが大きく値上がりしたので、買ったときより2000万円以上高く売れた、というケースが増えた。

 その場合、3000万円特別控除がなければ、税金で手元に残るお金が半減してしまう人が多い。しかし、3000万円特別控除のおかげで、丸々手元に残る。マイホームを売ることで儲けようとする人には願ってもない特例となるわけだ。

 ところが、近年、この特例適用に待ったがかかるケースが出ている。

 所有する期間が短いことから、転売目的の購入ではないか、と疑われてしまうのだ。

 本来、3000万円特別控除は所有期間の長短にかかわらず、居住用財産(マイホーム)を売却したときに適用されるもの。短期間の所有でも問題ないはずなのだが、税務署が問題にするのは「居住用財産」かどうか、の点。所有期間が短いので、はじめから転売目的だったのではないか。つまり、居住用財産ではなかったのではないか、と疑われるわけだ。

 マイホームとして購入し、使用していたことを証明する必要があるのだが、それが認められないと、3000万円特別控除の恩恵も消滅してしまう。そこで、「これはマイホームです」と証明するため、ここではとても書けないような裏技も登場している。

 マンション錬金術では「3000万円特別控除」がキモになっているのだが、すんなり利用できない可能性があることも、注意すべきポイントとなる。

過去の「今買えば、儲かる」時期は……

 このほか、短期間で売却を考える人は、少しでも金利の低い変動金利で住宅ローンを組むことが多いのだが、これから先、変動金利が上昇すれば、所有している間の返済金が増えるというリスクもある。

 マイホーム購入時に使えた贈与の特例が今年いっぱいまでで延長されない見通しであることも、親からの資金援助で都心マンションを買おうとしていた人には残念な点。夫婦共有名義で、双方の親から資金援助を見込んでいた夫婦は、大きな痛手だろう。

 このように、「今買えば、儲かる」とされてきた都心マンションには、儲かる要素や買いやすい要素が少しずつ減っている。

 新築分譲マンションの市況において、「今買えば、儲かる」時期は過去にも何度かあった。リーマンショックで新築マンション価格が大幅に下がった2010年から2012年にかけて。そして、平成バブル直前の1987年とか1986年の時期。さらに遡れば、オイルショック後の1977年頃も不動産が安かったため、不動産業界では「今買えば、間違いなく儲かる」と言われていた。

 実際、いずれの時期も、その後に住宅価格が上昇したのだが、価格上昇期が長く続くことはなかった。

 マンションの市況は、「下がる時期」も「上がる時期」も永遠に続くことはあり得ない。必ず、転換期がくる。

 2013年から始まった現在の新築マンション価格上昇期に関しては、「まだまだ上がる」という見方が多い。が、すでに転換期に入っているとみてよいだろう。

 新築マンションの価格が下がる、もしくは高止まりして、上昇局面が終わるときには、いくつかのきっかけがあるものだ。

 たとえば、新築マンションの分譲価格が高くなりすぎたとき、もしくは中古マンションの相場が下がってきたとき、はたまた賃貸相場が崩れてきたときやローン金利が本格的に上がったとき、税制の優遇がなくなったとき、などが潮目が変わるきっかけとなる。

 いずれも、安く買って高く売る、もしくは安く買って高く貸すという図式が崩れる要因となる。

 今のマンション市況には潮目を変える要因が多い。「今買えば、儲かる」とは言いにくいわけだ。

 しかしながら、この先、購入者が減れば、都心マンションの価格が下がる可能性もある。そのときは、また「今買えば、儲かる」状況が生まれることに……。

 若い世代は、この数年の間に都心マンションを買わなかったので、儲けるチャンスを逃した、と思う人もいるはずだ。しかし、40年近くマンション市況をみてきた私からすると、「また、チャンスは来る」と断言できる。実際、「今買えば、儲かる」時期は何度もやってきたのだから。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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