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民泊利用者と居住者のトラブルを回避する画期的分譲マンション、その賢い工夫とは

櫻井幸雄住宅評論家
民泊利用可能な住戸を設けたマンションのモデルルームで、筆者撮影。

 2018年に成立した民泊新法により、一気に増加した民泊マンション。昨年以降コロナ禍で稼働率は下がっているが、今後はアフターコロナでのリベンジ需要が期待されている。

 利用が広まるのはよいが、一方で心配されるのが、民泊利用者と居住者との間に発生するあつれき。分譲マンション内で民泊が行われると、生活習慣が異なる外国人旅行者と日本人居住者の間で音や生活マナーの問題が生じやすい。

 それは、住戸を民泊として活用したい人にとっても、マイホームとして暮らしたい人にとっても、さらに旅行者にとっても不幸な出来事となる。

 この問題が生じないようにする、画期的な工夫を盛り込んだマンションが登場した。簡単にいうと、民泊利用可能な住戸を集めたフロアを定め、民泊利用しない住戸と明確に分離。駐車場も分けて、あつれきが生じないようにする工夫である。

 私が知る限り、そのような工夫を採用した新築分譲マンションは全国で初めてだ(規模の小さく、目立たないマンションで採用した例があるかもしれない)。

 新築分譲マンションとしておそらく日本で初めてと考えられる、賢い工夫を紹介したい。

民泊専用フロアを設けたのは、那覇市のマンション

 民泊利用可能フロアを設けたのは、「ブランシエラ那覇曙プレミスト」。長谷工不動産と大和ハウス工業が沖縄県那覇市で建設中の地上14階建て・全117戸のマンションだ。

 その建設地は、11月1日に飲食店に求められていた時短営業要請が解除された沖縄県の那覇市。同市の北部で、浦添市との市境に近い場所だ。

 那覇の中心地からは若干離れているのだが、それによって生まれる長所もある。

 まず、中心地から離れたおかげで、那覇市内では珍しいオーシャンフロントつまり、海が目の前に広がるマンションとなる。ダイビングや釣りのための船が出るマリーナも近い。

 次に、沖縄本島で今注目のリゾートエリア「西海岸」に近く、都心とリゾートの中間点に位置するのも、同マンションの立地特性となる。

 西海岸は、2018年に沖縄西海岸道路が開通し、翌年「PARCOシティ」が道路沿いに開業してから一気に注目が高まったエリアだ。

 沖縄西海岸道路沿いに宜野湾(ぎのわん)や北谷(ちゃたん)といったマリンレジャーの拠点、ショッピングエリアが広がるため、リゾートでも日々の生活でも楽しみが広がる。

 つまり、那覇市内のオーシャンフロントであり、人気の西海岸にも近いため、民泊目的でも居住目的でも魅力的な立地となるわけだ。

海に面した民泊フロアは早々に完売

 恵まれた立地条件を得て「ブランシエラ那覇曙プレミスト」は、半数近い住戸(45戸)を民泊利用可能とし、それ以外は民泊不可と区分けした。

 民泊利用可能な住戸は、14階建ての10階から14階の5フロアにまとめられる。

建物は北向き棟(海が目の前に見える棟)と東向き棟に分かれ、それぞれの10階から14階に民泊利用可能な住戸が集められる。マンションギャラリーで、建物完成予想模型を筆者撮影
建物は北向き棟(海が目の前に見える棟)と東向き棟に分かれ、それぞれの10階から14階に民泊利用可能な住戸が集められる。マンションギャラリーで、建物完成予想模型を筆者撮影

 2階から9階までが民泊不可の住戸で、1階は共用施設のみ。民泊可と不可のフロアを明確に分け、10階から14階の民泊住戸に行く人がエレベーターに乗った場合、2階から9階には止まらない仕組みも導入される。

 極力、接点が生じないようにしているわけだ。

 全戸分以上設けられた敷地内駐車場も分けられる。駐車場は平置き(地上に線を引いたスペース)と機械式に分けられるのだが、民泊利用可能住戸は平置き駐車場を利用。機械式駐車場に慣れない人でも、レンタカーなどをおさめやすくしている。

 民泊利用の住戸はすべて2LDK~3LDKタイプで、ベッドルームはすべて5畳以上に。これにより、ベッドルームに2つのシングルベッドを入れることができ、3LDKならば3世代6人の家族旅行でも利用可能となる。

 大人数で利用できるなら、夏のハイシーズンは1泊3万円以上、冬の避寒利用で1泊1万2000円以上の宿泊料が見込める。「年間180日まで」という民泊の上限まで利用すれば……と電卓を叩くのが楽しくなりそうだ。

 さらに、プロ野球のキャンプも盛んな沖縄では、民泊以外の期間でマンスリーの賃貸契約もできるのではないか、と夢が広がる。

 高い収益性が期待できることで、民泊利用可能住戸の人気は上々。同マンションは、海が正面に見える北向き棟と、東向き棟の2棟構成なのだが、海が見える北向き棟10階から14階の民泊利用可能住戸は、販売開始からわずか3ヶ月でほとんどが契約済みとなってしまった。

民泊不可の住戸は、割安な価格設定に

 「ブランシエラ那覇曙プレミスト」では、民泊利用可能住戸の専用フロアを設けることで、民泊不可の一般住戸にもメリットが生じる。

 それは、価格に割安感があることだ。

 2階から9階の民泊不可のフロアで現在販売中の住戸は、約66平米の3LDKが3398万円台からの設定。これは、海が大きく見える北向き棟・民泊利用可能フロアの住戸価格「約70平米の3LDKが5600万円台から」と比べてだいぶ安く感じる。

 割安感が生じるのは、9階以下に配置されていることが大きい。

 一般的に、マンションでは眺めのよい上層階ほど価格設定が高くなる。

 「ブランシエラ那覇曙プレミスト」のように、上層階で海が大きく見える住戸はさらに価格が高い。

 そのような価格差がある建物で、「ブランシエラ那覇曙プレミスト」は、上層階に民泊利用可能住戸のフロアを設置。民泊不可のフロアを下層部に配置したので、2階から9階の住戸には割安感が生じたのである。

 これは、従来とは逆のやり方といえる。

 従来、投資向きに分譲される住戸と実需(自ら住む目的で購入する人)向きの住戸がある場合、上層階に配置され、価格が高くなるのは実需向き住戸。投資向き住戸は下層階に配置され、なるべく安く分譲された。

 これに対し、「ブランシエラ那覇曙プレミスト」は、価格設定が高くなっても、眺めがよい上層階に民泊利用可能フロアを設けた。

眺めのよい上層階住戸を表現したモデルルーム。筆者撮影
眺めのよい上層階住戸を表現したモデルルーム。筆者撮影

 眺めのよい住戸のほうが民泊として利用しやすいだろう、と考えたからだ。

 一方で、2階から9階は販売価格が割安になるので、堅実な実需層に喜ばれるはず。それも、民泊利用可能なフロアを設定することで生まれた長所といえる。

 民泊利用者が多くなる、と予想される場所で民泊利用可能住戸をはっきりと分ける……このアイデアは、今後、各地に広まってゆきそうだ。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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