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挙式断念カップルに「マンション買ってもいいかな」の動き。前向きか?無謀か?

櫻井幸雄住宅評論家
結婚後の新居は新築分譲マンション……その夢は実現可能か。モデルルームで筆者撮影

 コロナ禍でやむなく結婚式を断念し、新婚旅行もあきらめた。両家の親族だけで昼食会を開き、婚姻届を出すだけにした……そんな話をよく聞くようになった。

 人生の大切な節目で、予定していたイベントを中止せざるを得ない。それは、気の毒なのだが、まとまった金額を節約できたのも事実。そのお金で、新築マンションを買えないか、と考えるカップルの姿が、今年に入ってからマンション販売センターでみられるようになった。

 その数はまだ少ないのだが、20代の若い世代は、30代、40代の来場者が多い販売センターで目立つ。

挙式と新婚旅行断念で頭金ができた

 コロナ禍がなければ、盛大に結婚式を挙げ、新婚旅行にもでかけていたはず。そして、新居は賃貸住宅、という予定で結婚資金を貯めた。が、その予定のうち、挙式と旅行がなくなり、貯めていた資金が残ることになった。だから、賃貸住宅を分譲購入に切り替えることができないか。とりあえず、販売センターに話を聞きに来た、と若いカップルは口をそろえる。

 目当てのマンションは、「2LDKが3200万円台から」とか「3300万円台から」という郊外物件。頭金を200万円〜300万円出し、住宅ローンで3000万円借りれば、購入できそうなマンションだ。

 3000万円の住宅ローンならば、毎月の返済金は8万円〜9万円でボーナス時加算はなし。その金額であれば、当初予定していた賃貸の家賃と同じか、ローン返済のほうが安いくらい。毎月の管理費と修繕積立金、年1回の固定資産税が発生するが、それを補う住宅ローン減税がある。だったら、思い切って買ってしまおうか、と販売センターの扉を押したのである。

 これは、前向きなのか、無謀なのか。マンション分譲と資金計画の実情を交えながら、挙式と旅行をあきらめた若いカップルへの助言を試みたい。

「3200万円台から」と「3200万円台中心」の違いに注意

 まず、マンション価格の実情から。

 残念ながら、広告でマンション価格が「3200万円台から」と書かれている場合、実際に購入できる住戸はそれより高くなると考えたほうがよい。

 とはいっても、「2LDKが3200万円台」の住戸が存在しないわけではない。

 住戸が3階以上に配置されているとき、1戸だけ2階でしかも北向きの2LDK住戸があり、それだけが破格に安く3200万円台になっているケースがある。その特殊住戸を「3200万円台から」と看板のように扱っているわけだ。

 では、その2階で北向きの住戸を売ってもらうことはできるのか。これまた残念ながら、応じてもらえないのが普通だ。

 破格に安い住戸はいつでも買い手が付くので、最後の最後まで販売しない。結局、購入できるのは3500万円以上の2LDKとなりがちなのだ。

 「○○万円から」となっているマンションの場合、実際に購入できるのは、提示された最低価格より300万円か500万円高い住戸となるので注意が必要だ。

 一方で、安心してよいのは、「3200万円台中心」とか「3200万円台最多」と書かれている物件。これは、3200万円台の住戸が多いですよ、と宣言しているので、希望通り3200万円台の住戸を購入できる可能性が高い。それが、新築マンション価格の実情である。

手持ち資金300万円程度なら、頭金はその半分程度

 次に、頭金について。

 式と旅行を中止し、マンション購入を検討するカップルに話を聞くと、その手持ち金は、200万円〜400万円ということが多い。お祝い金を差し引いた式の実費として覚悟していた金額と旅行費用、新居で賃貸を借りた場合の敷金や礼金、手数料などの合算で、200万円から400万円程度の現金が2人の手元にあるわけだ。

 平均300万円として、それをすべてマンションの頭金として渡すわけにはいかない。というのも、マイホーム購入では、登記費用や税金などを現金で支払う必要があり、家具やカーテン、照明器具とエアコンなども買わなければならないからだ。

 これらは「諸費用」と呼ばれ、物件価格の1割程度必要とされる。3200万円のマンション住戸を買った場合は320万円……手持ちが300万円なら、すでにお金が足りない。

 しかし、がっかりするのは早い。新居購入となれば、カーテンや家具の代金は両方の親が援助してくれるケースが多い。援助がなければ、家具や家電製品はこれまで使っていた製品や実家にある中古で我慢することなどで、諸費用を抑えることができる。

 手持ち金が300万円の場合、諸費用分として150万円を残し、150万円を頭金とする……この資金計画は決して恥ずかしいものではなく、販売センターで胸を張って提示してよい。

 残る問題は、金融機関が住宅ローンを組んでくれるか、どうかだ。

 新婚カップルの場合、共働きの夫婦でダブルローンを組むのが、現在の主流。夫婦2人で住宅ローンを組めば、それぞれが住宅ローン減税を利用できる。子供がいない共働きの場合、税負担は大きくなるので、住宅ローン減税の効用は大きい。それをフル活用するわけだ。

 住宅ローンの審査は、マンション販売センターの販売員が銀行に掛け合ってくれるので、購入検討者は結果が出るのを待つだけだ。

 もし、審査に落ちても、販売員は別の金融機関と交渉してくれる。それもダメなら、さらに別の金融機関に……。そのように、金融機関を変えるごとに、金利や団信保険料(住宅ローンを組むときに加入が求められる生命保険の掛け金)が上がる傾向がある。そのため、最終的に審査が通った住宅ローンで購入するかどうかは、冷静に判断しなければならない。

 このように、高額の住宅ローンを組むのは、若い2人にとって大きなストレスになるはずだ。きちんと返済してゆけるのか、自分たちがマンションを買うのは無謀だったのではないか、と。が、マイホームを買うときは、どんな人でも、少なからぬ不安と迷いを感じながら、契約書に判を押すもの。そこで逡巡するなら、30代、40代になっても、決断できないだろう。

 私の個人的アドバイスとしては、式と旅行をあきらめたのなら、一生の思い出になる買い物をしてもよいのではないか。コロナ禍転じて福となす、前向きな生き方もわるくないと考えているのである。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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