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新型コロナの影響で来年3月引っ越し、4月入学ができない家庭も マンション建設にも影

櫻井幸雄住宅評論家
住宅設備機器の納入が遅れると、工事がストップして……。写真は筆者撮影のイメージ。

 新型コロナウィルスによる経済への影響が広がっている。

 中国から部品輸入が途絶えた結果、車や電化製品の生産に支障が出ているとされるが、マンション建設も例外ではない。

 現在、日本のマンション内には、中国で生産される部材が多い。特に、中国頼みの部分が多いのは、システムキッチンや洗面台、浴室など水回りと呼ばれる場所の設備機器。全体としては日本製なのだが、細かな金具や水栓に中国製を使用しているケースが多く、その部材が輸入されないので、製品が完成せず、納入が遅れはじめている。

 この状況は、マンションの完成を遅らせることになりかねない。といっても、この春に引き渡しとなるマンションはまったく問題ない。

 水回り設備は、たいていは半年以上前に、遅くとも昨年末までには設置済みであるからだ。影響を受けるのは、現在、工事が始まったばかり、もしくは工事半ばのマンションである。

影響を受けるのは、工事が始まったばかりのマンション

 新型コロナウィルスの影響を受けるのは、水回り設備がまだ入っていない工事段階のマンション。特に、今まさに水回り設備を入れようとしているタイミングのマンションは、厳しい局面を迎えている。

 建物の骨格ができあがり、大型設備となるシステムバス(浴室)を備え付けようとするタイミングの場合、システムバスが入らないと次の段階に入ることができず、工事全体が遅れることになりかねないからだ。

 多少工事が遅れても、それを取り戻すための猶予は設けられているが、それにも限界はある。設備機器納入が大幅に遅れれば、マンションの完成時期も遅れてしまうだろう。

 そうなると、予定されていた入居時期が遅れ、来年の春には、「子どもの小学校入学までに新居に引っ越すことができない」という家庭が出てくる可能性がある。

 第1子の小学校入学に合わせてマイホームを購入、という場合、3月に引っ越し、4月から引越先の公立小学校に入学、という段取りにしているケースが多い。二重にうれしいときになるはず……が、マンションの完成が遅れ、引っ越しが遅れると、新しい小学校に通学できないなど大きな影響が出てしまう。

青田売りを止めて、竣工売りが増える?

 建物の完成が遅れるかもしれない、そして遅れがどのくらいになるのかが分からない、という状況になった場合、不動産会社はマンションの販売時期をずらす可能性がある。建物が完成し、引き渡しの時期を明確に約束できないならば、引き渡し時期がはっきりするまで販売するべきではないと考えるからだ。

 そして、建物の完成時期がはっきり分かってから販売を開始しよう、もしくは、確実に建物ができあがってから販売を開始しよう、とする。つまり、これまでの販売方法を見直すわけだ。

 これまでの販売方法とは、「青田売り」である。

 青田売りとは、マンションができあがる前に、完成予想図や模型、モデルルームを見て購入を決める方式。稲が実る前、青田の状態で先買いする「青田買い」から派生した不動産用語である。20世紀まで、日本のマンションは、この青田売り方式が当たり前だった。

 青田売りに対して、近年、増えているのが、「竣工売り」とか「完成販売」とよばれる方式。建物が完成してから、実物の建物、実際の住戸内を見せて販売を行うものだ。

 竣工売りが広まってきた理由はいくつかある。

 たとえば、青田売りで販売を開始したが、売れ行きがわるく、販売を続けているうちに建物が完成し、「竣工売り」になってしまったというケースがある。また、都心部の場合、青田売りにしようと思ったが、販売センターを設ける場所が確保できず、仕方なく、できあがった建物内に販売事務所を設けて、「竣工売り」とすることもある。

 さらに、中古マンションと比較検討する購入者が増えてきたため、「入居は1年以上先」のマンションより、「即入居可」のマンションのほうが好まれる。だから、青田売りをやめて、竣工売りに切り替えたという例もある。

 結果的に竣工売りになってしまったケースがあるし、はじめから竣工売りにするケースもあるが、青田売りではなく、竣工売りが増えたのは事実。現在、新築マンションを供給する不動産会社が大手中心となり、青田売りしなくても資金ぐりに困らない、という事情も竣工売りが増えた理由として大きい。

 今、竣工売りは特別なことではなくなっている。そこで、今回新型コロナウィルスの影響で工事の遅れが発生するなら、いっそ竣工売りにしよう、という動きがさらに広まる可能性があるわけだ。

青田売りがなくなると、困るケースも

 現在、「これから販売するマンションは、すべて竣工売りにする」と決めた不動産会社はまだない。しかし、新型コロナウィルスの影響次第で、竣工売りとなるマンションが増えるだろう。

 これは、決してわるいことではない。実際の共用部や住戸内を見て、購入を検討できるので、確実なマイホーム購入が実現するからだ。

 一方で、短所も生まれる。それは、購入者によってはお金のやりくりができなくなること……青田売りの場合、契約時点で頭金相当額(分譲価格の1割から2割程度が多い)を支払い、1年後、2年後の入居までに引越資金や家具購入資金、諸費用などを貯めることが可能になる。

 購入を決めてから実際の入居まで期間があいていたため、マイホーム購入の資金繰りができたわけだ。もし、マイホーム購入に必要な金額を一度に支払え、と言われたら、自分は購入をあきらめたろう、という人は少なくない。

 じつは、私もかつてその1人だった。

 日本のマンションがすべて竣工売りになれば、「ぎりぎりのところで、なんとかマイホームを購入できる」という人たちが振り落とされてしまうかもしれない。

 新型コロナウィルスは、マンション購入者に思わぬ影響をもたらす可能性がある。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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