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首都圏すべての新築マンション高止まりか 「『の』の字の法則」がついに千葉まで波及

櫻井幸雄住宅評論家
不動産価格上昇が都心から千葉まで波及。中央右寄りが皇居。千葉県は左手側。筆者撮影

 船橋にある新京成線船橋高根公団駅から徒歩5分の大規模再開発マンションで、第1期1次と2次の販売が連続即日完売。JR中央総武線千葉駅から徒歩10分のマンションは第1期1次、2次、3次が連続完売。JR京葉線稲毛海岸駅から徒歩12分の大規模マンションでは、第1期1次分譲が好調だったため、追加販売が決定……いずれも、千葉県内で春から夏にかけて起きた出来事だ。

 3物件の最寄り駅は、すべて都心から電車で30分以上離れている。そして、特に駅に近いわけではない。2つのマンションは駅から徒歩10分以上。「船橋高根公団駅から徒歩5分」なら駅近といえるが、そもそも高根公団駅の知名度が低い。都心から同駅に向かうには東葉高速線北習志野駅で新京成線に乗り換えて2駅目となる。千葉県民でも、その駅には行ったことがない、という人が多いのではないか。

 千葉駅から徒歩10分のマンションがある場所は、千葉市中央区登戸。千葉市内の文教地区として知られ、落ち着いた住宅地が広がる場所だ。といっても、こちらも千葉市民以外には馴染みの薄い場所。神奈川県民なら、「登戸」と聞いて多摩川沿いにある小田急線・JR南武線の登戸駅を思い浮かべてしまうだろう。

 そのように地味な駅、地味な場所のマンションが好調に売れている大きな理由は、割安な価格にある。分譲価格を調べると、「3LDKが2400万円台から」、とか「3LDKが2500万円台から」、「1LDKが2200万円台から」というように3000万円を大きく割り込む価格表記が出てくる。さらに、再開発エリア内であったり、買い物便利という立地特性があり、3LDKで80平米以上というような広い住戸が目立つといった特徴もある。

 これだけ安く、内容がよければ、知らない駅であっても、そして駅から多少離れても「買いたい」という人は出てくるのだろう。

資産価値は低い、ともされるが……

 もちろん、知らない人が多い駅や駅から離れた場所のマンションには、資産価値の面で不安を感じる人が多いのも事実。「将来、高く売れないのではないか」「将来、高く貸せないのではないか」という不安だ。

 確かに、将来の値上がりは期待しにくい。しかし、郊外拠点駅の駅近マンションと比べてはるかに安く購入できる、という分かりやすい長所がある。

 急行や快速の停車駅で、駅から徒歩3分以内というような“激近”物件であれば、資産価値も高くなるだろうが、人気が高まったおかげで、分譲価格が大きく上昇してしまった。

 郊外でも駅近マンションは新築価格で3LDKが6000万円以上になることが多い。そこまで高くなると、将来、さらに値上がりすることは期待しにくい。それに比べて、3000万円を切る価格で購入できる3LDKには、購入時の「得」がある。

 だいたい、「資産価値」とは、転売して儲けること、人に貸して儲けることを考える投資家にとって重要な目安。購入して住み続けることを考えている実需層(自ら住む目的で購入する人たち)にとっては、資産価値の高さよりも安く購入できることのほうが大切だ。

 安く購入できる良質の新築マンションが千葉県内では、まだみつかる。それが、千葉県のマンション人気が高まっている理由だろう。

「の」の字の動きが千葉県まで波及

 首都圏で不動産価格の上昇が起きるとき、「値上がりの連鎖」は特殊な動きをする。都心から上がり始めた不動産価格は神奈川県に波及し、そこから北上して、東京都下、埼玉県に及ぶ。そして、千葉県に下りてきて一周となる。

 この動き(都心→神奈川→都下→埼玉→千葉)を地図の上でなぞると、ひらがなの「の」になる。そこから、不動産業界では、値上がりの広がり方を「『の』の字の法則」と呼んでいる。

 「の」の字で価格上昇が広がるとき、「千葉県まで値上がりが波及すれば、そこで値上がり時期は終息する」というのが、不動産業界で以前から言われていること。が、必ずしも「おしまい」ではなく、平成バブルの時は、千葉県まで波及してからもう一度都心部の不動産価格が値上がりし、「の」の字がもう一周した。

 そして現在、都心部の新築マンション価格は、平成バブル期の最高水準をあっさり超えて、下がる気配がない。従来の経験則が通用しない不動産市況に入っているとみれば、「千葉まできたら、上げ相場もおしまい。後は下がるだけ」と安心していることはできない。都心部で見られる「高止まり」が、神奈川、都下、埼玉、千葉に広がり、すべての場所が高止まりする可能性だってある。

首都圏で「3000万円3LDK」はもはや絶滅危惧種

 この「の」の字が、2019年に千葉県に入ったようだ。市川や津田沼、西船橋といった東京寄りの拠点駅周辺では、駅近マンションの価格が上がり、駅から徒歩3分以内の新築マンションでは70平米クラスの3LDKが7000万円と値付けされるケースが増えた。神奈川県の武蔵小杉や横浜、埼玉県の浦和といった拠点駅周辺と同じ価格水準だ。

 それら都心寄りの拠点駅周辺以外であれば、千葉県内では3000万円を切る3LDKがみつかる。が、この価格水準はいつまでも続きそうもない。というのも、千葉県内では、3年くらい前まで3LDKが3000万円前後で購入できる場所はもっと多かったのだが、そのエリアがどんどん小さくなっているからだ。

 今や、首都圏の通勤圏で絶滅危惧種となりつつある「3000万円3LDK」。それがわずかに残っている場所が千葉県で、残り少ないマンションに購入者の熱い視線が集まっている。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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