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GW明けこそ共感できる、「鈍幸族(どんこうぞく)」と呼ぶべき生き方

櫻井幸雄住宅評論家
10連休の後だから、朝の通勤ラッシュが余計につらい。それを回避するには……。(GYRO PHOTOGRAPHY/アフロ)

 新宿区内の会社に勤めるT部長は、神奈川県の厚木市在住。最寄り駅は小田急小田原線の厚木駅だ。同駅は各駅停車しか停まらないため、新宿駅まで向かうときは隣の海老名駅で快速急行や急行に乗り換えるのが普通。その場合、新宿までの所要時間は乗り換えを含めて1時間弱となる。しかし、T氏は朝の通勤時、海老名駅で快速急行や急行に乗り換えない。

あえての各駅停車で、30分遅くなっても「体は楽」

 海老名駅で乗り換える乗客が立った後の席に座り、各駅停車のまま新宿駅に向かう。その場合の所要時間は約1時間30分。快速急行や急行に乗り換えるより30分ほど余計に時間がかかるが、座席を確保できる可能性が高い。座ってゆったり1時間30分なら、ラッシュの車内で1時間立ち続けるより「体は楽」と考えるからだ。

 ちなみに、帰宅時は新宿駅から快速急行や急行を利用。途中駅の海老名駅や相模大野駅、町田駅まで特急ロマンスカーを利用することも多い。帰りは1分でも早く帰りたいし、片道だけならロマンスカーの特急料金(410円から570円)も許されるでしょ、とT氏。行きは鈍行なのだが、帰りは鈍行にこだわらない。帰宅時間は分散されるので、朝のラッシュほど酷くない。だから、ロマンスカーの特急券を買うことができなければ、快速急行や急行でもよい、と考えている。

各駅停車での通勤を選ぶ「鈍幸族」多発エリアは

 T氏のように、朝の上りは急行や快速を利用せず、各駅停車での通勤を選ぶ人を私は「鈍幸族(どんこうぞく)」と呼んでいる。あえて鈍行(どんこう=各駅停車の俗名)を選択し、時間がかかっても“ゆったり通勤”に幸せを感じる人たちだ。

 鈍幸族は、首都圏全域で増加していると思われる。そのことに気づいたのは、15年ほど前、横浜駅から東京駅への通勤で、JR東海道本線を利用せず、JR京浜東北線を選択する人が少なからずいることを知ったときだ。

 京浜東北線は、東海道本線に並行する各駅停車と考えられる。横浜駅から、あえて時間がかかる各駅停車=京浜東北線を利用するのは、この「混雑度が緩やかなこと」を好むからだ。

 鈍幸族は首都圏各地に存在する。

 西武池袋線の大泉学園駅では、隣の石神井公園駅で快速や急行に乗り換えることなく、各駅停車で池袋駅に向かう鈍幸族がいる。東武東上線では、池袋駅と成増駅の間にある8駅は、すべて各駅停車しか停まらない。この鈍行停車駅を利用する人たちは、「鈍行のほうが空いていて、いいよね」と鈍行大好き。これは、鈍幸族の別種といえる。

鈍幸族にとって、残念な路線とは

 一方で、首都圏には、鈍幸族にとって「残念」な路線もある。それは、ラッシュ時の混雑がひどいとされる東急田園都市線だ。以前は、二子玉川駅から鷺沼駅までの間に住む人に鈍幸族が多かったのだが、今は事情が変わった。

 東急田園都市線では、朝の通勤時間帯に急行がなくなり、各駅停車と準急のみの構成。その準急は二子玉川駅・渋谷駅の間はすべての駅に停車するため、各駅停車との時間差がほとんどなくなってしまった。その結果、各駅停車も準急も等しく混雑する、という逃げ場のない状況が生まれてしまったのだ。

 朝のラッシュ時以外であれば、東急田園都市線にも鈍幸族がいる。

 たとえば、溝の口駅と鷺沼駅の間に位置する宮崎台駅の場合、宮崎台から各駅停車に乗り、途中の溝の口駅で急行に乗り換えると、渋谷駅までの所要時間は日中で16分。といっても、この「16分」は電車に乗っている時間で、実際には乗り換えの時間が加わるので、実質的な所要時間は18分程度といったところ。これに対し、乗り換えなしの各駅停車で渋谷駅に向かった場合の所要時間は、22分。これは、途中駅で急行の通過待ちがない最速のケースで、通過待ちがあると所要時間は25分程度となる。つまり、急行を利用する場合と各駅停車を利用する場合で、ほどよい差が生まれる。

 「ほどよい差」というのは、「急ぐ人は、迷わず急行に乗る」一方で「混雑度が緩やかな車両を好む人は時間がかかっても各駅停車を選ぶ」という乗り分けが生じやすい時間差という意味だ。

 実際、東急田園都市線で朝のラッシュ時に急行があった頃、各駅停車は今よりも空いていた。だからこそ、鈍幸族は繁栄できた。現在の東急田園都市線は鈍幸族にとって苦難の路線ということになる。

 このほか、各駅停車に乗ると、急行電車等の通過待ち合わせが多くてイライラする路線や、快速と各駅停車では行き先が異なる場合、鈍幸族は繁栄しにくい。たとえば、千葉駅や稲毛駅から東京駅に向かうとき、総武線快速と各駅停車(中央・総武緩行線と呼ばれる。緩行線の読み方は「かんこうせん」)は、途中駅で行き先が分かれてしまう。それでは、各駅停車を利用しにくいわけだ。

 鈍幸族が増えるためには、各駅停車を利用しやすい路線であることが必要。ただし、各駅停車を利用しやすくても、鈍幸族になると通勤に要する時間が増すため、早起きすることが求められる。たとえ早起きしても、ラッシュの電車を避けたい、と考える人ならば、鈍幸族の候補だ。

 今年のゴールデンウィークは最大10日も休みが続いた。あまりに長くのんびりしたせいで、今日(5月7日)、「その気持ち、分かるわ」という人が多いのではないだろうか。そんなアナタは、明日から鈍幸族の仲間入りを検討してみませんか。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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