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今や懐かしい。平成で姿を消した住宅設備は?

櫻井幸雄住宅評論家
親子での入浴が可能が大型浴槽。楽しそうだが、実際に使うと……。筆者撮影

 まもなく終わろうとしている「平成」。「不動産バブル」とともに始まった平成は、不動産が大きく揺れ動いた時代だった。

 平成13年、21世紀に入った年に「都心マンションブーム」が起きた。平成20年(2008年)には「リーマンショック」とともに、不動産価格が下落。底打ちしたと思われた平成23年3月に東日本大震災が起きて、「二番底」の状況が生まれた。そして、平成25年(2013年)、東京五輪招致が決まってから、上昇が始まった。

 平成時代に不動産価格は3回上昇し、3回下落した。といっても昭和時代も値上がりと値下がりを繰り返したので、「上がったら下がる」のは、不動産の宿命みたいなもの。そのことを知っている人たちが「もうすぐ下がる」というのも、当然なのである。

消えた設備の代表は“親子浴槽”

 不動産は、値上がりと値下がりを繰り返しながら進化し、新しい住宅設備機器が次から次に生み出されてきた。

 ところが、新しい設備機器は必ずしも重宝がられるものばかりではなかった。なかには、使ってみたら「?」が点灯するものがあり、驚くほど短命に終わるものもあった。

 平成時代に生まれ、令和の時代まで生き残れなかった設備機器の代表に“親子浴槽”とも呼ばれる大型浴槽がある。

 平成の半ば、15年くらいに生まれたもので、その形状から「シェル(貝)型」が正式名称。浴槽を上からみたとき、浴槽の一辺が張り出すように湾曲しており、まるで貝のように見えるのがネーミングの由来だ。張り出した部分の浴槽内には段差が設けられており、小さな子どもが腰掛けられる仕組みになっていた。

 浴槽が大きくなったおかげで、小さな子ども2人と親の計3人が無理なく入浴できる、と喜ばれ、一時は多くのマンションに採用された。が、使ってみると、いくつか不都合な点が生じた。

 まず、浴室内で浴槽が占める面積が大きくなり、洗い場が狭くなった。狭い場所で頭や体を洗うと、肘が浴槽にぶつかる。泡が浴槽内に入りやすい。

“親子浴槽”は浴槽が大きく張り出し、洗い場を圧迫した。筆者撮影
“親子浴槽”は浴槽が大きく張り出し、洗い場を圧迫した。筆者撮影

 なにより困ったのは、子どもが一緒に入浴してくれなくなると、広い浴槽を持てあますこと。お湯がもったいない、と下のほうにだけ湯を張り、寝そべるように入浴するのは情けない……。この大型浴槽はやがて新築マンションから姿を消した。

 以下は昭和時代からあるものだが、洗面所で頭を洗うことができるシャンプードレッサーは「泡が飛んで、掃除が大変」と平成で人気が下落。ステンレスのキッチン天板も平成時代に減ってしまった。リビングから丸見えになるオープン型キッチンでは、天然石か人工大理石のカウンターのほうがムードが和らいで好ましいからだろう。

使用率ほぼ100%の「シートフローリング」

 一方、平成時代に生まれ、すっかり定着した住宅設備もある。

 代表は、24時間換気システムだろう。住戸内の空気を低風量で入れ換え、カビの発生を防ぐ設備機器で、今はほとんどのマンション、一戸建てに備えられている。この装置のおかげで、北向きや西向きの部屋でも、カビの心配なく暮らすことができるようになり、北向きマンションの人気を上げた立役者といってよい。

 もうひとつ、住宅建材としてマストアイテムになっているのは、シートフローリング。フローリング(木質床)に見えるのだが、表面はビニール系素材で木の模様がプリントされたもの。ビニール系素材なので、ワックス掛けの手間がかからず、キズも付きにくい。

シートフローリングなら、水がこぼれても問題ないので、キッチンでも使用しやすい。そして、見た目は「木」そのものだ。筆者撮影
シートフローリングなら、水がこぼれても問題ないので、キッチンでも使用しやすい。そして、見た目は「木」そのものだ。筆者撮影

 そして、なによりすごいのは、不動産や建築のプロでも、「ビニール系素材」だと分からず、「木の床だ」と思えてしまう出来のよさ。「我が家の床はシートフローリング」と気づかず暮らしている人は意外と多いはずだ。

 平成の後半10年間に建設されたマンションは、一部高額物件を除き、ほぼ100%でシートフローリングが採用されていると言ってよい。

 24時間換気システムもシートフローリングも、当たり前に備え付けられ、目立つことなく役立っている。それこそが、長寿の条件なのだろう。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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