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“バブリー”と言われた恵比寿の超高層マンション。完成した建物を見てきた。

櫻井幸雄住宅評論家
「シティタワー恵比寿」は、23階建てでも眺望が広がる住戸が多かった。筆者撮影

 3月に建物が完成した「シティタワー恵比寿」(住友不動産)は、“バブルの象徴”のように扱われた時期があった。そのマンションが完成し、関係者向け内覧会が開かれたので、実際の建物はどんなものか見に行ってきた。

建物が完成した「シティタワー恵比寿」。23階建てなので、それほど高い印象は受けない。筆者撮影
建物が完成した「シティタワー恵比寿」。23階建てなので、それほど高い印象は受けない。筆者撮影

 「シティタワー恵比寿」が“バブルの象徴”のように扱われたのは、同マンションの販売が始まった2017年のこと。当時、都心マンションの価格上昇が顕著で、「都心マンションは高くなりすぎ。まもなく暴落する」と言われ、2017年1月には「暴落は秒読み」という大胆な予測まで出された時期だった。

「高くなった都心マンション」の代表だった時期も

 暴落論が吹き荒れた時期に「シティタワー恵比寿」は販売を開始。その住戸には分譲価格2億円を超える3LDKがあったため、「高くなった都心マンション」の代表として扱われたこともある。

 その時期、都心部では新築物件が減り、特に山手線内側では総戸数が200戸を超えるような大規模マンションが姿を消した。山手線内側で唯一の大規模タワーといえるマンションが「シティタワー恵比寿」だった。

 目立つ「シティタワー恵比寿」に2億円の3LDKがあったため、「高い」印象が生まれたのだろう。“バブリーなマンション”という評価もあった。しかし、実際は、飛び抜けて高額というわけでもなかった。

 たとえば、六本木のミッドタウンに隣接する「パークコート赤坂檜町ザ タワー」が販売され、短期間に完売したのが2015年から16年にかけて。その分譲価格は最高額住戸が専有面積203平米で15億円。「平均坪(3.3平米)単価は約1000万円」だったので、80平米の3LDKが2億5000万円のレベルとなっていた。

 これに対して、「シティタワー恵比寿」で現在購入可能な住戸は、上層階に配置される約150平米のプレミア住戸で約6億円だ。15階で約75平米、広めの2LDKならば約1億7000万円、約60平米の2LDKならば約1億2000万円など。特に高額というわけではない。「山手線内側で唯一の大規模タワー」という性格は今も変わっておらず、そのことを考え合わせれば、現在、都心部で分譲されているマンションのなかでは割安とさえ思える。

じつは、立地の魅力が大きいのも恵比寿の魅力

 ここまで説明すると、「六本木に比べれば、恵比寿は安くなって当然」といわれそうだ。しかし、現在の恵比寿には立地の魅力も多い。

 まず、恵比寿は、渋谷の隣駅だ。現在、渋谷駅周辺では規模の大きな再開発が行われ、急ピッチで新しい街に生まれ変わろうとしている。その新しい渋谷駅周辺に今後所有権分譲のマンションが生まれることは考えにくい。その結果、恵比寿駅周辺は渋谷駅に隣接して、マンションを所有できるエリアとして注目度を上げている。

 渋谷だけでなく、麻布や広尾、中目黒、代官山に囲まれ、それらの街に散歩感覚で出かけられる……そんな立地特性が評価されて、各種の「住みたい街ランキング」で恵比寿が1位になっているのだろう。恵比寿は、六本木と比べ、そんなに格下の街ではない。

建物もバブリーではなく、シックな隠れ家風

 「シティタワー恵比寿」の建設地は、JR山手線恵比寿駅の東口側。恵比寿駅東口から徒歩7分で、山手線の内側に位置する場所だ。駅から徒歩7分だが、周囲には店舗が多い。食料品店、酒屋、花屋などの個人商店が多く、飲食店も豊富。そのなかには隠れ家的有名店もある。

 「シティタワー恵比寿」の建設地は、交通量の多い通りから一歩奥に入った場所で、こちらも隠れ家的な立地条件となる。

 地上23階建て全310戸の超高層大規模マンションなのだが、エントランスは控えめ。公道から少し入ったところに、二重のガラスドアがあるだけだ。エントランスに続くホールも2層吹き抜けとかお城のような大空間ではない。ちょっとだけ天井が高く、広めのスペースだ。コンシェルジュカウンターがあり、上品なインテリアでまとめられたエントランスホールは、バブリーなムードとはほど遠い。

エントランスに掲げられたマンション名。表示はシンプルで、控えめでもある。筆者撮影
エントランスに掲げられたマンション名。表示はシンプルで、控えめでもある。筆者撮影

 住戸内の質も高く、玄関からLDに向かう廊下とトイレ、洗面所の床は天然石張り。キッチンにはディスポーザーと食器洗い乾燥機が標準設置されるのだが、プレミアム住戸の食器洗い乾燥機はドイツ・ミーレ社の大型サイズだ。システムキッチンと洗面台のカウンターは天然石。そして、LDには天井埋め込み型カセットエアコンが付き、一部住戸の寝室にも天井埋め込み型カセットエアコンが付く。

 都心マンションでは1億円台でも、住戸内はスタンダードレベルの住戸が増えてきた。これに対し、「シティタワー恵比寿」は価格に見合う質の高さを備えている。これは、建物を見学して強く感じた印象である。

 加えて、実際の建物内で驚いたのは、眺望のよさだ。

 「シティタワー恵比寿」は、地上23階建てであるため、超高層マンションとしては特に背が高い建物ではない。しかし、建設地周辺には14階建て程度の建物が多いため、上層階は都心各方向への眺望が開ける住戸が多くなる。住戸によっては、六本木ヒルズや東京タワーの姿が見事なほどきれいに見える。その眺望を満喫するため、同マンションの住戸は窓が大きい。リビングにコーナーサッシを備える住戸もある。

23階建て上層階には、六本木ヒルズと東京タワーのほぼ全景が見える住戸もある。筆者撮影
23階建て上層階には、六本木ヒルズと東京タワーのほぼ全景が見える住戸もある。筆者撮影

 完成済み建物を見学すると、モデルルームでは分からなかったことに驚くことがある。販売開始時に“バブリー”と言われた「シティタワー恵比寿」は、まさに驚きの多いマンションだった。

 

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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