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かけそば250円、もりそば300円 良心的過ぎる自家製麺の大衆そば屋「まる美」

坂崎仁紀大衆そば研究家・出版執筆編集人・コラムニスト
良心的過ぎる自家製麺の大衆そば屋「まる美」のそば(筆者撮影)

 最近は大衆そば屋・立ち食いそば屋の値段もうなぎ上りだ。大手チェーン店では「かけそば」は400円、「天ぷらそば」は500円を超えるところも増えている。コロナ禍・ウクライナ紛争前からほぼ100円以上の値上げである。

 しかし、いまだに値上げをしていない店がいくつか存在している。2021年2月に東急多摩川線矢口渡駅近くの環八沿いにオープンした「まる美」もその1つである。「まる美」は立ち食いコーナーはなく、すべてカウンターの座席スタイルの大衆そば屋である。

東急多摩川線矢口渡駅近くの環八沿いにオープンした「まる美」(筆者撮影)
東急多摩川線矢口渡駅近くの環八沿いにオープンした「まる美」(筆者撮影)

すべてカウンターの座席スタイルの大衆そば屋(筆者撮影)
すべてカウンターの座席スタイルの大衆そば屋(筆者撮影)

自家製麺・自家製つゆ・天ぷらの大衆そば屋「まる美」

 そばは自家製麺、つゆも自家製の本返しに鰹節の厚削りや薄削り節などで出汁を毎朝ひいて作った本格的なもの。天ぷらも毎朝揚げる自家製というから驚きである。「かけそば」は250円、「もりそば」「たぬきそば」「きつねそば」「わかめそば」「月見そば」「もりそば」は300円という値段設定は今どき見かけない。天ぷらはだいたい100円なので「かき揚げ天そば」「ちくわ天そば」「紅生姜天そば」「春菊天そば」「コロッケそば」は350円。「いか天そば」「肉そば」「カレーそば」でも400円である。

 「ミニカレーライス」(250円)、「カレーライス」(400円)とサイドメニューもお得感満載である。余りにも良心的過ぎるので、お客さんが「値上げした方がいいんじゃないの?」と店主の古瀬博文さんに言ってくることも多いそうだ。

今どきの値段を大きく下回るラインナップ(筆者撮影)
今どきの値段を大きく下回るラインナップ(筆者撮影)

トッピングやセットものもお得(筆者撮影)
トッピングやセットものもお得(筆者撮影)

「もりそば」は300円と安い(筆者撮影)
「もりそば」は300円と安い(筆者撮影)

天ぷらを付けた「もりそば」は400円、これがうまい

 「かき揚げ」「ちくわ天」「紅生姜天」「春菊天」などと「もりそば」を頼むと400円。そしてこのそばがまたうまい。やや細めのそばはコシもあって茹で立てである。もりつゆもきりっと濃いめの味で雑味がない。天ぷらもかりっと揚げられており、つゆにつけて食べていくと堪らない。また頼めばつゆを熱くしてもらえる。これも「つけ天」のようでなかなか良いし、ラー油で味変するのも大変楽しい。

「天ぷら」1つと「もりそば」で400円(筆者撮影)
「天ぷら」1つと「もりそば」で400円(筆者撮影)

天ぷらを付けた「かけそば」は350円で沁みるうまさ

 天ぷらを付けた「かけそば」は350円。アツアツのしっかりしたつゆがじんわりと天ぷらに沁みてきて、これもまたうまい。春菊天もかりっと揚げられており、つゆとの相性が抜群だ。こちらも七味だけでなくラー油をかけて味変を楽しむのも良いと思う。

「春菊天そば」は350円で春菊天はしゃきっとつゆは本格的(筆者撮影)
「春菊天そば」は350円で春菊天はしゃきっとつゆは本格的(筆者撮影)

「カレーそば」はこの時期のおススメ

 「カレーそば」は「カレーライス」のルーを「かけそば」にかけたタイプだが、これが辛さがじわじわと来て堪らない。カレーは典型的なそば屋のカレーでややぴり辛いタイプ。「コロッケ定食」や「ハムカツ定食」も550円とほぼワンコイン。

「カレーそば」は「カレーライス」のルーを「かけそば」にかけたタイプ(筆者撮影)
「カレーそば」は「カレーライス」のルーを「かけそば」にかけたタイプ(筆者撮影)

古瀬店主にきいてみた

 しかしこんなに安い値段でしかも本格的な自家製のメニューを出して大丈夫なのか、店主の古瀬博文さんにきいてみたところ次のような回答が返ってきた。

「うちはもともと川崎の向河原駅近くで古瀬製麺所を経営していました。コロナで製麺は辞めて、いまはまる美用に自家製麺しているだけです。ですから、その分低コストで提供できます。でも、かけそばともりそばの値段は安くし過ぎてしまったなと痛感しています」

「ミニカレーライス」も250円でうまい(筆者撮影)
「ミニカレーライス」も250円でうまい(筆者撮影)

今の内に「まる美」を味わう作戦実行中

 古瀬店主は「しばらくは値上げをしないで頑張っていく」と有難いコメントをしてくれた。とはいっても、今年またそば粉や油の値段が上がるというし、いつかは値上がりする運命であるとは思う。それまでは定期的に訪問して、いろいろなメニューを味わおうと画策している。個人的には、「天ぷらトッピング」(100円)と「半ライス」(150円)で作る「ミニ天丼」(250円)にハマっているところである。

まる美
住所:東京都大田区多摩川1-2-23
営業時間:6:00~15:00(売り切れ次第終了)
(当面は不定休とのことです)

大衆そば研究家・出版執筆編集人・コラムニスト

1959年生。東京理科大学薬学部卒。中学の頃から立ち食いそばに目覚める。広告代理店時代や独立後も各地の大衆そばを実食。その誕生の歴史に興味を持ち調べるようになる。すると蕎麦製法の伝来や産業としての麺文化の発達、明治以降の対国家戦略の中で翻弄される蕎麦粉や小麦粉の動向など、大衆に寄り添う麺文化を知ることになる。現在は立ち食いそばを含む広義の大衆そばの記憶や文化を追う。また派生した麺文化についても鋭意研究中。著作「ちょっとそばでも」(廣済堂出版、2013)、「うまい!大衆そばの本」(スタンダーズ出版、2018)。「文春オンライン」連載中。心に残る大衆そばの味を記していきたい。

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