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「かき玉あつもり」に「シャウエッセン4本そば」-梅島駅「立喰そば雪国」のユニークメニュー-

坂崎仁紀大衆そば研究家・出版執筆編集人・コラムニスト
「シャウエッセン4本そば」(筆者撮影)

 大衆そば屋・立ち食いそば屋は新メニュー誕生の場だと思う。今回は東武スカイツリーラインの梅島駅近くにあるユニークなメニューがある店「立喰そば雪国」を紹介しようと思う。寒波襲来のこの時期にピッタリのメニューもある。

ユニークなメニューがある店「立喰そば雪国」

 「立喰そば雪国」は梅島駅改札を出て10秒で到着する便利な立地の店である。創業は昭和54年。先代が開業し二代目の山田勇さん(51歳)が2014年に、つゆや天ぷらの味を引き継ぎリニューアルして現在に至っている。

「立喰そば雪国」は梅島駅改札を出て右の路地すぐ10秒で到着(筆者撮影)
「立喰そば雪国」は梅島駅改札を出て右の路地すぐ10秒で到着(筆者撮影)

「立喰そば雪国」の創業は昭和54年(筆者撮影)
「立喰そば雪国」の創業は昭和54年(筆者撮影)

いつも元気な二代目店主山田勇さん(筆者撮影)
いつも元気な二代目店主山田勇さん(筆者撮影)

熟成度が分かるつゆ・返し、そして天ぷらも自家製

 つゆは出汁と返しを合わせて作られる。出汁はたっぷりの鰹節、鯖節などを使う。返しも自家製である。

 出来立ての返しは早熟で、徐々に完熟まで約2週間で変化していく。それに合わせてつゆも早熟から完熟まで変化する。「立喰そば雪国」ではその日のつゆ・返しの熟成度を店の注文口に表示している。利用客はそれをみてトッピングを選んだりできる。他店ではみないユニークな取り組みである。

つゆ・返しの熟成度がわかる(筆者撮影)
つゆ・返しの熟成度がわかる(筆者撮影)

天ぷらは「かき揚げ」、「春菊天」、「なす天」が人気

 天ぷらは「かき揚げ」、「玉葱天」、「紅生姜天」、「春菊天」、「ごぼう天」、「きんぴら天」、「なす天」、「竹輪天」、「(魚肉)ソーセージ天」などを早朝と足りない場合は昼時に自家製している。「かき揚げ」、「春菊天」、「なす天」などが人気だという。どれもカリッとした揚げ具合で、2つ選ぶ常連も多いとか。

 麺は大手製麺所の茹麺だが、更科そば、藪そば、田舎そば、うどんの4種類から選ぶことができる。これは二代目のアイデアである。

麺は4種類から選べる(筆者撮影)
麺は4種類から選べる(筆者撮影)

美味しそうな自家製天ぷらが並ぶ(筆者撮影)
美味しそうな自家製天ぷらが並ぶ(筆者撮影)

寒い時期は「かき玉あつもり」がおすすめ

 さて話題をメニューに移そう。1月末、実に2年ぶりに訪問した。山田店主が笑顔で迎えてくれた。相変わらず厨房との仕切りや壁一面にメニューが貼られている。店主にこの時期おすすめのメニューを聞いてみると、「かき揚げの天ぷらそばなど温かいメニューはもちろん人気ですが、つけ天やあつもり、特に正式メニューになったかき玉あつもりはおすすめ」という。

壁にメニューがずらっと並ぶ(筆者撮影)
壁にメニューがずらっと並ぶ(筆者撮影)

「かき玉あつもり」が正式メニュー(筆者撮影)
「かき玉あつもり」が正式メニュー(筆者撮影)

 そこでさっそく「かき玉あつもり、春菊天トッピング、麺は田舎そば」(450円)を注文してみた。すると手際よい所作で1分ほどで完成した。登場したその姿に気分が一気に高揚した。

「かき玉あつもり、春菊天トッピング、麺は田舎そば」(450円)(筆者撮影)
「かき玉あつもり、春菊天トッピング、麺は田舎そば」(450円)(筆者撮影)

田舎そばから立ちのぼる湯気に気分もアップ

 どんぶりに入った田舎そばから湯気が立ちのぼる。そばの上に玉子が落としてある。つゆはアツアツでねぎが散らしてある。春菊天は別皿で到着した。玉子をよく麺と和えて、七味を振りかけて、つけ汁につけて食べてみる。熱いつゆの出汁の香りと芳醇な返しの香りが広がる。熱いそばから、そばの香りが伝わってくる。途中春菊天を熱いつゆに入れて食べていく。からだの芯まで温まるようだ。これは寒い時期には抜群の組み合わせだ。最後までアツアツ感が続いていた。コロナ禍前に一度食べたことがあるがだいぶ進化している。

 老舗のそば屋でも「あつもり」を出すところはあるが、「かき玉あつもり」のような冒険はちょっとできないだろう。ナイスなアイデアである。

アツアツの田舎そばに七味をドバっとかけて(筆者撮影)
アツアツの田舎そばに七味をドバっとかけて(筆者撮影)

最後までアツアツ感が続いていた(筆者撮影)
最後までアツアツ感が続いていた(筆者撮影)

次は「シャウエッセン4本そば」を注文

 気が付けば一気に食べ終わっていた。そこでもう一度壁のメニューを眺めてみると、「たぬき」と「シャウエッセン2本」をのせた「シャウエッセンそば」があった。これにシャウエッセンを単品で追加できるか聞いてみると、もちろんできるというので、「シャウエッセン4本そば」(630円)を追加注文することにした。

 こちらも1分少しで完成した。「シャウエッセン」が4本のるとなかなか壮観である。まず1本をガブっとかじる。そのアツアツの燻製香の肉汁が香り豊かなアツアツのつゆと相まって、口福感に包まれる。そばつゆと燻製香のマッチング効果は想像以上である。「シャウエッセンそばだけ食べにくるお客さんも多いんです」と山田店主はいう。けっして老舗店では扱えない食材を大胆にアレンジできるのも立ち食いそばの醍醐味・一興である。

「シャウエッセン4本そば」(630円)を追加注文(筆者撮影)
「シャウエッセン4本そば」(630円)を追加注文(筆者撮影)

丁寧な仕込みの仕事に感動

 燻製香の余韻に浸っていると、山田店主が春菊天の仕込みを始めていた。丁寧に洗ってから、汚れなどを取り除いて、葉っぱを手でちぎって分け、茎も食べやすいように切り分けていく。「かき揚げにするため、当店では先代からこの方法です。他の野菜も同じようにきれいに洗って丁寧にカットしています」と山田店主。

春菊は丁寧に洗ってから汚れなどを取り除いてかき揚げにする(筆者撮影)
春菊は丁寧に洗ってから汚れなどを取り除いてかき揚げにする(筆者撮影)

 久しぶりに「立喰そば雪国」の進化した素敵なメニューを味わうことができた。「かき玉あつもり」はカレーをかけてもうまいだろうし、シャウエッセンは「たまごかけご飯」に載せてもうまいに違いない。しかもどのメニューも手頃な値段で頑張っている。次回の訪問が楽しみである。

「立喰そば雪国」

住所    東京都足立区梅島1-12-7

営業時間 6:30~18:00(土17:00まで)

定休日  日祝

大衆そば研究家・出版執筆編集人・コラムニスト

1959年生。東京理科大学薬学部卒。中学の頃から立ち食いそばに目覚める。広告代理店時代や独立後も各地の大衆そばを実食。その誕生の歴史に興味を持ち調べるようになる。すると蕎麦製法の伝来や産業としての麺文化の発達、明治以降の対国家戦略の中で翻弄される蕎麦粉や小麦粉の動向など、大衆に寄り添う麺文化を知ることになる。現在は立ち食いそばを含む広義の大衆そばの記憶や文化を追う。また派生した麺文化についても鋭意研究中。著作「ちょっとそばでも」(廣済堂出版、2013)、「うまい!大衆そばの本」(スタンダーズ出版、2018)。「文春オンライン」連載中。心に残る大衆そばの味を記していきたい。

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