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どんぶりを覆い尽くす至高のゲソ天に出会える店-千葉県市川市の人気店「鈴家」-

坂崎仁紀大衆そば研究家・出版執筆編集人・コラムニスト
どんぶりを覆い尽くすゲソ天がのった「ゲソ天そば」(筆者撮影)

「ゲソ天そば」の名店といえば…

 イカの足を揚げた「ゲソ天」は、独特のうまみと食感がクセになる。その「ゲソ天そば」の名店といえば、まず「ゲソ丼」発祥の店として知られる北海道旭川市の「天勇」、東京都千代田区神田須田町の「六文そば」、「六文そば」からスピンアウトした東京都荒川区西日暮里の「一由そば」、そして千葉県市川市の「鈴家」などを思い出す。今回は「鈴家」を紹介する。

JR総武線市川駅に降り立つ(筆者撮影)
JR総武線市川駅に降り立つ(筆者撮影)

鈴家はずっと市川駅南口で営業

 「鈴家」は1977(昭和52)年創業の古参店である。市川駅南口すぐで創業したが、その後の駅前再開発で3度引っ越して今のザタワーズイーストに移転した。店主は三戸治次(さんのへはるじ)さん。奥さんの奈穂子さんと切り盛りしている。

2005年頃の商店街にあった「鈴家」(筆者撮影)
2005年頃の商店街にあった「鈴家」(筆者撮影)

南口に出てすぐのエスカレータに乗りそして左へ(筆者撮影)
南口に出てすぐのエスカレータに乗りそして左へ(筆者撮影)

ザタワーズイーストに進み右の方へ(筆者撮影)
ザタワーズイーストに進み右の方へ(筆者撮影)

駅改札から1-2分ですぐに「鈴家」に到着(筆者撮影)
駅改札から1-2分ですぐに「鈴家」に到着(筆者撮影)

黙々と「ゲソ天」を揚げる三戸店主

 2023年1月半ば、4年半ぶりに訪問した。午前10時過ぎに到着すると、三戸さんが笑顔で迎えてくれた。黙々とゲソ天や他の天ぷらを揚げている最中だった。さっそく「かけそば」(350円)に「ゲソ天」(300円)と「春菊天」(100円)を注文した。

店主の三戸治次さん(筆者撮影)
店主の三戸治次さん(筆者撮影)

ゲソ天とごぼう天(筆者撮影)
ゲソ天とごぼう天(筆者撮影)

ちくわ天、春菊天、かきあげ天(筆者撮影)
ちくわ天、春菊天、かきあげ天(筆者撮影)

どんぶりを覆い尽くす鈴家の「ゲソ天」登場

 待つこと2分。すぐにどんぶりが登場した。どんぶりから湯気とともに「ゲソ天」の香りがすぐに漂ってくる。「鈴家」の「ゲソ天」は何といってもどんぶりを覆い尽くすようなダイナミックさが魅力だ。直径15センチはあるだろう。浅めの揚げ色も食欲をそそる。

直径15センチはある「ゲソ天」は浅めの揚げ色(筆者撮影)
直径15センチはある「ゲソ天」は浅めの揚げ色(筆者撮影)

 材料はアカイカ(ムラサキイカ)。冷凍ブロックを仕入れ、いったん出汁や返しで炊いて身を柔らかくする。その後、ゲソを適度な大きさに切ってじっくり揚げる。店主オリジナルの調理法である。ガブっとゲソを噛み締めるとコリっとした歯ごたえが返ってくる。もう、何も言うことはない。口福感と至福のひと時に包まれる。

 「春菊天」が「ゲソ天」の下に隠れて行方不明になっている。それをややずらして箸でつまむ。こちらも香りがよい。「ゲソ天」と「春菊天」は相性がいい。

ゲソ天の下に春菊天が隠れている(筆者撮影)
ゲソ天の下に春菊天が隠れている(筆者撮影)

つゆは透き通ったやや関西風

 つゆをひとくち。鰹節、サバ節で出汁をとり、薄口醤油とザラメなどを合わせた透き通ったやや関西風のつゆである。「海(潮)のつゆ」などと地元マニアからは呼ばれている絶品の味。ひと口飲むとふくよかな旨さが広がる。

 そばは近隣の製麺所のゆで麺を使用しているが、コシもありなかなかバランスがよい。うどんもうまいと定評がある。いつものように、ゲソと格闘しつつ一気に食べ進んでいく。

 コロナ禍で営業は大変だったがようやく最近は落ち着いてきたという。しかし、コロナ前からゲソの値段は上がり続け、「仕入れを確保するのが今も大変だ」と三戸店主はいう。

「ゲソ天そば」は断トツの人気

 人気メニューをきいてみると、今も「ゲソ天そば」は断トツの人気で、とにかく超人気だという。訪問時も30年以上通うという常連さんが「ゲソ天」をテイクアウトしていた。世界一うまい「ゲソ天」だと宣言していたから、熱烈なファンなのだろう。

 「ゲソ天」に続いて、「かきあげ天」や「春菊天」、「ソーセージ天」、「ごぼう天」なども人気だとか。最近は「春菊天」の人気が急上昇だという。

他にもいろいろなトッピングがある(筆者撮影)
他にもいろいろなトッピングがある(筆者撮影)

「ゲソ天丼」などを自作する常連も

 また最近は、「ゲソ天そば」を頼んで、ビールをやりながらじっくり食べる人や「ゲソ天」に「ライス」や「半ライス」を頼んで「ゲソ天丼」として食べる人が増えているとのこと。「ごぼう天丼」や「かきあげ天丼」もうまいと三戸店主。これはナイスな情報だ。

「元汁」をかけまわして作る「ミニごぼう天丼」

 そこで、まず「ごぼう天」に「半ライス」を頼んで「ミニごぼう天丼」を作ってみることにした。すると、「ごぼう天」は別皿で「半ライス」と「おつゆ」がついて登場した。「ごぼう天」を手で分解し「半ライス」にのせて「元汁」をかけまわして「ミニごぼう天丼」の完成である。これをひとくち食べてみる。すさまじくうまい。これは驚いた。あまりのうまさに写真を撮るのを忘れてしまった。この「ごぼう天」は太めに切った人参と同じ太さのごぼうが交差して天ぷらになっている。しかも味が深い。

この「ごぼう天」がすごくデカい(筆者撮影)
この「ごぼう天」がすごくデカい(筆者撮影)

そばに入れてもいい「元汁」を天丼にかけて食べる(筆者撮影)
そばに入れてもいい「元汁」を天丼にかけて食べる(筆者撮影)

自作の「ミニゲソ天丼」は別次元のうまさ

 こんなに「ミニごぼう天丼」がうまいなら「ミニゲソ天丼」はもっとうまいに違いないという思いがフツフツとあふれ出し、「ゲソ天」をおずおずと追加注文した。到着した「ゲソ天」を手で分解し、半ライスにのせて「元汁」をかけまわして完成させた。とにかくゲソ天がデカい。これがすさまじくうまい。別次元のうまさかもしれない。この「元汁」が天ぷらの味をぐーんと引き立てる。「鈴家」の「ゲソ天」は、まさに大衆に愛されるトッピングとして成長し開花していた。生玉子を落としてもうまいに違いない。

「ゲソ天」を追加注文(筆者撮影)
「ゲソ天」を追加注文(筆者撮影)

ゲソ天を手でちぎって「ミニゲソ天丼」を作る(筆者撮影)
ゲソ天を手でちぎって「ミニゲソ天丼」を作る(筆者撮影)

 今回、「ごぼう天」や「春菊天」がうまいこと、「ゲソ天丼」や「ごぼう天丼」などのセルフ天丼が相当いけることがわかったのは大きな収穫だった。三戸店主が人生をかけた大衆そばへの取り組みをひしひしと感じとることができた。次回訪問時には今回なかった「なす天そば」と「ソーセージ天丼」にトライしようと思う。でもゲソ天ははずせない。思案しながら三戸店主に挨拶して店を後にした。

「鈴家」外観(筆者撮影)
「鈴家」外観(筆者撮影)

「鈴家」

住所 千葉県市川市市川南1-1-1 ザタワーズイースト 2F

営業時間 8:30~21:30(土・祝は7:00~15:00)

定休日  日曜日

大衆そば研究家・出版執筆編集人・コラムニスト

1959年生。東京理科大学薬学部卒。中学の頃から立ち食いそばに目覚める。広告代理店時代や独立後も各地の大衆そばを実食。その誕生の歴史に興味を持ち調べるようになる。すると蕎麦製法の伝来や産業としての麺文化の発達、明治以降の対国家戦略の中で翻弄される蕎麦粉や小麦粉の動向など、大衆に寄り添う麺文化を知ることになる。現在は立ち食いそばを含む広義の大衆そばの記憶や文化を追う。また派生した麺文化についても鋭意研究中。著作「ちょっとそばでも」(廣済堂出版、2013)、「うまい!大衆そばの本」(スタンダーズ出版、2018)。「文春オンライン」連載中。心に残る大衆そばの味を記していきたい。

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