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人気のコロッケ、関西では超マイナー? 東京の立ち食いそばの名トッピング3選

坂崎仁紀大衆そば研究家・出版執筆編集人・コラムニスト
名代富士そばの「コロッケそば」(筆者撮影)

 なぜか関西には少なくて、東京の立ち食いそば屋で絶大の人気を誇る名トッピングというものがある。しかもそれらは、老舗そば店で到底扱わない天種(天ぷらの種類)やトッピングである。

 これはもちろん、安い食材でも天ぷらにすると意外とうまいものとか、腹持ちのいいもの、ちょっと話題性のあるものなどが店主の大英断でトッピングとしてメニュー化されるためである。

 そこで今回は、東京の立ち食いそば屋ならではの面白い天種やトッピングをいくつか紹介しよう。まずはコロッケである。

コロッケそばは「名代箱根そば」が発祥とか

 ポテトコロッケは日本中どこでも人気の惣菜である。精肉店でも惣菜屋でもスーパーのお惣菜売り場でも大人気。しかし、コロッケがそば・うどんにのるということになると全国どこでもというわけにはいかないようだ。大阪では増えているようたが、やはり関東以北の立ち食いそば屋が中心となっている。もちろん老舗のそば屋で扱われることはまずない。

 ところで、コロッケそばは「名代箱根そば」が最初だというのが定説となっているが、大阪の「潮屋梅田店」が昭和44年頃に発売したという説もある。だいたい同じ時期である。昭和40年代、「名代箱根そば」の都内店舗オープン時にカレー味のコロッケそばを販売したのが最初だという。

「名代箱根そば」のコロッケはカレー味(筆者撮影)
「名代箱根そば」のコロッケはカレー味(筆者撮影)

「名代富士そば」や「しぶそば」でもコロッケそばを広める取り組みがスタート

 現在、東京では「東京名物コロッケそばを広めようの会」を「名代富士そば」が発起人となって、「しぶそば」の協力を得て広めようというミッションが進行中である。「名代富士そば」では大きいカレーコロッケそばを販売中の店もあり、ブームになっている。

 「名代富士そば」開発企画広報の工藤寛顕さんに伺ったところ、コロッケそばにはなかなか熱い思いがあるという。

「自分が大好きだったコロッケそばは、東京以外の人の認知度が低いことを知って愕然としました。調べてみると関東圏から東北地方・北海道などの寒い地方での認知度はあり、関東圏の西側では全然知らないという人が多く、『なにそれ信じられない‼』という方もチラホラいました」

名代富士そばで人気の「コロッケそば」(筆者撮影)
名代富士そばで人気の「コロッケそば」(筆者撮影)

 そこで、2015年頃からコロッケそばの普及を開始。しかし、不規則企画は認知度が上がらなかったという。そこで、去年10月、しぶそばさんとのコラボで「コロッケそばを広めようの会」を始めたという。「弊社では個人店にもこの会の運動を広めて、新たにコロッケそばを販売してくださるお店を許可を得てご紹介することにしています」

 さっそく、青物横丁駅近くの手打ちの立ち食いそば屋「うちば」がコロッケそばを発売してくれることになったという。楽しみである。

 さらに工藤さんはたたみかける。「名代箱根そばさんも参加してくださると嬉しいです。コロッケそばの歴史がしっかりしていてリスペクトしています。元祖なので心強いです。合同企画も是非大歓迎です」

「名代富士そば」工藤さんのコロッケそばの記憶

 ところで、工藤さん、コロッケそばには思い出があるそうだ。若かりし頃、人形町の「六文そば」に足繁く通っていたそうである。ある時、常連さんがメニューになかったコロッケそばを食べていて、「おれもあのコロッケ食いたいなあ」と店主に伝えたところ、「おまえにはまだ早いんだよ」とにやっと笑って一蹴されたそうである。「その後職場も変わって六文そばのコロッケそばを食べずじまいなんです」

 工藤さんに代わって食べに行ってみたのだが、コロッケそばは心と舌に沁みるうまさだった。

人形町の「六文そば」のコロッケそば(筆者撮影)
人形町の「六文そば」のコロッケそば(筆者撮影)

「春菊天」は関西では無名、しかし関東の立ち食いそばでは人気の天種である

 東京の立ち食いそば屋で人気の名トッピングは「コロッケ」だけではない。他にも関西人が聞けば「えっ?そんなの聞いたこともない」という人気のトッピングがある。「春菊天」である。

 関東あたりの降雪の少ない地域では、秋から春にかけて春菊がよく露地栽培される。冬の間はビニール栽培で霜をよけて出荷されている。この関東の春菊はなぜか天ぷらにするとうまい。

 それには理由がある。関東の春菊は香りが強いため天ぷらに適しているという。九州あたりでは葉っぱのギザギザが大まかな大葉系、関西では春菜という株張り中葉系、関東では株立ち中葉系が栽培されている。つまり、春菊の種類が異なっている。

 大葉系や春菜は味があっさりしており、サラダやおひたし、すき焼きなどで利用することが多い。関西の立ち食いそば屋に春菊天がないのはこうした品種による味の違いが原因と考えられている。

 春菊天そばがいつ登場したのかは定かではない。生産地の家庭で取り立ての春菊の天ぷらをそばやうどんにのせたのが最初だと想像している。

枝で収穫するのが関東の春菊である
枝で収穫するのが関東の春菊である写真:イメージマート

 春菊天は摘んだ枝のまま手のひら型で天ぷらにするものと、刻んでかき揚げ状にして天ぷらにするものがある。

 両国、浅草、浅草橋などにある「文殊」の春菊天は秀逸である。かき揚げ状にカリッと揚げられていてアツアツのキリっとしたつゆとの相性は抜群である。

カリッと揚がった春菊天は秀逸である(筆者撮影)
カリッと揚がった春菊天は秀逸である(筆者撮影)

 新橋駅前にある「丹波屋」の春菊天はよく揚げられており、他所では食べることができない東京を代表する味である。

新橋「丹波屋」の春菊天はカリカリでよく揚げられており絶品(筆者撮影)
新橋「丹波屋」の春菊天はカリカリでよく揚げられており絶品(筆者撮影)

「ソーセージ天」も東京独自の天種である 

 コロッケ、春菊天のほかにも関西人びっくりのトッピングがまだある。「ソーセージ天」である。関西や九州の大衆店や立ち食いそば・うどんではほとんど販売されておらず、関東が中心になっている。

 ソーセージ天そばと初めて出会ったのは2005年頃、新宿の思い出横丁と山手線の間の道路にあった「寿屋」という立ち食いそば屋であった。昼下がり入店してみると客はゼロ。愛想の悪いおばさんがいて怖かったので、最初に目に入ったそばを注文した。それが「ソーセージ天そば」だった。そしてその時ソーセージとは魚肉だったということが判明した。

 「魚肉ソーセージ」が日本で誕生したのは昭和26年のことである。しかし、すぐに立ち食いそばの天種になったわけではなく、冷蔵庫の普及などを待ってからのようだ。立ち食いそば屋の天種になったのは昭和45年頃だとされている。立ち食いそばのパイオニア的存在「六文そば」ではその頃すでに販売を開始していた。現在も一部の東京の個人店では人気の天種として販売を続けている。笹塚にある「柳屋」のソーセージ天も鞍掛状によく揚がっていてうまい。

「神田須田町六文そば」のソーセージ天は昭和45年頃には販売開始(筆者撮影)
「神田須田町六文そば」のソーセージ天は昭和45年頃には販売開始(筆者撮影)

笹塚「柳屋」の「ソーセージ天そば」は漆黒のつゆが特徴的だ(筆者撮影)
笹塚「柳屋」の「ソーセージ天そば」は漆黒のつゆが特徴的だ(筆者撮影)

もちろん西日本にしかないトッピングもある

 当然のことながら、関西や西日本にしかないトッピングというのもある。「まる天」、「じゃこ天」はほぼ九州が中心である。「きざみそば」は京都中心のトッピングである。全国探せばまだまだある。とにかく、立ち食いそば屋には変わった天種やトッピングが多い。ふと立ち寄った店で面白いトッピングをみつけるのも一興である。

大衆そば研究家・出版執筆編集人・コラムニスト

1959年生。東京理科大学薬学部卒。中学の頃から立ち食いそばに目覚める。広告代理店時代や独立後も各地の大衆そばを実食。その誕生の歴史に興味を持ち調べるようになる。すると蕎麦製法の伝来や産業としての麺文化の発達、明治以降の対国家戦略の中で翻弄される蕎麦粉や小麦粉の動向など、大衆に寄り添う麺文化を知ることになる。現在は立ち食いそばを含む広義の大衆そばの記憶や文化を追う。また派生した麺文化についても鋭意研究中。著作「ちょっとそばでも」(廣済堂出版、2013)、「うまい!大衆そばの本」(スタンダーズ出版、2018)。「文春オンライン」連載中。心に残る大衆そばの味を記していきたい。

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