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「赤ちゃんが泣き止まない…」追い詰められる前に 小児科医が答える夜泣き対策

坂本昌彦佐久医療センター小児科医長 日本小児科学会指導医
(提供:toyotoyo/イメージマート)

「#夜泣き」の投稿は13万件超え

子育ては楽しいこともあるけど、しんどいこともあります。そのひとつが「夜泣き」です。

Instagramで#夜泣き と検索すると、実に13万件。いかに多くの保護者の皆さんが悩まされているのかが分かります。

夜泣きについては、インターネットでもさまざまな情報が飛び交っています。

泣き続ける赤ちゃんを前に、病院を受診した方がいいのでは、と不安になることもあるかもしれません。

そこで今日は夜泣きについて小児科医の立場からその対策を考えたいと思います。

生後数ヶ月のたそがれ泣きと、生後4か月以降の夜泣き

赤ちゃんは生後2〜3週間くらいから特に理由がなくても泣きます。夕方から夜にかけてが多く、たそがれ泣きともいいます。

外国では、コリックとかパープル・クライングと呼ばれます。これは生後3〜4カ月で自然に消えていくとされていますが、赤ちゃんにとっては自然な経過で正常な発達です。

また、生後4カ月くらいから2歳すぎまで、いったん寝ついた後に目覚めて泣くことがあります。こちらを夜泣きと呼ぶこともあります。

はっきりした理由はわかっていませんが、睡眠サイクルがまだ不安定なことと関係しているのではと考えられています。

こちらも赤ちゃんにとっては自然な経過です。

ちなみに、海外では夜泣きと言えばほぼたそがれ泣きを指すようです。今回ご紹介する欧米の研究も多くがたそがれ泣きに関するものです。理由はよく分かりませんが、ひょっとすると日本と異なり、親子は別室で寝る習慣があるため、日本ほど困り感が強くないからなのかもしれないと想像しています(個人の意見です)。

夜泣きは無害 ただし家族への影響に注意して

さて、夜泣きそのものは、赤ちゃんには無害です。

しかし、夜泣きがもたらす影響として、「泣き止ませようと子どもを傷つけてしまうリスクが増える」ことが報告されています(1)。

このオランダの研究では、6カ月までの赤ちゃん3259人を評価したところ、保護者の5.6%が、赤ちゃんを泣き止ませるためにたたいたり揺さぶってしまった経験があると答え、また泣き声が過剰だと感じる保護者ほどそうした行動を取りやすいことが分かりました。

また、産後うつは出産した母親の10-15%に起こるとされていますが、夜泣きのあるお子さんでは母親が産後うつになるリスクが上がることも複数の研究で報告されています(2)(3)。

夜泣きのほとんどは病気ではなく治療の必要もありません。

小児科医として相談を受けた場合に「病気ではないので大丈夫ですよ」と伝えることはもっとも大切な役割のひとつです。

ただ、上記のように夜泣きには家族にも影響を与える側面があります。夜泣きの家族への影響を知り、対策を一緒に考えることも小児科医にとって大切だと考えています。

夜泣き対策、押さえるべき6つのポイント

では、夜泣き対策、具体的にどうすればいいのでしょうか。簡単にまとめると6点です。

(1)赤ちゃんが泣いたときにするべきルーチンを一通り行う

(2)もし、病院を受診すべきサインがあれば病院に相談する

(3)なだめるテクニックを使う

(4)1~3までやって泣き止まないときはそれ以上原因追及しない。

(5)親自身のフラストレーションのケアを行う

(6)絶対に揺さぶらない

ひとつずつ説明しましょう。

(1)赤ちゃんが泣いたときのルーチン:まずは差し迫ったニーズに対応

赤ちゃんが泣いたときのルーチンの対応 は次のようになります。

まずはもっとも差し迫ったニーズ(生理的な欲求)に対応していきます。赤ちゃんは、不快感や不安などの感情を言葉や動作でうまく表現できないため、泣き出したりぐずったりします。具体的には、「眠い」「おなかがすく」「驚いたり怖かったりする」「周囲がうるさい」「かゆい」「おむつが汚れて気持ち悪い」「暑い」「寒い」などです。

泣いたときは、何かの欲求が隠れていることがあるので、まず一通り試してみます。おむつかぶれがあったり、服がきつい、乳歯が生えかけたりして泣いていることもあるかもしれません。

(2)病院受診のサインを確認:哺乳が悪かったりぐったりしていないか

機嫌が悪くてぐったりしていたり、哺乳ができない場合には、病気が隠れていることがあります。保護者からみて「普段の様子と違う」と感じた場合には医療機関を受診してご相談いただくことをお勧めします。

逆に、大きな声で元気に泣き、哺乳もできているのであれば、急いでの受診は不要なことが多いでしょう。

(3)米国小児科学会がお勧めする「なだめるテクニック」

米国小児科学会のウェブサイトから抜粋でご紹介します。

特別に目新しいテクニックがあるわけではありませんが、ひととおり試すのはありかと思います。

-腕の中で優しくゆりかごのように揺らす

-おくるみで包む

-歌ったり話しかける

-優しい音楽を流す

-抱っこしたりベビーカーで歩く

-車に乗せる(必ずチャイルドシートに固定する)

-ゲップをさせる

-リズミカルな音や振動を聞かせる。

-温かいお風呂に入れる

(4)原因を追及しすぎない

今回の記事で一番強調したいのはこちらです。泣き続ける赤ちゃんを前にすると、原因を追及して対処したくなるものです。

でも、実際には原因がよくわからないことも多いです。

ポイントは、赤ちゃんは何をやっても泣き止まないことがあると知り、見守りの姿勢をとることです。

泣き止ませられないことで、「泣き止ませられない自分は親失格なのではないか」「私を嫌っているんじゃないか」と打ちのめされてしまうかもしれませんが、決してそうではありません。

「お母さんなら泣き止ませられる」という呪いの言葉に苦しむ必要はありません。このことは繰り返し強調しておきたいです。

(5)保護者のフラストレーションのケアを

(4)と同様に強調したいのがこちらです。ここからはケアの具体的な方法を3つご紹介します。

1)泣いたときのルールをあらかじめ決めておく

お母さん1人ではなく、お父さんや周りの家族といっしょに乗り越えることが大事です。

夜に泣き止まないと、翌日も仕事があるときは「眠らなくちゃいけないのに」という焦りもあり辛い状況かと思いますが、泣き止まない大変さを家族で共有できれば精神的な負担が軽くなります。

例)・曜日ごとに「夜泣き対応」を分担する

  ・夜のオムツ替えはパパ、授乳はママ、のような役割分担をする

2)外に出てみる

赤ちゃんが泣き止まずイライラが募ってしまったときには、可能であれば抱っこひもやバギーで「外に出る」ことをおすすめします。

部屋の中より泣き声をそれほど大きく感じないので、閉塞感から開放され、それだけで赤ちゃんも泣き止むことがあります。

こんなことを言うと都市部では外に出るのは近所への目もあり気になるから難しい、という声も聞こえてきそうです。確かに難しい問題です。でも赤ちゃんは泣くのが仕事。赤ちゃんの夜泣きに対しては世間の寛容な姿勢こそが本来求められるべきものです。

3)赤ちゃんから離れてみる

先ほどの米国小児科学会のWebサイトには、「ひととおりの対策をやって解決しないときの一番よい方法があります」とあります。

何が書いてあるかお分かりですか?

それは「赤ちゃんから離れること」です。本当に?離れても大丈夫なの?と思われるかも知れません。次のようなルールでやってみましょう。

安全なところに赤ちゃんを仰向けに寝かせ、目の届く範囲のところで10〜15分くらい休憩しましょう。泣いている赤ちゃんから離れてお茶を飲んだり、電話で話したりして、一休みしてもいいです。それでも赤ちゃんは大丈夫ですし、リフレッシュできればまた向き合おうと思う気力も出てきます。

保護者がリラックスしているほど、赤ちゃんを落ち着けやすくなります。小さな赤ちゃんであっても、大人が思っている以上に周囲の緊張には敏感で、それに反応するために泣いてしまいます。

赤ちゃんの泣き声にイライラすることはあるかも知れませんが、それで怒ったりパニックになっても夜泣きが収まるわけではありません。むしろかえって悪化してしまうかもしれません。イライラした場合には赤ちゃんを安全な場所に置いて家族や友人に助けを求めることが大切なんですね。

(6)絶対に揺さぶらない!

イライラが募ると、発作的に揺さぶってしまいそうになるかもしれません。

ある論文では「親が夜泣きを『泣きすぎだ』と感じた場合に、暴力を振るうリスクが2.6倍に上がる」と報告されています(4)。

揺さぶってしまうことで揺さぶられっこ症候群という非常に危険な障害をもたらします(最近は、虐待による乳幼児頭部外傷(AHT:abusive Head Trauma)という名称が推奨されています)。

これは暴力的に胸を揺さぶることで頭がぐらぐらすることによる「むち打ち効果」で脳や眼底に出血を起こし、場合によっては死に至るものです。揺さぶっても泣き止まないどころか死に至るリスクもあるのです。だから絶対に揺さぶってはいけません。

ただ私は、揺さぶらないようにと伝えるだけではこの事故の予防啓発として不十分だと思っています。

その理由は、揺さぶるのは発作的な行動で、最初から揺さぶってやろうと思っているわけではないからです。前述したような親のフラストレーションをケアし、発作的に揺さぶるような心理状態を回避することこそが、こうした事故の根本的な予防に繋がっていくと考えます。

ここまで、夜泣き対策のポイント6点をお伝えしました。ここからはよく聞かれる質問にお答えします。

夜泣きに効く薬はあるの?

世の中には夜泣き(特にたそがれ泣き)に効果があるとうたう薬が出ています。漢方薬なども時々広告を見かけます。薬でパッと解決できればどんなに助かるでしょう。ただ、残念ながら明確な医学的根拠が証明されたものはありません。

海外の報告でも、ハーブや砂糖、いくつかの鎮痛剤が有効かを調べた研究もありますが、特に有効性は示されず推奨されていません(5)。

一方乳酸菌製剤を含むプロバイオティクスはお腹の環境を整え夜泣きを改善するのに役に立つのでは、という研究もいくつかなされています。効果があったというものもありますが、現時点では夜泣きに効果があるという十分な根拠は得られておらず、こちらも推奨する段階ではなさそうです(6)

夜泣きの時におしゃぶりを使ってもいいの?

夜泣きがきついときにおしゃぶりを使うことがあるけど良いか、と聞かれることがあります。

おしゃぶりと睡眠について、米国小児科学会のアドバイスには「あくまでも落ち着かせるためのものであり、常日頃から泣いていない時の睡眠の導入としておしゃぶりを使わないこと」とありますが、夜泣きの場合に落ち着かせるためであれば使ってよいとなっています(7)。

ちなみに哺乳瓶の上部と乳首を一緒にテープで留めておしゃぶりとして使うと、乳首がリングから飛び出し窒息する可能性があるためやってはいけません。ご注意ください。

夜泣くたびに授乳してもいいの?

夜泣きの時に多く聞かれるのが夜間授乳についての悩みです。泣くたびに授乳させているがよいのか、おなかが空いているから泣くのか夜泣きなのか分からない、という質問も少なくありません。

調べてみると米国小児科学会の患者向け資料(Pediatric Patient Education 有料版)に、夜間授乳についてアドバイスを見つけました。

・ミルク栄養児の場合  最後の授乳から2時間以上経過している場合は授乳可

・母乳栄養児の場合、  最後の授乳から1時間半以上経過している場合に授乳可

上記以外の場合には、赤ちゃんが泣くたびに頻回に授乳しないこととしています。とはいえ個人差もありますし、現実に時間だけで区切る必要はなく、あくまで目安と考えていただければと思います。

ちなみに「『赤ちゃんは夜泣きをするよ』と聞かされていたが、実際に生まれたうちの子は特に夜泣きもなかった。夜泣きを経験しないことで、逆に発達上の問題はないのか」と聞かれたこともあります。

ご心配ありません。そういうお子さんもいらっしゃいます。そんなときは「羨ましいですね!!」と笑顔で返しています。

今日は夜泣きについて小児科医の立場からお伝えできることをまとめてみました。

なお、今回の要点はフライヤーにまとめられていますので、ご活用ください。

夜泣きは本当に大変ですよね。夜泣きに対応していらっしゃる全ての保護者の皆さんを心からねぎらい、また応援したいと思っています。

参考文献

(1)Lancet. 2004 Oct 9-15;364(9442):1340-2. (PMID:15474137)

(2)Arch Dis Child. 2006 May;91(5):417-9. (PMID:16452109)

(3)Acta Paediatr. 2009 Aug;98(8):1344-8. (PMID:19432839)

(4)Lancet. 2004 Oct 9-15;364(9442):1340-2. (PMID: 15474137)

(5)Cochrane Database Syst Rev. 2016 Sep 16;9(9):CD009999.

(6) Cochrane Database Syst Rev. 2019 Mar 13;3(3):CD012473.

(7)American Academy of Pediatrics. Pacifier Safety.

佐久医療センター小児科医長 日本小児科学会指導医

小児科専門医。2004年名古屋大学医学部卒業。現在佐久医療センター小児科医長。専門は小児救急と渡航医学。日本小児救急医学会代議員および広報委員。日本国際保健医療学会理事。現在日常診療の傍ら保護者の啓発と救急外来負担軽減を目的とした「教えて!ドクター」プロジェクト責任者を務める。同プロジェクトの無料アプリは約40万件ダウンロードされ、18年度キッズデザイン賞、グッドデザイン賞を受賞。Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2022大賞受賞。

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