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「ちむどんどん」は社会的包摂の物語。ネットで見知らぬ人に教わった別の視点

境治コピーライター/メディアコンサルタント

「ちむどんどん」が朝ドラ最低視聴率なのはテレビ全体の流れ

朝ドラ「ちむどんどん」が先週最終回を迎えた。週明けの今日、さっそくビデオリサーチがその平均視聴率(世帯)は15.8%だったと発表し、スポーツ紙を中心にこぞって報じている。2010年に朝ドラの放送時間が8時から8時15分に変わって以来最低だったという記事も見かけた。

それだけ内容が良くなかったと受け取る人も多いだろう。確かに2010年以降のワースト1が「ちむどんどん」だったのは事実だ。だがワースト2は昨年の「おかえりモネ」(16.3%)ワースト3は絶賛されていた「カムカムエヴリバディ」(17.1%で2012年「純と愛」と同率)と聞くとどう思うだろう。数字で良し悪しが決まるなら3作とも良くなかったことになってしまう。

前にも書いたがテレビ放送の視聴率全体が昨年そして今年と急落している。2020年の巣ごもり生活で上がったのが2021年には2019年より少し下がり、今年2022年には史上最低ベースになっているのだ。

グラフ:民放キー局の発表資料より筆者が作成
グラフ:民放キー局の発表資料より筆者が作成

去年と今年の朝ドラがワースト1〜3位を占めるのはこの傾向に乗っているにすぎない。

見知らぬ人の「ちむどんどん」評に大いに納得

とは言え「ちむどんどん」が類稀に見る不評な朝ドラだったのは間違いないと思う。筆者も賢秀がお店を壊しまくって暴れたり、暢子がオーナーに「あなたは何もしてないのに文句ばかり」と言って勝負を挑んだり、なんて酷い若者たちかと驚き腹も立てた。見てられないと思ったものだが、なぜかその後も見続けて最終回まで踏破してしまった。

「#ちむどんどん反省会」のハッシュタグもみなさん散々悪口を言うのになぜ盛り上がり続けるのかも不思議だった。そんなに嫌なら見なければいいのではないか?

最終回を迎えた週末、そのことを考えながらネットを探っていたらこんなnote上の記事を見つけた。長いけれども惹きつけられて一気に読んだ。

それがこの記事だ。

「#ちむどんどん」を読み解く鍵=「社会的包摂」と「沖縄コミュニティ」

できるだけ簡単に解説すると、「ちむどんどん」は地域同士、家族同士で助け合う「社会的包摂」が描かれており、そもそも沖縄には「ゆいまーる」と呼ばれる相互扶助の精神が根付いている、という解釈だ。共同売店や幼い暢子の上京中止、まもるちゃんの存在、鶴見の県民共同体などが次々に例示され、共通テーマとしてコミュニティと社会的包摂が描かれていると述べている。

筆者は目から鱗が落ちる思いで読んだ。言われてみるとすべてが「包摂」のテーマで繋がっているし、優子が賢秀の狼藉を叱らないのも暢子の思いつきを応援するのも、優子が比嘉家という「ゆいまーる」の中心にいるからだ。

誰も指摘しなかった解釈に強く感銘を受けた。「包摂」で繋げると作り手たちの意図が見えた気がする。これを書いた大里氏はシステムエンジニアの方だとプロフィールにあるが、我々のようなプロのライターもかなわない洞察力に心から感服した。

そしてここからは筆者のさらなる解釈だが、筆者を含めて多くの人が悪口を言いながらドラマを見続けたのは、この「ゆいまーる」に意図せずして加わっていたからではないか。賢秀はまたなんてことしでかしたんだ!暢子は先を見てなさすぎる!そんな文句を言いながらハラハラして、解決したらホッとする。その連続で半年間見続けた気がする。

もちろん「反省会」ハッシュタグの参加者も様々だろうから「そういう人もいた」ということだ。だが、最終回後にどこからともなく「#ちむどんどんに感謝」のハッシュタグも生まれていて、いい朝ドラだったありがとうと述べている人もいた。

ネガティブな意見はどうしても目立つし、またスポーツ紙はじめネットメディアがそれを取り上げて囃し立てることで火に油を注いでもいたと思う。実は、普通に楽しく見ていた人もたくさんいたことは間違いない。

大里氏に新たな見方を教わってまた色々考えが深まった。ただ、この解釈に感服したからこそ、制作陣はそのテーマをもっと明確に描けたのではないかとも思う。「包摂」を大里氏のような洞察力がなくても伝わるような描き方はできたはず。それこそがスタッフの「反省」点ではないだろうか。

コピーライター/メディアコンサルタント

1962年福岡市生まれ。東京大学卒業後、広告会社I&Sに入社しコピーライターになり、93年からフリーランスとして活動。その後、映像制作会社ロボット、ビデオプロモーションに勤務したのち、2013年から再びフリーランスとなり、メディアコンサルタントとして活動中。有料マガジン「テレビとネットの横断業界誌 MediaBorder」発行。著書「拡張するテレビ-広告と動画とコンテンツビジネスの未来」宣伝会議社刊 「爆発的ヒットは”想い”から生まれる」大和書房刊 新著「嫌われモノの広告は再生するか」イーストプレス刊 TVメタデータを作成する株式会社エム・データ顧問研究員

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