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「あなたの番です」で盛り上がる「考察」という新しいドラマの楽しみ方

境治コピーライター/メディアコンサルタント
ドラマスタート前に汐留地下通路に貼られたポスター(4月8日筆者撮影)

巧妙な物語展開に盛り上がるツイッター

日本テレビ日曜夜10:30のドラマ「あなたの番です」は実に不思議な展開となっている。この枠は18年10月クールの「今日から俺は!」でブレイクし、続く「3年A組」では毎週世間が驚き沸いた。学園もので親子で楽しく視聴する枠になった、と思ったら次の「あなたの番です」はまったくちがう雰囲気のミステリーで、2クール続けるという。田中圭と原田知世が夫婦で主役というのも普通ではない。汐留地下道の日本テレビ前に掲出された「あなたの番です」の巨大ポスターにはまるで生気のない原田知世が写っていて、ただならぬ空気を醸し出していた。

はじまったドラマでは、ポスターにあった「毎週、死にます」のコピーの通り、さっそくある人物が死ぬ。以降、本当に毎週誰かが殺され、交換殺人らしいので誰が誰を殺したかわからなくなる。何げに見はじめたのに第一部が終わった今、もう離れられなくなってしまった。

物語の盛り上がりに沿ってツイート数もどんどん増え、24日の「いだてん」の記事で紹介したように3位を大きく突き放してツイート数で2位となった。

画像:データセクション社分析ツールより
画像:データセクション社分析ツールより

データセクション社の分析ツールで「あなたの番です」もしくは「あな番」を含むツイートをスタート一週間前の4月7日から昨日6月27日までカウントすると、全部で102.6万ツイート、1日あたり1.3万ツイートとなった。放送日以外も含めて平均1万以上なんてものすごい数だ。

6月16日にひときわ大きな山ができているのは、この日が第一部の最終回だったからで、見ている人なら知っている一大事が起こったからだ。これは第二部以降、ますます見ないわけにはいかなくなった。

影響力のあったツイートに役者のアカウントも

データセクション社の分析ツールでは、「あなたの番です」のツイートの中で影響力のあったユーザーを表示してくれる。当然ながら「日テレ公式@宣伝部」「【公式】あなたの番です」「ZIP!日テレ」のように日本テレビが自ら運営するアカウントがまず並ぶ。それに混じって役者のアカウントも登場。原田知世演じる菜奈の前の夫を演じた野間口徹のアカウントは日本テレビのアカウントの次に影響力を発揮している。自分が登場しない回でも放送を何度も告知するツイートが楽しいのだ。

こんなツイートに多くのユーザーが反応し放送を盛り上げている。

またこんなツイートをしたら・・・

放送日を間違っていて公式アカウントにたしなめられ・・・

もう一度ツイートし直していた。

そして6月23日の特別編のあとには・・・

という自らの役柄を語るグッとくるツイートをして1万を超える「いいね!」がついていた。

こういう役者たちのツイートはいま、ドラマ視聴を盛り上げる役割も果たしており、楽しみの一つになっている。

影響力のあるニュース1位は横浜流星について

影響力のあるニュース、という分析もデータセクション社のツールなら可能。4月から6月で出てきたリストがこれだ。

画像:データセクション社分析ツールより
画像:データセクション社分析ツールより

横浜流星は第二部で登場予定の若手人気俳優。彼のニュースがこの3ヶ月でもっとも大きな影響力を示した。まだドラマに登場していないのにこの盛り上がり!キャスティングが成功している表れだ。もちろん田中圭や西野七瀬もニュースの中で大きな役割を果たしている。ツイッターの盛り上がりにこうしたキャスティングは重要な要素だ。こういう役者たちを絡めた記事や、ドラマについて批評したりする記事がニュースとなってツイートの格好の題材になる。ニュースもツイッターを盛り上げる重要な要素なのだ。

複雑な展開の「考察」がドラマを盛り上げる

「あなたの番です」で特徴的なのが、視聴者が勝手にミステリーを「考察」することだ。ツイッターである方に教わったのだが、YouTubeに「考察動画」がたくさん投稿され、多いものだと何十万回も再生されている。「Maiwa channel」「6969b〜ろくろっ首〜」「山本オールスターズ」といった若々しいYouTuberたちが頑張っている。なかなかするどいことも言うし、楽しめる考察動画だ。

「考察」はもっとシンプルな形でツイッター上でも行われている。「あなたの番です 考察」ではじまるツイートが検索すると数多く出てきて、ファンたちがそれぞれ自分の推理を明かしているのだ。他の人の考察を見て自分の見解を重ねたり、誤りを指摘したり、相互に影響し合いながら考察を進めている。SNS時代らしい、知的なドラマの楽しみ方がそこにはある。

画像:データセクション社分析ツールより
画像:データセクション社分析ツールより

この考察ツイートはいつから出てきたのだろう。データセクション社の分析ツールで再び見てみると、5月半ばあたりから徐々に出てきて前回の放送以降一気に増えている。第一部から第二部に移るにあたりみんなの興味も最高潮に達しているのだろう。

また「あなたの番です 考察」で影響力のあるニュースを調べると、ねとらぼで米光一成氏が書いた記事がずらずらっと出てくる。どうやらその中で5月12日のこの記事が最初に「考察」という言葉を使っているようだ。

「あなたの番です」犯人を徹底考察 赤池家殺害の犯人と「ジュリアに傷心」&ケーキの真相はこれだ

以降、毎週のように考察記事を配信しており、非常にレベルの高い推理をたけだあや氏の魅力的なイラストとともに掲載している。コメント欄にはそれに対するファンのコメントが何百もついていて、ねとらぼが「あなたの番です 考察」の震源地だとわかった。

ドラマについてツイッターでイラストを誰かが描いて盛り上がることはあったが、「考察」という頭脳的作業でこれほど盛り上がったこともなかっただろう。「あなたの番です」は当初からネットでの盛り上げは意図していただろうが、送り手の策を越えてファンの側が極めてハイブローな展開をしている。ドラマの展開とともに、ツイッター上で何が起こるかも第二部以降の楽しみになった。

コピーライター/メディアコンサルタント

1962年福岡市生まれ。東京大学卒業後、広告会社I&Sに入社しコピーライターになり、93年からフリーランスとして活動。その後、映像制作会社ロボット、ビデオプロモーションに勤務したのち、2013年から再びフリーランスとなり、メディアコンサルタントとして活動中。有料マガジン「テレビとネットの横断業界誌 MediaBorder」発行。著書「拡張するテレビ-広告と動画とコンテンツビジネスの未来」宣伝会議社刊 「爆発的ヒットは”想い”から生まれる」大和書房刊 新著「嫌われモノの広告は再生するか」イーストプレス刊 TVメタデータを作成する株式会社エム・データ顧問研究員

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