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第二弾に新しさは要らない!意外にストイックな「みんなで筋肉体操」の制作姿勢

境治コピーライター/メディアコンサルタント
画像提供:NHK

「みんなで筋肉体操」が1月7日から四夜連続で放送!

昨年8月、突然「みんなで筋肉体操」という不思議な番組が放送され、ネットの話題をかっさらった。筆者もその時、メールで緊急取材して記事にしている。

ネットがざわめいたNHK「みんなで筋肉体操」はなぜ制作され、どう編成されたか?

その第2弾が、いよいよこの1月7日から四夜連続で放送される。夜11時50分からの5分番組。短い枠なので、リアルタイムで見たい方は注意が必要だ。

NHK広報局のツイッターアカウントでも1月1日にこんな動画を公開している。

第2弾の放送は待望されていた。2018年の流行語大賞にノミネートされたり、大晦日の「紅白歌合戦」にも乱入してステージで武田真治が腕立て伏せをやったり、8月の放送後も話題は尽きなかった。今後、第三弾第四弾とつながっていくのか?など気になることは多々あるので、今回は直接お会いして取材させてもらった。面白半分で作っているのだろうと想像していたのだが、意外なほどストイックな男たちだった。話を聞いてわかった、彼らの崇高な想いを紹介したい。

出演交渉で感じた「筋肉のつながり」

左から梅原氏、勝目氏、斎藤氏 無理にポーズをとってもらったが、ぎこちない(筆者撮影)
左から梅原氏、勝目氏、斎藤氏 無理にポーズをとってもらったが、ぎこちない(筆者撮影)

取材に応じてもらったのは、制作局第1制作センター 生活・食料番組部のチーフ・プロデューサー斎藤大輔氏(写真右)と同部ディレクターの勝目卓氏(写真中央)、梅原純一氏(写真左)のお三方。彼らは基本的には「あさイチ」制作班の一員だ。

「筋肉体操」の制作者というとどうしてもムキムキな体型を想像してしまうが、写真でわかる通りの普通体型、むしろ華奢。無理やりそれっぽいポーズをとってもらったが少々ぎこちない。だが話を聞くと、お三方の「筋肉体操」に込めた熱さが伝わってきた。

筋肉をフィーチャーした番組ができないかと企画したのは勝目氏だった。書店でエッジの効いた筋肉本が目立ってきた。そこに何かあるのではないか。「あさイチ」を通して女性たちの間に“筋肉需要”を感じていた斎藤氏が企画に応えてプロデューサーとしてついた。二人だけでは心もとないと、「あさイチ」スタッフの中で筋トレをやっていて“筋肉を崇拝する”という梅原氏に声をかけた。「みんなで筋肉体操」はこの三人で作っている。

独特の世界観の中でもキャスティングが気になっていたので聞いてみた。筋肉指導の谷本道哉氏とマッチョなイケメン武田真治氏はわかるとして、村雨辰剛氏と小林航太氏は無名、なのに妙に気になる存在。この二人を選んだのはなぜだろう。

「筋肉体操」は深夜の「時論公論」の直後の枠で視聴率が期待しにくい。1回で終わらせないためにはネットで話題にするしかない!と考えた。

筋肉を崇拝する男、梅原純一氏(筆者撮影)
筋肉を崇拝する男、梅原純一氏(筆者撮影)

そこで勝目氏は「ネットで調べて発見して、SNSで話題にしたくなる人」という基準を立てた。それを受けて梅原氏がひたすらマッチョを探す作業に没頭。いわゆる“筋肉芸人“のようにすでに有名なマッチョでは“基準”を満たせない。ツイッターで話題が流れて来た時に面白そうな人、ということで必死に探したが「ダメ出しの嵐で死ぬほど調べた」という。

ようやく見つけたのが植木職人の村雨氏と弁護士の小林氏だった。出演を依頼すると最初は戸惑いを示したものの「筋肉のことなら」と快諾してくれたそうだ。

梅原氏は言う。「筋肉のつながりの強さを感じました」

その筋肉つながりによって、ネットがざわめく”そそるキャスティング”になった。

第2弾の信条は「新しさを求めない」

放送後は当人たちも驚くほどの反応で、ネットでの話題を狙ったとは言え想像を遥かに超えていた。「あさイチ」のレギュラー作業があるので自分たちではその後何もできなかったが、三人の出演者がそれぞれいろんな場で「筋肉体操」を語って話題をつないでくれた。予期しなかったが「3人は、別のチャンネルに向けた力を持っていた」のだそうだ。武田氏はもちろんだが、村雨氏と小林氏も話題を引っぱる影響力を持っていた。

そこに流行語大賞ノミネート、そして紅白とうまく話題がつながり認知が高まった。第2弾を放送するいい流れができていた。

淡々と語る斎藤氏だが、奥底に熱を感じさせる(筆者撮影)
淡々と語る斎藤氏だが、奥底に熱を感じさせる(筆者撮影)

第2弾は第1弾と比べてどこが新しいかを聞くと、斎藤氏は意外なことを言う。

「新しさを求めないところが大事なんです」

第1弾のあとで、もっとレベルを落としてほしい、など様々な声も聞こえてきた。三人で熱く議論したが結局、何のためにこの番組をやったのかの原点に戻ったのだという。それは、筋トレが世の中の役に立つ、という想いだ。

谷本先生に相談してもやはり第1弾と同じ4種目(腕立て・腹筋・スクワット・背筋)をしっかりやるべきだとの結論に至ったそうだ。

この話になるといよいよお三方の熱気が高まる。

「ネタ番組になりたくなかったんですよ」と梅原氏が言えば、

「出演者を増やして豪華にしても、支持してくれたみなさんが離れてしまう」との考えを斎藤氏が語る。

勝目氏は企画者だけあってもっとも熱く

「筋トレを日本に定着させて日本人を健康にする。それがやりたくて企画しましたから」と切々と語るのだ。

なんだこの男たちのストイックさは。”日本人”というスケールの話が出てくるとは思わなかったが、彼らは本気だ。”ちょっと筋肉とか面白くない?”という軽佻浮薄な姿勢は微塵もない。「みんなの体操」のパロディみたいな見え方だが、そんな見た目を入口にしながらも極めてストイックな理念で作っているのだ。

英語にも対応し世界への野望も

第2弾でひとつだけ新しい試みがある。英語ナレーションも聞ける2カ国語放送なのだそうだ。

NHK広報局のツイッターアカウントもこんな動画を投稿している。

そう、あの植木職人・村雨氏が英語ナレーションを担当しているのだ。これはまたひとつ、楽しみが増えた。

YouTubeでも英語字幕をつけて配信するそうだ。

なぜ2カ国語放送か?勝目氏はこう答えた。

「遠い未来の目標としては、海外進出があるんです。」

か、海外?!”日本人”以上のスケール感にまた驚いた。

実は第1弾についてアジア各国でまとめサイトができているそうだ。筋肉は世界共通のテーマだったのだ。

勝目氏は番組に込めた想いを熱く熱く語った(筆者撮影)
勝目氏は番組に込めた想いを熱く熱く語った(筆者撮影)

さらに勝目氏が構想を語る。イベント展開も頭にあるという。

「筋トレがラジオ体操のようになればいいと思っています。テレビじゃなくて実際に谷本さんの指導を受けて、全国各地で筋トレをみなさんにしてもらう。そういうこともやってみたいと思っています」それが”筋トレの定着”なのだ。いまは話題づくりも狙っているが、勝目氏の本当の想いは、筋トレが日本の、そして世界の日常に入り込むことなのだと言う。想像を超えたスケールの大きさに圧倒される。

と、壮大に夢は広がるが、それもこれも第2弾が再び話題になるかどうかだ。

「第3弾が決まってないので、そこには不安があります」と斎藤氏。

なるほど、これは応援するしかあるまい。「みんなで筋肉体操」に第3弾はあるのか?そして世界に羽ばたけるのか?その先に、筋トレの日本定着が果たせるのか?それも、第2弾の盛り上がり次第だ。第1弾で盛り上がったみなさん、第2弾はさらに盛り上げようではないか。筋肉は、裏切らない。筋肉を信じるみなさんのエールを期待したい!

コピーライター/メディアコンサルタント

1962年福岡市生まれ。東京大学卒業後、広告会社I&Sに入社しコピーライターになり、93年からフリーランスとして活動。その後、映像制作会社ロボット、ビデオプロモーションに勤務したのち、2013年から再びフリーランスとなり、メディアコンサルタントとして活動中。有料マガジン「テレビとネットの横断業界誌 MediaBorder」発行。著書「拡張するテレビ-広告と動画とコンテンツビジネスの未来」宣伝会議社刊 「爆発的ヒットは”想い”から生まれる」大和書房刊 新著「嫌われモノの広告は再生するか」イーストプレス刊 TVメタデータを作成する株式会社エム・データ顧問研究員

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