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CMでもおっさん力?高橋一生のCM出演社数トップから考える

境治コピーライター/メディアコンサルタント
エム・データ社 7月4日付けリリースより

昨年は圏外だった高橋一生がCM出演社数でいきなりトップに

テレビのメタデータを作成するエム・データ社が先日2018年上期のタレントのCM出演状況を発表した。詳しい内容はリリースを読んでもらえればと思う。

→「株式会社エム・データ、2018年上半期TV-CMタレントランキングを発表」リリースページ

CMの放送回数ランキングとともに、出演した会社数のランキングもある。女性では乃木坂46の白石麻衣が15社でトップ。13社の広瀬すずを抜いてCMクイーンの座に躍り出た。女性のランキングでは、今を時めく若手タレントがしのぎを削ったのに対し、男性の順位が面白い結果だった。

高橋一生が10社の出演でトップの座に就いたのだ。しかも昨年2017年上期では上位に入っていなかったのに。もちろん高橋一生の人気が急上昇中だからには違いないが、37歳の遅咲き俳優が急に1位になるのは不思議といえば不思議だ。女性で白石麻衣がトップだったように、嵐のメンバーや菅田将暉、山崎賢人などがひしめきあいそうなものではないか。ワールドカップと同じくおっさん力がCM界でも発揮されているということか?

そこでエム・データ社の社内研究機関ライフログ総研の梅田仁氏に分析をお願いした。同氏が開発したタレントランクという分析ツールから見えてくることをグラフやチャートにしてもらったのだ。

タレント分布図で明らかにポジションアップ!

まず「タレント分布図」と呼ばれるグラフを見てもらおう。これはテレビ出演分数を横軸に、Twitterのつぶやき数を縦軸にしたもので円の大きさがCM出演を表している。出演分数が多いがTwitterではさほど話題になっていないタレント、つまりグラフで右にいるが上にいない人は、安定感があるがホットな感じはない、と言えるだろう。逆に出演数がさほど高くないのにTwitterで話題になっている人、グラフの左にいて上に来てる人は、今後話題の高まりとともにテレビに出てくるかもしれない。出演分数がある程度あってTwitterでも話題になっていると、タレントとしては良いポジションといえる。

エムデータ社分析ツール「タレントランク」より
エムデータ社分析ツール「タレントランク」より
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このグラフは2017年4月から9月のものだ。菅田将暉と竹内涼真がテレビ出演がある程度あるうえTwitterで話題になっている。ホットないいポジションにいると言える。一方高橋一生は、その他大勢のタレントたちの中にいる。この頃はTBSのドラマ「カルテット」で注目を浴びた頃で、やっと他の著名タレントたちの中に入った段階だったろう。

エムデータ社分析ツール「タレントランク」より
エムデータ社分析ツール「タレントランク」より
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ところが半年後、2017年10月から2018年3月の分布図を見ると高橋一生のポジションが大きく変化しているのがわかる。その他大勢のグループを抜け出して、ホットなグループの仲間入りを果たしている。菅田将暉や広瀬すずという、二人の若手と同じグループに高橋一生が一緒にいるのだ。2017年で彼のポジションが劇的に変化したことがわかる。

CMを増やしたのは大河と朝ドラつまりNHK?

この大きな変化をもたらしたのは、当然この期間に高橋一生が出演した番組だろう。実際、昨年から出演する番組が増えたに違いない。よく見かけた印象がある。

そこで分析ツール・タレントランクでどんな番組に出演したか、2017年4月以降でチャート化してもらった。

エムデータ社分析ツール「タレントランク」より
エムデータ社分析ツール「タレントランク」より

これを見ると意外だったのだが、「カルテット」以来多くのドラマに出演した印象だったのがちょっと違ったことだ。1月からNHK大河ドラマ「おんな城主・直虎」に出ていた。ただ彼の役は8月に処刑されたので9月以降の出演は少ない。10月からは朝ドラ「わろてんか」に出演した。ただし主人公夫婦を遠くから見守る実業家の役で、毎回出るわけではない。同じ時期、10月からフジテレビ月9「民衆の敵〜世の中おかしくないですか?」に主人公の女性政治家をサポートするような政治家を演じた。出演したドラマは実はこの3つだ。必ずしも、突然多くのドラマに出演したのでCM出演社が増えた、わけでもないのだ。

となると、やはり大河ドラマと朝ドラが大きかった、ということかもしれない。2016年までの高橋一生は「僕のヤバイ妻」や「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」など、少し感じの悪いキャラクターが多かった。病んでいたり屈折していたり。注目していたファンは意外にいただろうが、そういう「クセのある役者だけどいい男」と秘かに愛されていたのだと思う。

ところが2017年のドラマではいずれも主人公を支え、癒し、命も捧げる献身性あるキャラクターだった。「クセはあるけどいい男」がいい男ぶりを発揮するキャラを演じて本格ブレイクしたのだろう。しかも大河と朝ドラに出演したことで、年配層も含めて知名度が確立した。それがCM出演社数いきなりトップ入りを果たした要因と言えそうだ。

人生100年時代は、遅咲きタレントの時代?

ところで最初に紹介したランキングに戻ると、上位の男性タレントは高橋一生に限らず全体的に年齢が高いことに気づく。9社で同着2位に出川哲朗がいる。こちらも昨年までは圏外だった。テレビ東京「充電させてもらえませんか?」を見ると番組で訪れた日本中の町々で老若男女から愛されていることがわかる。とくに子どもたちの人気はアイドル並みだ。大手企業が多い高橋一生と比べると比較的新しい企業が多いのも出川哲朗らしさが出ている。そして遠藤憲一は昨年上期も2位につけていた上に、2017年の年間ではトップだった。バイプレイヤーズの代表選手のような遠藤憲一にCM出演が殺到しているのだ。

そして松重豊に西島秀俊も昨年から上位リストの常連だ。いまやテレビCMは若手とともに、遅咲きのベテランたちの活躍の場でもある。おっさん力が炸裂している!先日「おっさん力」について記事を書いたが、CM界でも似た現象が起こっていたのだ。(→「「おっさん」がなぜかキーワードとして急浮上!さよならするか、おっさん力を信じるか」

そこにはもちろん、若者層と同じくらい年配層向けのCM訴求が重要になっていることもあるだろう。だがとにかく、タレントの側からすると中年になってようやく花が咲くキャリアも全然有りになってきたと言える。人生100年時代、タレントも末長く活躍できる時が来ている証かもしれない。われわれ一般人も、中年以降に花が開くこともあるのだと励みにしたいものだ。

コピーライター/メディアコンサルタント

1962年福岡市生まれ。東京大学卒業後、広告会社I&Sに入社しコピーライターになり、93年からフリーランスとして活動。その後、映像制作会社ロボット、ビデオプロモーションに勤務したのち、2013年から再びフリーランスとなり、メディアコンサルタントとして活動中。有料マガジン「テレビとネットの横断業界誌 MediaBorder」発行。著書「拡張するテレビ-広告と動画とコンテンツビジネスの未来」宣伝会議社刊 「爆発的ヒットは”想い”から生まれる」大和書房刊 新著「嫌われモノの広告は再生するか」イーストプレス刊 TVメタデータを作成する株式会社エム・データ顧問研究員

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