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LINEで就活はできるのか?あの「LINE」が、今秋から新卒採用支援に参入。

酒井一樹就活SWOT代表
(写真:アフロ)

あの「LINE」が、今秋から新卒採用支援に参入するという。

LINEはこれまでにアルバイトや中途採用の領域などではすでに採用支援を行ってきたが、今度は「LINE採用コネクト」のサービス名で新卒領域に参入する。

現時点で判明している情報を踏まえて今後の展開を考察してみたい。

【応募から採用までLINEでやり取り】

採用支援事業におけるLINEの強みは、求職者にとって使い慣れたLINE上でそのまま応募から採用までのやり取りを完結できるということだ。

メールとテキストチャットとでは返信のしやすさが違うことは今更言うまでもないことだが、学生相手のコミュニケーションでチャットベースでやり取りできる事は大きな強みだ。

また内定後もメールに比べて距離感が近く、内定者のフォローがしやすいと期待されている。これはナビサイトには簡単に真似できない点であり、LINE自身も自分たちの強みとして強くPRしている。

「LINEはスマホで操作するもの」と認識している方も多いかもしれないが実際にはPCからも操作することができ、業務で利用する際にはPC版のLINEをインストールしている担当者も多い。今後、LINE採用コネクトがリリースされた後は専用の管理システムも用意されるという。

【LINEはメール代わり?】

LINEのサービス紹介ばかりしていても面白くないので、今回は現在の就活においてLINEがどのように使われているかを紹介したい。

まず、LINEを「SNS」と呼ぶ方もたまにいるようなのだが、実際にSNSだと意識して使っている学生は少数派であり「テキストチャットツール」として使うのが一般的だ。

「SNSの機能があるからSNSの一種」というのも間違いではないのだが、TwitterやFacebookとは明確に使い方が異なっている。

「SNSとしても使える」のは確かだが、SNSとして利用されているかというとまた別問題だ。

少し年代の高いネットユーザーにLINEを説明するのであれば「メールやメーリングリストの代替になっている」と言った方が実情に近いと言えるだろう。

ユーザー同士でテキストチャットができるツールはLINEだけではなく、Facebookも「メッセンジャー」を提供しているが、学生の間ではやはりLINEを使うのが多数派。Facebookメッセンジャーを使うのは一部の社会人に限られる。

そのような状況だからこそ、LINEでそのまま企業エントリーする機能が提供されるのは大きなインパクトがある。

LINEは「友人や家族との連絡」に使っている学生が多く、就活中に知り合った学生同士の連絡先交換にはLINEが使われることが多い。就活を始めるタイミングによっては「学生同士仲良くなれる機会がなかった」という学生もいるのだが、インターンなどが行われる早い時期から動いている学生は知り合った学生同士で情報交換し、その後の選考を有利に進めていこうと考えている。

「グループディスカッションで一緒になった」「説明会で近い席だった」というきっかけで接点を持つ学生が多いようだ。

同業界を志望する学生など、就活仲間でグループを作ってそこで情報交換している学生も多く、「今どんなところを受けているか」というような近況の共有や、「面接はどうだったか」あるいは「筆記試験はこんな問題だった」など選考の有利不利に直結する情報を交換するグループもある。

【就活支援会社はすでにLINEを積極利用】

また新卒紹介を初めとする「就活支援会社」にも学生とのやり取りをLINEで行っているという企業は増えてきている。この点においては、人事より採用支援業者の方が進んでいると言えるだろう。いちいち電話でやり取りするのが煩わしい、かしこまったメールを書くのも疲れるという学生にも好評だ。

学生目線では、メールでやり取りをするより手軽に就活アドバイスや企業紹介を受けることができる。採用支援会社としても「この会社受けてみない?」「こんな会社が来るイベントがあるので予定空いてたら来て!」とフランクに学生の勧誘ができるという。

(4〜5年前はこれがFacebookの立ち位置だったのだが、完全にLINEに取って代わられたと思われる)

「就活サイトに登録するとDMが大量に届く」という事は周知の事実だと思われるが、これが偏差値の高い大学の学生であると1日に何十通という数になる。

「DMが多すぎて未読件数が1000件単位で貯まっている」というような学生もいるほどだ。

メールでの勧誘が読んでもらうことすらできない中、LINEでつながった企業は学生とコンタクトを取りやすくなる。

ただしこれについては賛否両論で、「気軽にアドバイスを受けられてありがたい」という学生が居る一方「イベントなどの勧誘がたくさん来て断りづらい」という声も聞かれる。

コミュニケーション量が増えるからこそ「あの支援会社の担当者はあんまりイケてない」など厳しい評価を下される担当者もいる。接点が増えるからこそ、窓口となる担当者のコミュニケーション能力が重要であり、能力的にも優れた人材でなければ学生に企業全体を過小評価されてしまう。

これからLINEを採用活動で活用しようと考えている企業も十分に注意するべきポイントだ。

また、LINEが新卒採用支援に参入するよりも先に、「LINEを使った新卒採用支援ツール」をサービスとして提供している企業もいくつかある。

機能としては応募者管理や学生に連絡したいLINE内容の作成管理などで、今回LINEが提供しようとしている部分とも大きく重複する。

サードパーティのLINE採用支援ツールとLINE自身のサービスがどのように棲み分けしていくのか、あるいはLINEがサードパーティを締め出してシェアを取るのかにも注目が集まる。

【LINEは学生にとってスタンダードであり続けられるのか?】

就活生の間で「コミュニケーションツールはLINE、SNSはTwitter」の体制になってからなかなか「次」が出てこないのが現状だった。

Facebookは一時期就活のために活用が盛んだったがそれも今は昔。Instagramは就活に活用できるようなSNSではない。

現状でコミュニケーションツールのデファクトスタンダードとなっているLINEが学生の採用支援に乗り出せば、一定の成功は収めるだろう。

しかし学生もいつまでもLINEばかりを使っているわけではない。

「大多数の話ではない」と断った上で紹介したいのだが、最近増えてきたのが「Discord」を使っているという学生だ。

Discordは元々「ゲーマー向け」を意識したボイス&テキストチャット用アプリであり、最近はオンラインゲームの情報交換ツールとしてデファクトスタンダードの立ち位置になりつつある。2015年に立ち上げられ3年で全世界で1億人以上のユーザーを獲得し、日本でも最近ユーザーが増えつつある。ボイスチャット機能では遅延が少ないことが売りであり、「LINEの通話より軽くて良い」と友人との通話に利用されている。

「ソシャゲのギルドでDiscordを使うと言われて使ってみたら便利だったので、大学の友人にもインストールしてもらって同じ授業を取っている学生でグループを作っている」

「ゼミのメーリングリストの代わりにDiscordグループを作った」

「もともとゲームのために使っていたが、ゼミで使うことになったのでユーザー名を本名にしなければいけなくなった」という悩みに直面する学生もいた。 

LINEだと本名もわかってしまうためリアルでの知り合い向けに留め、Discordは趣味用と使い分ける学生も増えている。

趣味用であるがために就活に活用している学生はまだ少ないが、「Discordで就活情報を集めたいのだが良いサーバー(グループ)は無いか?」と聞かれる事もある。

「Discordを使い始めてLINEをあまり見なくなったのでサークルのグループもDiscordに移行したい」というような声もたまに聞くようになった。(もちろんLINEユーザーの方が多数派なので、移行したいが移行できないというパターンも多い)

まだまだ圧倒的多数派であるLINEだが、アーリーアダプター層が「次」を見据えている現状は見逃せない。「就活に必須」という立ち位置を確立し、学生の生活に今より深く浸透できるかどうかが今後の課題の1つとなるだろう。

就活SWOT代表

慶應義塾大学在学中、世界初の就活SNSの代表に就任。国内最大の就活SNSへと成長させた後に大学を卒業し、エグゼクティブサーチを行う人材ベンチャーに入社。役員・事業責任者などの幹部人材の採用支援に携わる。2009年にエイリストを設立し「自分の頭で考え、行動する人材を増やす事」を命題として就職情報サイト「就活SWOT」を開設。

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