政府主導「就活ルール」の議論は今どうなっているのか?

(ペイレスイメージズ/アフロ)

経団連の「就活ルール」廃止発言以降、新卒採用の時期や新卒一括採用の是非などが議論されるようになり、現在は政府主導で連絡会議が実施されている。

議論の状況は今、どうなっているのだろうか。

【省庁連絡会議とはどんな物なのか】

10月15日に省庁連絡会議が初会合を開催し、2021年は現行通りの就活ルールにすると「決定」がされている。

同会議で議長を務めているのが内閣官房副長官補の古谷一之氏であり、内閣官房を中心に文部科学省、厚生労働省、経済産業省などの担当者らで構成されている。

経団連の担当者および就職問題懇談会座長である埼玉大学の山口 宏樹学長らは「オブザーバー」としての参加になっている。

省庁連絡会議に関する情報は下記のページでも公開されており、ページは内閣府のサーバ内に設置されている。

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/shushoku_katsudou/index.html

内閣官房内に設置された連絡会議の情報
内閣官房内に設置された連絡会議の情報

【政府から経済団体に対して行われている要請とはどんなものか?】

今でこそ連絡会議の動きが報じられているが、政府が経済団体などに就活に関する「要請」をしてきたのは今年が初めてではない。

政府が毎年度、経済団体や業界団体等に対して行っている要請というのは、就職・採用活動日程だけに留まらず、下記のような内容が含まれている。

・学事日程への配慮

・留学経験者に対する配慮

・公平・公正で透明な採用の徹底

・広報活動

・採用選考活動の開始前にインターンシップと称して当該活動を行わないこと

・採用選考にあたっての成績証明等の一層の活用

・クールビズ等への配慮

といった事項を要請しているという。

またインターンシップについても

「インターンシップの推進に当たっての基本的考え方」(平成27年12月10 日改定)

及びその留意点(平成29年10月25日)

http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2015/12/15/1365292_01.pdf

を制定し、経済団体に要請している。

これらの通達は、政府から業界団体・企業に送られ、大学からも企業に念を押すように通達される。

「学校推薦書」は6月1日以降に発行するという決まりになっている大学もある。

ただしこれらはあくまで通達が行われるだけで、企業側が違反したからといって直ちに何か罰則があるわけではない。

そもそも「どこからが違反なのか」も曖昧な状態になっている。

今回省庁連絡会議の「決定」により現行の就活ルールを維持するという通達が企業に行われると見込まれるが、それにどこまで従うのかは企業側の裁量次第という事になる。

【すでに現行就活ルールは形骸化】

混乱を避けるために、早い段階で方針を決めることは必要だっただろう。

しかし、「現状維持」なら混乱がないと思うならばそれは大間違いだ。

すでに現状の就活ルールは形骸化しており、

広報活動開始 :卒業・修了年度に入る直前の3月1日以降

採用選考活動開始:卒業・修了年度の6月1日以降

正式な内定日 :卒業・修了年度の 10 月1日以降

という3点は実質的にはすべて守られていないといっても過言ではない。

実質的な内々定が「選考活動開始日」のはずの6月1日に出ていたり、

インターンシップが実質的な採用広報活動になってしまっている。

現に「広報活動開始前に「インターンシップ」と称した会社説明会や実質的な選考活動とも捉えられるような行事等は厳に慎む」などの要請が行われているものの、それは実情として守られていないのだ。

「表向きの就活ルールはこうだけど、自分の志望する業界に入るためにはいつから活動すればいいのか?」

とわからず不安に思う学生もいれば、素直に表向きのルールを信じて就活に出遅れてしまう学生もいる。

【バカ正直にルールを守ると不利になる採用市場】

そもそも、自由競争である採用活動に政府を口を挟むのが合理的ではない。

3年の夏からインターンなどの形式で採用活動をする企業があるのはなぜか?

それは他社に先んじてアプローチした方が優秀な学生を確保できるという実績があるからだ。

そして学生の方にも、「早い段階で就職先を決めておきたい」という動機がある。

その両者が一致しているからこそ内定を出す企業が存在し、内定を承諾する学生もいる。

両者のニーズが一致しているにもかかわらずそれを止めようとするから、結局水面下で動くという結果になってしまうのだ。

実際のところ、「就活の開始時期」を真に受けて動きを止めた学生は

他の学生に比べて大幅に出遅れることになり、バカ正直にゆっくり採用を始めた企業もすでに市場に学生が残っていない現実に直面するだろう。

政府が設定する「就活ルール」を守るインセンティブがそもそも無く、バカ正直に守った分だけ出遅れ、競争に負けるだけの結果が見えている。

【通達だけでなく、まずは頭脳を活かせる産業の育成を】

これは政府の報告書の中でも言及されていることであるが、

「学生が在学中にしっかりと学業に専念し、その成果が企業の採用活動において十分に活用されていく」

という事を実現するには、就職・採用活動日程の整備だけでは不十分だ。

そもそも大学における勉強が企業の中で活躍するための経験値になっていないというのが問題である。

単位取得要件や成績・卒業要件の厳格化をするべきという意見、そして「企業側がそれを評価して採用をするべき」という意見も出ているが、

これは出発するポイントが間違っている。

既存の企業がなぜ成績をそこまで重視せず採用活動をしているかというと、

「大学で学んだ事が活きるような事業に取り組んでいない」

からではないだろうか。

採用時に考慮する事を無理やり強制するよりも、そもそもアカデミックな知識が活かせるような産業・企業を増やす事を先に考えるべきだろう。

活かせる「受け皿」が足りていない中で学業成績重視の選考を企業に求めるのは、目的を見定めないまま手段だけを論じている状態であるように感じられる。

要請するまでもなく学業成績を重視するのが当たり前になるような産業育成こそ、政府が取り組むべき事ではないだろうか。