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拡大する「既卒・第二新卒」人材市場。もう新卒採用だけにこだわるのは悪手?

酒井一樹就活SWOT代表
(写真:アフロ)

求人サイトで「第二新卒歓迎」「既卒応募可」などの記載をした求人を見かけた事があるかもしれません。

一方で、30歳以下の人材を新卒採用の対象にするという企業も出てきています。

一部では新卒採用を撤廃すると宣言する企業も出てきており、新卒採用と中途採用の境目も曖昧になってきています。

この辺りについての状況をまとめ、解説していきたいと思います。

まず今回は、既卒・第二新卒についての概要と、この人材市場について「企業側が積極的に検討すべき理由」をご紹介します。

【既卒とは?】

一般的に既卒というと「大学・短大・専門学校・高校などの学校卒業後に正社員として勤務経験が無い求職者」を指すことが多いです。

ただ「既卒」という言葉には実は明確な定義がありません。法律でも、卒業何年以内が既卒であると定義はされていないのです。

平成22年に厚生労働省が出した「青少年雇用機会確保指針」の中で、若者の就職率を上げるため「卒業後3年以内の方の採用を活発に行うように」というお達しがありました。この事から概ね卒業後3年以内までが既卒と見られる事が多いようです。

つまり今大学在学中の方が就職せずに卒業した場合、しばらくの間は「既卒」に該当することになります。

なお既卒者の中には「在学中に内定を獲得したが就職せずに卒業した」という方もいれば、内定がないまま卒業したという方ももちろんいらっしゃいます。

【第二新卒とは?】

一方で第二新卒というのは、一般的には「一度就職した経験がある」人材を指します。

就業年数についてはハッキリと決まっているわけではありませんが、こちらも概ね3年未満で離職・転職を行う場合に第二新卒と呼ばれるのが一般的です。

仮にどこかに就職した後、3年以内に転職するなら第二新卒人材として応募することができるというわけですね。

なお新卒で3年以内に会社を辞めた人の割合(離職率)は3割強の割合となっております。

その全員が転職をするわけではありませんが大卒者一学年40万人の3割と考えても10万人は超える規模となります。更に退職はしていないが「良いところがあれば…」と考えている層も含め、それなりの市場規模となっております。

企業が「第二新卒募集」と書いている場合、「ある程度は就業経験のある若手を採りたい」というパターンもあれば「未経験者でも採用したいが新卒者の入社タイミングを待っていられない」というパターンで求人している事もあります。

【既卒と第二新卒は似てる?】

求人サイトにおいては、「既卒」と「第二新卒」は両方募集対象になっている求人がよく見受けられます。

既卒・第二新卒の両方を対象にした就職情報サイトなども存在します。

もちろん「第二新卒はOKだけど、既卒はダメ」というスタンスでの募集もありますが、業界未経験者を積極採用している企業においてはそこまで明確に区別されないケースも多いようです。

一方、ごくたまに新卒採用の延長線で「就業経験がない方」を募集している求人もあります。この場合は既卒者は応募可能ですが、第二新卒は対象にならないという事もあり得ます。

就業経験が無いことが応募条件になる理由は、一例として「一から新人教育をしたい」という方針である事が考えられます。

もちろん逆に、第二新卒を採りたいという企業もあります。

これは、一旦どこかに就職して、最低限の研修や経験を経た人材を採用したいという考えであるケースです。

【新卒採用だけに拘るのは悪手】

既卒・第二新卒採用は今でこそ増えつつありますが、新卒採用と比較するとまだまだ大手企業での実施は少ないのが現状です。

企業目線で見ると採用においての競争相手が少ない市場であり、新卒採用に苦戦している企業にとってポテンシャルの高い人材を採用するためのチャンスでもあります。

現在の新卒採用市場は、どこの企業も採用意欲が高く、インターンの実施も当たり前になりつつあるので非常にコストと工数が嵩むようになってきています。

売り手市場である事に加えて採用広報の開始時期も後ろ倒しになり、知名度の低い企業は大変不利な状況です。おそらくこれを読んでいる経営者・採用担当者の中にもここ最近の新卒採用のシビアさを実感されている方は多いのではないでしょうか。

もちろん新卒採用によりポテンシャル人材を一括採用できるというメリットもありますが、採用難に苦しんでいる企業はそろそろ新卒採用にばかりに固執せず既卒や第二新卒の採用を積極的に考えるべき市況です。

【既卒・第二新卒市場が整備される事の意義】

「短期間で1社目を辞めた人材なんて…」と思ってしまう経営者も中にはいらっしゃるかもしれませんが、1社目で失敗したからこそ自分にとって合う会社・合わない会社を理解できた人材もいるでしょう。重要なのは一社目で何がどうミスマッチだったかを把握することで、それができるならば第二新卒は新卒採用よりも高い定着率を実現することも可能なのです。

私自身は新卒者向けの就活情報サイトを運営する立場ですのでこのような意見表明をすると意外に思われるかもしれませんが、「最初の就職で失敗しても再起はできる」という安心感を持って就職活動に臨める方が健全だとも考えているのです。

メリットばかりではありませんが、既卒・第二新卒市場が整備され卒業後の選択肢が増えることは企業にとっても求職者にとってもプラスの影響は大きいものであると思われます。

新卒一括採用のメリットも理解しつつ、最初の就職に失敗した後の選択肢も今より広がって欲しいと願っています。

就活SWOT代表

慶應義塾大学在学中、世界初の就活SNSの代表に就任。国内最大の就活SNSへと成長させた後に大学を卒業し、エグゼクティブサーチを行う人材ベンチャーに入社。役員・事業責任者などの幹部人材の採用支援に携わる。2009年にエイリストを設立し「自分の頭で考え、行動する人材を増やす事」を命題として就職情報サイト「就活SWOT」を開設。

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