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「高大連携」で2年ぶりに花園出場を決めた早実。コロナ禍でも「ラグビー理解力」を鍛えた

斉藤健仁スポーツライター
花園出場を決めて歓喜の早実フィフティーン(撮影:斉藤健仁)

2シーズン前、82シーズンぶりに「花園」こと全国高校ラグビー大会の舞台を踏んだ「早実」こと早稲田実業(早実)。コロナ禍の今年も「高大連携」の強化の下、11月8日(日)に行われた東京第2地区決勝で、全国優勝5回の國學院久我山(以下久我山)を30-7で下して7回目の全国大会への切符を手にした。

◇FWの平均体重で9kg重い強敵が相手だった

2月の新人戦の東京都大会は久我山が優勝しており、早実は3位に甘んじていた。FWの平均体重で9kgほど軽かった早実は、この試合は「強くて重くて能力の高い久我山のリズムでラグビーをさせてしまうと止まらない。とにかく(ディフェンス)前に出て圧力をかけて、相手のリズムを崩すこと」(大谷寛監督)を意識して臨んだ。

昨年の決勝は東京高校に敗れた早実は、今年の準決勝では、公式戦で初めて17-12で東京高校を倒し雪辱を果たしていた。ただ、2年前も1年生ながら司令塔としてプレーしていた主将SO守屋大誠(3年)は試合前に「決勝戦で、秩父宮(ラグビー場)で勝ちきることが本当のリベンジだ」とチームメイトに声をかけて気合いを入れた。

前半、2年生中心ながら予選を圧倒的な強さで勝ち上がってきた久我山がFW中心のアタックでリズムをつかむ。早実はゴールラインを背負う時間が続くが、ディフェンスで集中力を切らさなかった。4分のピンチもSO守屋が相手のボールを奪取して得点を許さない。

11分、相手のノックオンを誘うとWTB三浦哲(3年)が体を地面に投げ出してボールを確保し、SH清水翔大(3年)が裏にハイパントキック。相手がノックオンしたボールを高村凌功(2年)が拾い、フォローしたNo8高木颯太(3年)が先制トライを決めた。

ディフェンスで前に出続けたことが功を奏して、最初のチャンスで早実が先制点を奪いペースをつかんだ。「ミスにつけこめました。(ディフェンスで)圧力にかける延長戦でトライが生まれた。先制点がほしかった。決勝戦はきれいな形では取れない、1点差でも勝てばいいと選手たちに話していました」(大谷監督)

早実CTBコンビが体を張った(撮影:斉藤健仁)
早実CTBコンビが体を張った(撮影:斉藤健仁)

◇DFからリズムをつかみ、4トライ!

その後、久我山がハーフ団のキックを中心としたアタックに切り替えても、早実はFB山下一吹(2年)らが大きなミスはなく対応。ディフェンスでも前に出続けていると、相手が徐々に反則を重ねていく。すると前半22分、早実は持ち味であるテンポの良いアタックからゴール前に攻め込み、最後はSH清水が左端に飛び込んでトライ。12-0とリードして前半を折り返した。

後半も先制点はアカクロのジャージーだった。3分、ラインアウトを起点に連続攻撃を仕掛けて、SO守屋がオフロードパス。そのパスを受けたFB山下がステップを切って左中間に飛び込み19-0。さらに15分、SO守屋がPGを加えて22-0とリードする。

久我山も25分、WTB吉田周平(3年)のトライで1本返すが、時すでに遅かった。ロスタイム、早実は、こぼれ球を拾ったFB山下が「ボールキープも考えたが、勝負して取り切ってやろう」と自ら仕掛けて右中間にトライ。結局、早実が30-7で快勝して、2大会ぶり7度目の花園出場を決めた。

大谷監督は真っ先に「(勝因は)ディフェンスのタックルです。CTBの2人(田中勇成と谷司馬人/ともに2年)、FL(原旺太と佐藤龍之介/ともに3年)のタックルを褒めたい」と言えば、守屋主将も「60分、ずっと相手の大きいFWにタックルして止めたのが勝利の要因。試合のテーマは『ノーペナルティー』で、多少(反則も)あったが、全体的に規律が守れていたと思います!」と破顔した。

主将のSO守屋。父も早大で活躍した(撮影:斉藤健仁)
主将のSO守屋。父も早大で活躍した(撮影:斉藤健仁)

◇「高大連携」で強化が進む早実

2年ぶりに花園の地を踏むことになった早実は、2015年の東京都大会はベスト4だったが、2016年から5年連続で決勝に進出している。早実が近年、強くなっていったのは早稲田大学ラグビー部との「高大連携」によるところが大きい。

過去5年の東京都予選決勝の結果

2016年 東京第1地区決勝 ●早実 12-33 東京

2017年 東京第1地区決勝 ●早実 7-38 目黒学院 

2018年 東京第1地区決勝 ○早実 43-19 國學院久我山

2019年 東京第1地区決勝 ●早実 0-22 東京

2020年 東京第2地区決勝 ○早実 30-7 國學院久我山

早実や早稲田大のラグビー部OBの大谷寛監督が就任したのは7年前だった。大谷監督は、それ以前は早稲田大ラグビー部のジュニアチームのコーチを務めていた。「早稲田大はなかなか人材を確保できない。そのためには系列校を強くしないといけない」と母校の指揮を執ることになったという。

早稲田大ラグビー部からフィジカルコーチやフィットネストレーニングコーチを派遣してもらい、合同練習も重ねた。また平日は働いている大谷監督に替わり、早稲田大のOBのコーチを派遣してもらうなど強化を進めた。

同時に、早稲田大のOBの子どもたちやラグビー経験者に丁寧に声をかけることで人材確保にも力を入れていった。ちなみにSO守屋の父・泰宏氏は早稲田大学の相良南海夫監督の同期で1990年代初頭に活躍したSOで、FB山下の父親は早稲田大の前監督の山下大悟氏(日野レッドドルフィンズコーチ)だ。

◇自粛期間中は体だけでなく頭も鍛えた

ただ、今年は他の高校同様に、2月末から6月末までのコロナ禍の影響で自粛期間に入り、部活動を行うことはできなかった。それでも週2回はZoomで一緒にトレーニングをし、サンウルブズが行った「世界同時ライブトレーニング」にも参加。他にもランニングや家でできるウェイトトレーニングなど毎日、体を動かすように選手達にメニューを渡した。

また体だけでなく頭も鍛えた。「ラグビー理解力」を高めるために、昨年度の花園決勝(桐蔭学園対御所実業)と大学選手権決勝(早稲田大対明治大)を題材に、学年ごとに何度もオンラインでミーティングを行った。そして大学選手権の決勝では、最終日に早稲田大ラグビー部の武川正敏HC(ヘッドコーチ)、早実の先輩で昨年度の4年生だったHO森島大智にも参加してもらい、どういうプランで戦って、実際に勝つことができたのかを解説してもらったという。

8月末に、自粛期間後に初となる試合を行い、計5試合を重ねて東京都予選に突入した。大谷監督が「(自己採点すると)勝ったので100点です。(東京都予選の)決勝を目標に、そこからすべて逆算して準備をしてきて、今、持っている力は決勝の舞台で全部出せたかな」と胸を張ったように、コロナ禍でも、丁寧な準備を積み重ねたことが決勝でのパフォーマンスにつながった。

花園の開幕まで、残りは1ヶ月半あまり。大谷監督は「アタックで上手く仕留め切れていないので、ハーフ団のゲームコントロールをもう少し磨きたい」と言えば、守屋主将は「2年前は花園で年を越せなかったので、今年はしっかりと(2回戦に勝って)年越ししたい。頑張って鍛えます!」と意気込んだ。

100回目の記念大会である花園で、今シーズンこそアカクロジャージーが旋風を巻き起こすことができるか。

早実は今年度こそ、花園で年を越せるか(写真は主催者提供)
早実は今年度こそ、花園で年を越せるか(写真は主催者提供)
スポーツライター

ラグビーとサッカーを中心に新聞、雑誌、Web等で執筆。大学(西洋史学専攻)卒業後、印刷会社を経てスポーツライターに。サッカーは「ピッチ外」、ラグビーは「ピッチ内」を中心に取材(エディージャパン全57試合を現地取材)。「高校生スポーツ」「Rugby Japan 365」の記者も務める。「ラグビー『観戦力』が高まる」「ラグビーは頭脳が9割」「高校ラグビーは頭脳が9割」「日本ラグビーの戦術・システムを教えましょう」(4冊とも東邦出版)「世界のサッカー愛称のひみつ」(光文社)「世界最強のGK論」(出版芸術社)など著書多数。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。1975年生まれ。

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