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11月の釣りを安全に楽しむなら、ここ 人に笑顔を届ける管理釣り場に知られざる苦労が

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
こんなに大きなイワナを釣って楽しめる管理釣り場(筆者撮影)

 釣りは三密を避けることのできる手軽なレジャーとして昨今大人気です。家族連れで釣りを楽しむのなら、安全な管理釣り場。残り少ない秋を安全な釣りで満喫しませんか?そんな管理釣り場のウラ話にも迫りました。(10月28日0730 タイトル一部加筆)

新潟県の管理釣り場

 海岸線の長い新潟県ですから、当然海の管理釣り場が多いと思ったら、実はため池や河川(内水面)の管理釣り場が多いのです。参考欄にその一覧を示します。海上が3箇所、内水面で12箇所です。海上だと今の時期は、アジ、メジナ、サヨリ、黒鯛といったところを楽しむことができます。一方、内水面だと、ニジマス、イワナ、ヤマメを堪能することができます。

 管理釣り場は小さなお子さんと安全に楽しみたい家族連れにもってこいです。冬を前にして水温が下がり、冷水を好む魚の食欲が旺盛となり、「イワナやヤマメを入れ食い状態で釣り上げる」なんて夢のような釣りも楽しめます。残り少ない秋を安全な釣りで満喫しましょう。動画1をご覧ください。

動画1 イワナやヤマメを入れ食い状態で安全に堪能できる管理釣り場(筆者撮影、3分49秒)

危険な防波堤釣り

 海なら波止釣り、磯釣り、船釣りなど多種多様で、「わざわざ管理釣り場に行く必要があるか?」と疑問に思うかもしれません。そうかもしれませんが、全国的にも、新潟県でも、防波堤で大波をかぶって溺れる例が後を絶たず、釣り人に救命胴衣を着てもらって、安全な天候のもとで釣りを楽しんでもらおうと、防波堤の管理釣り場が徐々に増えてきました。

 筆者が若い時に毎週のように通っていた柏崎港西防波堤を例にとりましょう。図1の航空写真をご覧ください。防波堤の根もとから先端までは2,280 mあります。歩けば30分以上はかかります。地図で見るとさほど沖に出るわけではないのですが、散歩を兼ねて長く歩いた分、沖に出たような錯覚に陥るもので、たいていは先端に多くの釣り人が集まりました。

図1 柏崎港西防波堤の航空写真(YAHOO!地図より転載して筆者作成)
図1 柏崎港西防波堤の航空写真(YAHOO!地図より転載して筆者作成)

 30年くらい昔にはこの防波堤に人が自由に出入りできたのですが、今は物理的に立ち入りできないようにしています。そのきっかけは2008年10月25日に発生した水難事故です。

二十五日午前八時半すぎ、柏崎市番神一の柏崎港の西防波堤で、釣りをしていた男女十一人が高波にさらわれた。直後に救助に向かった同市消防本部の消防隊員五人も高波に遭い、計十六人が海に転落。上越海上保安署や同本部などが巡視船やヘリコプターを出し、全員を救助した。釣り人六人が軽傷を負い、長岡市や群馬県から来ていた五人が検査などのため入院した。 新潟日報 2008年10月26日

 2 km以上もある堤防の先端で発生した水難事故。波をかぶって防波堤から落ちた釣り人に海面から上陸する術はありません。自分と一緒に流されたクーラーボックスなどにつかまり、浮力を得ながら救助を待つしかありません。

 10月も終わりに近かったので、それなりに海水温は冷たい。例えば17度くらいの水温だと、数時間浸かっているだけで意識が失われていきます。そして最終的には低体温で命を落とします。低体温が相手だと、流石の救命胴衣を着装していてもだめです。つまりこの時期の水難救助は、時間との勝負です。

 新潟日報の記事にもあるように、地元の柏崎市消防本部の隊員5人も高波に遭い転落しました。よくヤフーコメント欄に「救助隊の人たちの命のことも考えなよ」との投稿があるように、救助に向かった隊員自身も遭難するかもしれない中で、このような過酷な状況でも救助活動は行われます。釣りで少々無理をする人に少し考えてほしいこと、「自分の行動が左右するのは、一人の命とは限らない」のです。

 数時間前まで穏やかだった海が豹変するのは、今の時期の日本海の特徴です。柏崎港西防波堤は北西に面しているので、荒天になると北西の強風と大波をもろにかぶることになります。動画2は別の日に撮影した柏崎港西防波堤の荒れた海の時の様子です。

動画2 北西の強風と大波にもまれる柏崎港西防波堤。高さ20 mを優に超える圧倒的な水しぶきを見れば誰でも怖くなる(筆者撮影、4分04秒)

 図2は西防波堤の入り口の写真になります。防波堤の天端の高さは海面から3 m以上はあることがわかります。動画2の波しぶきの高さはその10倍近くにも達していることが想像できます。

図2 柏崎港西防波堤の入り口付近の様子。物理的に人が入ることができないようにしてある。防波堤の天端の高さは海面から3 m以上あって、人がよじ登ることはできない(筆者撮影、10月28日追加)
図2 柏崎港西防波堤の入り口付近の様子。物理的に人が入ることができないようにしてある。防波堤の天端の高さは海面から3 m以上あって、人がよじ登ることはできない(筆者撮影、10月28日追加)

楽しく釣りを楽しめるように

 今の時期の新潟の日本海は荒天の日の方が多かったり、いきなり荒天になったりするので、家族連れの釣りはおすすめできません。むしろ家族連れには、東京から高速道路で2時間で到着する、山沿いにいくつかある内水面管理釣り場をおすすめします。ただ、雪のシーズンも迫ってきているので、営業はいずれも11月初旬くらいまでです。

 管理釣り場の管理人にお話を聞いてみました。今回お話をおうかがいしたのは、新潟県湯沢町の「岩ノ沢養魚」の店主小林智さんです。

斎藤「いつも、楽しく釣りをさせてもらっています。ここのイワナやヤマメは生臭くないので、味の違いが鮮明です。例えば、イワナは旨味が強くて、ヤマメは甘いです。」

小林「はい、多くのお客さんからそのような声をもらっています。」

斎藤「今日は、イワナがやたら大きくて体長が30 cmくらいありました。春より成長しているってことですか?」

小林「今、泳いでいるイワナはほとんどは2年魚なんですよ。だって、ほら、大きい方がお客さん喜ぶじゃないですか?」

斎藤「そうなんですか。2年ということは、どこかのいけすに移して冬を越すんですか?」

小林「いやいや、ここで冬を越しますよ。」

斎藤「え、でも、ここは湯沢の山奥なんだから、積雪が半端ないでしょう?真冬でもここまで道路の除雪はあるんですか?」

小林「さすがに、ないですよ。あそこにあるあれ(中型のショベルカー:図3)で雪道を掘りながら一人で登ってくるんですよ。」

図3 小林さんの愛車。冬はこれで雪道を「通勤」する(筆者撮影)
図3 小林さんの愛車。冬はこれで雪道を「通勤」する(筆者撮影)

斎藤「(唖然)」

小林「あれでこの釣り場の入り口まで来て、あとは雪の中を進みながら、池に近づくんですよ。」

斎藤「魚にエサをやりに?」

小林「そうそう、でもエサやりは二の次、三の次。池に水をくれるパイプがあるじゃないですか。あれに雪庇がかかって壊れてしまうので、その雪庇を落とすのが作業だね。」

斎藤「雪庇落としって雪国名物で、よく川とか池に間違って人がポチャするあれでしょう?」

小林「私も何度か雪庇と一緒に池に落ちましたよ。いや、池の水が冷たいったらありゃしない。」

斎藤「積雪の高さだって、2 mくらいあるでしょう?落ちたら這い上がれないんじゃないのですか?」

小林「池に落ちたら、たいへん。腕の動きで何とか雪の壁を登りますよ。上がれなかったら、死ぬしかないんで。」

斎藤「(唖然)」

 大きな2年魚のイワナを皆さんに楽しんでもらうと言っても、そのイワナを育てるためにウラには命を懸けた作業があるなんて知りませんでした。

 そういえば、長岡市や小千谷市で錦鯉を生産していた業者が、30年くらい前は時々雪の養鯉池に落ちて亡くなっていました。皆さん、きっと給水パイプのメンテナンスだったのでしょう。給水は地下水で、常に一定の温度だから魚が凍り付かないのですが、もしパイプが故障して給水が止まれば、水温が下がって魚が弱ってしまいます。

さいごに

 今年の秋も残り少なくなりました。今回の記事には家族連れで安全に釣りをするためのヒントを盛り込んでみました。週末はぜひ安全な管理釣り場にお出かけしてみたら如何でしょうか。

 冬を越すために、雪国ならではの大変な作業があることを知りました。今シーズンは小林さんに弟子入りして、本物の雪中作業を体験してみようかと画策中です。

参考 新潟の管理釣り場の一覧(順不同)

内水面

 フィッシングスポットパスタイム(柏崎市)

 五頭フィッシングパーク(阿賀野市)

 無印良品津南キャンプ場(津南町)

 湯沢フィッシングパーク(湯沢町)

 栃尾フィッシングパーク(長岡市)

 三川フィッシングパーク(阿賀町)

 吉ヶ平フィッシングパーク(三条市)

 八海フィッシングスペース(南魚沼市)

 イワナつりぼり 岩ノ沢養魚(湯沢町)

 登川フィッシングパーク(南魚沼市) 

 大川フィッシングパーク(湯沢町)

 胎内フィッシングパーク(胎内市)

海上

 新潟東港第2東防波堤 管理釣り場(聖篭町)

 直江津港第3東防波堤 管理釣り場(上越市)

 上越市海洋フィッシングセンター(上越市)

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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