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学校プールの休止が続々と決定 夏の子供の水泳はどうなる?

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
夏のプールは子供たちの遊び場だ(写真:ペイレスイメージズ/アフロイメージマート)

 全国で、新型コロナウイルス感染防止を理由にして、プール授業の今夏の休止が続々と決定されています。それはそれでよく考えられたうえでの決定であり、ある一面では正しいことだと受け取ることができます。その一方で、今年の夏休みに予想される子供の水泳活動の変化を考えると、本当に大丈夫かと心配になります。特に、行き場を失った子供たちが近所の池、沼、川などに遊びにいかないでしょうか。河川は、場所別で中学生以下の子供の水死の半数を占めます。

 「長野県千曲市で22日、小学2年生の男の子が自宅を出たまま行方がわからなくなり、警察などは、千曲川に流されたと見て捜索しています。弟はきょう午前0時過ぎに自宅から1キロ余り離れた千曲川の冠着橋上流の中州付近で、木に掴まっている所を発見され救助されました。意識はあり、けがも無いということです。」(長野放送5/23(土) 10:24配信より一部抜粋)理由は何であれ、子供が川に近づき事故に遭ったことは、実際に起こったとして、重く受け取らなければなりません。

今季の子供の水泳授業はどうなるのか

 スポーツ庁政策課学校体育室と文部科学省初等中等局幼児教育課は5月22日付で「今年度における学校の水泳授業の取扱いについて」という事務連絡を各都道府県・指定都市教育委員会学校体育主管課などに通知しました。これにつきましては、筆者執筆の記事「暑い夏がくる プールの存在意義 そして今年の水難事故防止教育はどうすればよいか?」をご参照ください。

 その一方で、今季の学校プールの休止が続々と決定されています。例えば、 

 新型コロナウイルスの感染拡大の影響を踏まえ、県内では今夏、長岡市などの小中学校が授業で水泳を中止することが21日、分かった。更衣室などで密閉、密集、密接の「3密」状態となることから、感染リスクが避けられないと判断した。新潟市教育委員会も既に中止を決めているが、実施は各自治体に委ねられており、対応が分かれる可能性もある。

 長岡市教委は、更衣室で水着や衣服に着替えたり、プールサイドで整列したりする際に児童生徒同士の接触が避けられないとし、全市立小中学校で中止を決定。20日付で保護者に通知した。市教委学校教育課は「子どもたちの安全を第一に考慮した」と説明する。

 新潟市教委は新型ウイルスの影響で予定していた健康診断が終わっていないため、「児童生徒の身体面の安全を確保できていない」(学校支援課)ことを理由に挙げた。上越市教委は「検討中」とし、25日までに判断するという。

出典:新潟日報 5月21日 WEB版

 スポーツ庁・文部科学省からの5月22日付事務連絡との時間差が気になるところで、ほんのもう少し各自治体の決定が後にずれていたらと悔やまれるところではあります。

 ただ、今回は水泳の授業を中止することを決定したのであって、(すべて授業に振り替えられなければ)夏休み期間中のプール開放にあっては、まだ間に合います。教室を更衣室に使ったり、一方向に泳がせたり、3密を防ぐことは手段としてあるわけで、議論の余地が残されています。

河川は子供の水難事故の定番

 今年の夏休みに予想される子供の水泳活動の変化を考えると、本当に大丈夫かと心配になります。特に、行き場を失った子供たちが近所の池、沼、川などに遊びにいかないでしょうか。河川は、場所別で中学生以下の子供の水死の半数を占めます。水難事故は、人の行動範囲の中で起こるものです。

 図1をご覧ください。過去5年間(平成26年から平成30年まで)の子供の死者・行方不明者数の場所別を警察庁の水難の概況から計算してグラフにしました。

図1 中学生以下の子供の死者・行方不明者数の場所別(警察庁の統計を元に筆者作成)
図1 中学生以下の子供の死者・行方不明者数の場所別(警察庁の統計を元に筆者作成)

 この期間、総数は187人です。確かに河川での子供の死者・行方不明者数は半数を占めますが、その数は平成26年の29人から平成30年の10人に着実に減っています。プール開放やスイミングスクールが受け入れを担ったばかりでなく、ういてまて教室で実技を習い、事故に遭った時に浮いて救助を待って助かった例も続々報告されています。そういった毎年の夏の努力が子供の犠牲を着実に防いでいます。

確かにたいへんだけれど、そうやって子供の命を守ってきた

 3密回避や、いろいろとやりくりが大変な中で健康診断を実施することは、とても大変なことだと理解します。ただ、子供の命を水難事故から守ることは、人類有史以来の命題であるとも言えます。悲しい事故を繰り返しながら、われわれの先祖は大変な思いをしながら努力してここまで水難事故を減らしてきました。最近は水難の科学も少し進み、より効果的な手段を導入しています。その結果、昭和50年代に1,000人を超えていた子供の犠牲者を20人程度まで減らすことに成功しています。でもそれは自然と減ったのではなく、みんなが努力をした結果です。保護者だけの責任では、また元に戻ってしまうことでしょう。

とはいっても

 やはり決定されたとなれば、社会の意思でもあります。尊重しなければなりません。筆者のニュースでは、そういう時代でも水難事故を防止しながら水遊びができるよう、あるいはういてまての練習ができるよう、水難学会で監修した、おうちでできる工夫と学校でできる工夫をこれから6月中旬にかけてとりあげていきます。ご参考になれば幸いです。

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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