瞬殺的戻り流れ ほぼ3秒で溺れる だから荒れた海には近づいてはダメ

海岸の戻り流れはしりもちをついてから巻波に巻き込まれるまで3秒ほど(筆者作成)

 台風15号、南方にあり日本列島に向けて進行中。その近辺で発生した大きな風波は「うねり」と名前を変えて台風よりずっと先に日本列島に来襲します。うねりには高さがあるというよりは厚みがあります。そのため、砂浜に到達すると津波のように内陸に向けて駆け上がってきます。台風シーズン、海に入るつもりがないのに、駆け上がってきた波によって海に引き込まれてしまい、命を落とす例が頻発します。この引き込みの正体が戻り流れです。

参考 今年は海での水難事故が多すぎる。特に11日は同時多発性と言わざるを得ない

戻り流れの強烈さ

 戻り流れは子供でも、大人でも、その体を秒速5 mから10 mの速さで海にもっていきます。秒速10 mというと、陸上100 m走の世界記録に匹敵します。競泳ではありません。陸上です。従って、子供が流されて、お父さんが追いかけても追いつくことはできません。その強烈さについて、図1を見ながら解説します。

 砂地の海岸で頻発する戻り流れを例にとり説明します。図1(a)に示すように最初のきっかけは駆け上がってきた波によってついたしりもちです。戻り流れは人に起き上がるための透きを与えず、沖に向かって人を流します。

図1(a) 波の衝撃でしりもちをつく男性の様子(筆者撮影)
図1(a) 波の衝撃でしりもちをつく男性の様子(筆者撮影)

 流れの幅は2 m程度で図1(b)の赤矢印で示した範囲です。また流れの深さは数cm程度で、いくら深くても10 cm前後です。地面に体が接触しているので、まさか深さ数cm程度の流れに流されるわけがないと思うのですが、体が接触している地面の砂と一緒に沖に向かって流されますので、地面との摩擦抵抗はほぼゼロだと考えてもよいです。従って、戻り流れの速さそのものの勢いで体が流されていきます。まさにレジャープールにある遊具、ウォータースライダーの状態です。

図1(b) 戻り流れで沖に向かって流される男性の様子。赤矢印は戻り流れの幅(筆者撮影)
図1(b) 戻り流れで沖に向かって流される男性の様子。赤矢印は戻り流れの幅(筆者撮影)

 戻り流れは図1(c)の赤矢印の幅で流れ続け、そうそう途切れるものではありません。そして流れの強さのせいで途中で抗うことができません。

 最も怖いのは終点です。終点では巻波に巻き込まれます。巻波は戻り流れと次の波とがぶつかりあわさって発生し、岸に向かって突進してきます。体は地面に転がっている状態ですから、そこに高さをもって海水が覆いかぶさってきて、もみくちゃ状態になります。ここで呼吸に失敗すると窒息し、最悪なら溺死に至ります。

図1(c)カメラの位置は固定している。男性は波の直前に小さく写っている。ここまで3秒ほどで約20 m流された。なお、男性は赤十字水上安全法指導員有資格者で緊急時の自己保全が確実に行える技能をもつし、救助用チューブを保持している。陸上には同レベルの入水救助技術を有する緊急救助要員を複数配置している。赤矢印は戻り流れの幅(筆者撮影)
図1(c)カメラの位置は固定している。男性は波の直前に小さく写っている。ここまで3秒ほどで約20 m流された。なお、男性は赤十字水上安全法指導員有資格者で緊急時の自己保全が確実に行える技能をもつし、救助用チューブを保持している。陸上には同レベルの入水救助技術を有する緊急救助要員を複数配置している。赤矢印は戻り流れの幅(筆者撮影)

 図1では男性が3秒ほどで20 mほど沖に向かって流されました。終点で巻波に巻き込まれて窒息に至るとすれば、まさに瞬殺と言えます。このように、うねりが来ている海岸では、海水に足を浸けるだけでも戻り流れに引っ張られます。台風が近づいたら海岸には絶対に近づいてはいけません。

どういう波が怖いか

 砂浜を駆け上がるうねりはすべて戻り流れを伴いますが、特に怖いのは連続3発のうねりです。10分間も波を観測していれば、そのうちの1回は大波3連発が来ます。

 図1を例にとると、最初の1発は砂浜に立つ人に特に影響なく砂浜を駆け上がります。1発目の戻りが始まる前に2発目が来ます。これで図1(a)のように大抵しりもちをつきます。そして、2発分が足し算された戻り流れが発生、人はそのまま10 m程度沖に向かって流されます。図1(b)には3発目が映っていますが、この波に体が巻き込まれた瞬間に約20 m沖合に合計3秒ほどで持っていかれます。

 1発だけの大波だとしりもちをついてもそれほど流されません。そういう時に、今日のうねりは安全だと勘違いしてしまうのです。1回目、2回目の波は単発でどうってこともなくても、3回目は大波3連発かもしれません。大きな事故が起こるときには、それなりの理由が存在するのです。

瞬殺的戻り流れの発生する海岸

 地形的に3つの条件が重なる砂浜海岸では、駆け上がってきたうねりによって瞬殺的戻り流れが発生します。図2にその3つの条件が重なった海岸の例を示します。

図2 ビーチカスプ地形の砂浜海岸(筆者撮影)
図2 ビーチカスプ地形の砂浜海岸(筆者撮影)

 まず、白い線に注目すると砂浜がうねっているのがわかります。こういった砂浜構造をビーチカスプと言います。このような海岸では、駆け上がった海水が戻り始めに低いところに集まり、海に戻っていきます。周囲の海水が集まるわけですから、低い所を戻るときの流れの威力は強烈です。

 次に、ウオータースライダーのように人が流されるわけですから砂浜の傾斜は危険要素です。傾斜が大きいほど戻り流れは強烈です。図2の傾斜はかなりきつい部類に入ります。この砂浜では平成26年に戻り流れによって5人が同時に亡くなりました。逆に遠浅の海では傾斜が緩いわけですから、瞬殺的な戻り流れは発生しにくいと言えます。

 さらに、海に向かうに従い傾斜がよりきつくなっていく構造は極めて危険です。図2では、5人が犠牲になったとき、白い線のところまで海面がきていました。このような状態だと砂浜にいる人は、白い線より左側の砂浜の傾斜のまま海が遠浅になっていると勘違いしてしまいます。ここにうねりが入ってきて大きめに波が引いたらどうなるでしょうか。右側の傾斜のきつい砂浜面がむき出し、そこで瞬殺的な戻り流れが発生します。流れのシミュレーション解析によれば、ここでは最大で秒速10 mの戻り流れが発生します。

助かる方法はあるのか

 あると言えばあります。巻波にまかれた時に息を止めて、海面に浮上するのを待ちます。浮上場所が巻波より砂浜側になれば次の波に乗って元の砂浜に戻ってくることができます。その波が戻り流れになって沖に向かいだす前になんとか波から脱出します。一方、巻波より沖に浮上したら図3あるいはその下の動画のようにしてそのまま大の字の背浮きになって浮きます。この状態でヘリコプターの吊り上げ救助を待ちます。

図3 巻波の向こう側で浮いて救助を待つ様子(筆者撮影)
図3 巻波の向こう側で浮いて救助を待つ様子(筆者撮影)

動画 巻波の向こう側で浮いて救助を待つ様子(筆者撮影)

 子供が流されたら、近くにいた親はとっさに追いかけることでしょう。そして親子ともども巻波に巻き込まれます。こうなると筆者としては、どのようにすれば助かるかなどと助言もできません。周囲の人が一刻も早く119番消防と118番海上保安庁に救助を要請して事態を見守るほかありません。

参考 沖に流されたら、どうして大人が犠牲になる?そうなるのが水難事故だ

おわりに

 水難事故の世界でも、どう頑張ってもそれが最期という状況はあります。やはり台風接近によるうねりのある時には海岸に近づかないこと、これに尽きます。

 平成30年8月には、静岡市の海岸で静岡大生3人が近づく台風のうねりに流され命を落としました。その海岸では過去に何人もの命が失われています。繰り返される事故がその海岸の危険性を物語るものです。

注:戻り流れは離岸流ではありません。戻り流れは陸上にいる人が犠牲になり、離岸流は海中にいる人が犠牲になるきっかけとなります。