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ライフジャケットは、十分な性能、正しい着用方法、想定される使用方法であなたの命を守ります

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
ライフジャケットには子供用と大人用があります(筆者撮影)

 ライフジャケットは、遊泳、釣りなどの水辺のレジャーで水難事故からあなたの命を守ってくれます。十分な性能、正しい着用方法、想定される使用方法、少し難しい内容も含まれますが、自分と家族の命を守るために少し学んでみませんか?

ライフジャケットと救命胴衣の違いは?

 ほぼ同じ意味に使われていると考えてよいです。厳密にいうと、ライフジャケットは次の3つに分けられて、その中で小型船舶用にだけ、救命胴衣という言葉が使われます。 

1)小型船舶用救命胴衣

 小型船舶で使用されている一般的なライフジャケットです。淡水にて7.5 kgの鉄片を水中に吊り下げて浮いている程度の浮力を持っています。この浮力は、大人の頭部を水面上に十分出します。

2)作業用救命衣

 船上で作業する方のためのライフジャケットです。小型船舶でも使用することができます。

3)小型船舶用浮力補助具

 小型船舶用救命胴衣より、浮力の要件が緩和されています。主に水上オートバイで使用されます。

 

 以上は国土交通省型式承認品といって、主に小型船舶操縦士などの免許を保有している人(いわゆる船長)になじみのあるものです。もちろん、船上ばかりでなく磯釣り、防波堤釣りなどの時にも釣り人や同行者に着用が推奨されています。

 加えて、主に釣りなどのレジャー用に利用されることを主に考えられて開発された、日本小型船舶検査機構性能鑑定適合品レジャー用ライフジャケットもあります。

子供用はあるのか

 あります。大人用は7.5 kgの鉄片を水中に吊り下げて浮いている程度の浮力を持つライフジャケットが使われますが、子供用には次のような基準があります。

 体重40 kg以上       浮力7.5 kg以上

 体重15 kg以上40 kg未満  浮力5 kg以上

 体重15 kg未満       浮力4 kg以上

 例えば小学3年生では、体重から浮力 5 kg以上のライフジャケットの着用が望ましいということになります。レジャー用ライフジャケットでは浮力5 kg以上の製品はLC1、同4 kg以上ではLC2という表示がされています。

 お子さんの体重に合わせて適切な浮力を持つライフジャケットを選んでください。そうしないと思わぬ事故につながります。例えば、12歳未満の子供が大人用のライフジャケットを着用して、そのまま落水すると、ライフジャケットだけ水面に浮いて、子供の体が頭と共に沈むことがあります。つまりライフジャケットがブカブカだと落水の衝撃で体がすり抜けてしまいます。

着用の仕方

 正しい着用をしないといざというとき役立ちません。ここでは、図1に示す普通使用される固定式ライフジャケットの例で説明します。

 1.両腕をライフジャケットの通し穴に通します。

 2.前のファスナーを締めます

 3.ファスナーの上などのベルトがあれば締めます。

 4.股下ベルトは必ず股下を通し、締めます。

図1 固定式ライフジャケットの着用方法(筆者撮影)
図1 固定式ライフジャケットの着用方法(筆者撮影)

 子供が着用する場合、大人がその着用状況をしっかりと確認します。特に緩みがないか確認し、少しきつめに調整してください。水中に入った時に、緩むことがあります。ライフジャケットありきでは事故を減らすことができません。正しい着用をして初めて効果を発揮するのです。

こんなことがあってはいけない失敗例

事例1 ライフジャケットを着用した足からの飛込み訓練の時に、股下ベルトを通すのを忘れて高い所から飛び込んだ。結果、ライフジャケットに顎を打ち付け負傷した。ライフジャケットは水面下に潜らず、逆に体だけ潜ろうとするため。

事例2 手漕ぎボートが転覆し、その中に閉じ込められた。ライフジャケットの浮力で潜ることができず、脱出できなかった。ボートが転覆する前に水に飛び込まなければならない。

事例3 使い古したライフジャケットの浮力が少ないように感じた。当然、ライフジャケットの素材は劣化するので、年月が経ったり、毎日連続使用していれば浮力が落ちる。メーカーの説明で「初期浮力」で製品の浮力が開示されているのはそのため。

少し難しい浮力の話

 浮力試験の時、吊るすおもりを鉄7.5 kgと表記しますが、理由があります。鉄7.5 kgと綿7.5 kgはどちらが重いか?という冗談のクイズがあります。答えはどちらも同じ重さです。ところが、水中では綿7.5 kgは水面に浮くのに対し、鉄は水中に沈みます。なぜかというと密度(厳密にはかさ密度)が前者で低く、後者で高いからです。もちろん鉄も浮力をもつので、7.5 kgの鉄の水中での重量はおおよそ1 kg減ります。

 頭を水面に出すにはどうしたらよいでしょうか。人間の体の密度は水とほぼ等しいので、真水だと呼吸によって浮いたり、沈んだりします。息を吸った場合には頭の先端が水面に出ます。大人の肺活量が4000 ccだとすれば、2Lのからのペットボトル2本分の空気でなんとか頭の先だけが水面に出て、漂うと思ってください。

 では、頭を水面に余裕をもって出すにはどうしたらよいでしょうか。人間の頭の重さは体重の1/10程度です。例えば小学3年生の体重が27 kgだとすると2.7 kgと推測することができます。そうすれば、さらに2.7 kgの浮力があればいいわけで、鉄重量換算では3.1 kg以上の浮力がライフジャケットにあれば頭全部を水面上に出すことができます。

 そこに、水難事故時に何があっても沈まないように、少し余裕を持たせます。すなわち、5 kgの鉄を吊るしても沈まないように性能が規定してあります。逆を言えば、ライフジャケットを着用することで、自分の肺活量の2倍から3倍の浮力を持つことになります。肺に空気をためて自ら潜水しようとしても、そうそうできるものではありません。そこにさらに大きな浮力が加わることになるので、何があっても頭が沈まない、それがライフジャケットの命を守る効果です。

おわりに

 国交省型式承認品には桜マーク、日本小型船舶検査機構性能鑑定適合品には適合マークがついています。いずれも釣具店やインターネットでも購入が可能です。

 それ以外にも製品が販売されていますが、性能試験を行っておりません。使う目的や使う人の年齢によって性能が変わりますので、販売店の人によく確認をしてください。

 ライフジャケットは、万が一の事故の時に命を守ってくれます。十分な性能、正しい着用方法、想定される使用方法で活用したいものです。

参考

国土交通省 ライフジャケットの種類と特徴

日本釣用品工業会 JCI性能鑑定適合品レジャー用ライフジャケット

Wear it プロジェクト ライフジャケットQ&A

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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