「今あったらなぁ」のバイク達(5)【ホンダ・VF750F】V4こそ最強、MotoGPマシン元祖ここに
今のバイクは素晴らしいけれど、昔にも優れた楽しいバイクがいろいろあった。自分の経験も踏まえて「今あったらいいのになぁ」と思うバイクを振り返ってみたい。第5回は「ホンダ・VF750F」について。
WGPに4ストで挑んだNR500の末裔
1970年代の終盤、WGPへの復帰を賭けてホンダが投入した秘密兵器がNR500だった。当時全盛だった2ストGPマシンに4ストで勝つ、という途方もない理想を掲げ、楕円ピストンのV型4気筒32バルブという前代未聞のスーパーエンジンで挑んだ話はあまりに有名だ。
WGPでは大成できなかったが、技術屋ホンダの意地を見せつけた究極のV4エンジンから得たノウハウを市販車にフィードバックして開発されたのが、VFシリーズである。
新たな時代を予感させたV4
VF750Fがデビューしたのは1982年。その春に打倒RZ250を掲げたVT250FがVツインスポーツとして先行発売され爆発的なヒットとなり、「いよいよV4が出るぞ」という噂に当時大学生だった自分の周りは色めき立っていた。
そして、忘れもしない師走の青空の日、世界初となる水冷V型4気筒DOHC16バルブのハイメカを搭載したVF400FとVF750Fが同時発売されると、瞬く間にV4サウンドが街中に溢れた。
V4ならではのスリムな車体にハーフカウルが付いた先進的なフォルムは新たな時代の到来を象徴するものとなり、フロント16インチのブーメランコムスターホイールや角断面パイプフレームなど、GPレーサー由来の最新装備に少年たちは心躍らせた。
あのスペンサーもVFで勝ちまくった
特に憧れたのはVF750Fだった。当時のナナハンは天上人が乗るマシンで、中でもVF750Fの赤と黒に塗り分けられたモダンなカラーと金色に輝くホイールが眩かった。
実力も本物で、かのフレディ・スペンサーがVF750Fベースのファクトリーレーサー・VF750R(米名「インターセプター」と言ったほうが分かるかも)を駆り、全米スーパーバイク選手権で83年から3連覇している。ちなみに、その前年までフレディの相棒だったのがスペンサーレプリカで有名なCB750Fである。
新しい時代の感性が宿っていた
VF750Fは当時でも75万円もする高級車でCB750Fより20万円以上も高く、バイトに明け暮れる自分には手も足も出なかったが、「ナナハンキラーと恐れられたRZ350でも峠でぶっちぎられた」など、その高性能ぶりはよく耳にしたものだ。
その後何年かして、自分の興味もバイクからクルマへと移ろいつつあったとき、はっと目を覚まさせてくれたのが、街角で偶然目に留まったVF750Fだった。当時は都内に数えるほどしかなかった大型バイク専門のレンタルショップで赤×黒のVF750Fを借りると、会社を休んで湘南方面へとツーリングに出かけたことを覚えている。
初めて乗ったV4の乗り味は高級感があってスムーズ。CB750Fに比べてトルクも太く、アクセルを開けると「ヴォオーーーン」というV4独特のこもったパルス音とともに爆発的に加速した。峠道ではナナハンとは思えない軽さに加え、フロントからクルッと曲がる16インチ特有のトリッキーさに戸惑いつつもCBには真似できない旋回力に感動。何もかも従来のバイクとは違う、新しい時代の感性が宿っていたのだった。
V4の優秀性を再び世界に示してほしい
VF750Fはナナハンということもあるが、大ヒットしたモデルとは言えないかもしれない。だが、その後継となるVFR750Fは白バイ御用達マシンとして長きにわたって公務に活躍し、一方ではVFR750R(RC30)、さらにRVF(RC45)へとそのDNAは受け継がれていき、スーパーバイク世界選手権や鈴鹿8耐でも無敵の強さを発揮、一時代を築いた。
そして、現在のMotoGPマシンを見てもRC213Vをはじめ、ほとんどがV4エンジンを採用していることが、そのレイアウトの優秀性を雄弁に物語っている。
そう思うといつの日かまた、最新のV4ユニットを搭載したスーパースポーツが出てきてくれたらなぁ、と思うのだ。
※原文より筆者自身が加筆修正しています。