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紳士淑女のライダーが集うDGRとは… バイク文化に社会の成熟度が映る

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト
ドイツ・ベルリンでのDGR 写真/筆者撮影

男達を救済するためのユニークな催し

皆さんは「ジェントルマンズライド」というイベントをご存じでしょうか。これはクラシカルなファッションに身を包んだ紳士・淑女姿のライダーたちが世界同日に世界中のストリートをバイクで駆け抜けるという、一風変わったチャリティイベントです。

正式名称「Distinguished Gentleman’s Ride」(DGR)は、前立腺癌研究と男性の自殺予防に注目と資金を集めるという2つのチャリティを目的とした活動とのこと。いきなり“ゼンリツセン”とか言われるとギクッとしますが、真面目に男性の救済を考えてくれている珍しいイベントなんですね。

古き良き時代のマインドを表現

始まりは、発案者であるオーストラリア人のマーク・ハウワー氏が、2012年に人気テレビドラマ「Mad Men」でスーツを着てクラシックバイクに跨る主人公の写真を見てインスピレーションを受け、このアイディアを思いついたと言われています。

ちなみにマッドメンは60年代のニューヨークにある大手広告代理店が舞台のドラマで、当時のファッションに身を包んだ広告マンの華やかでちょっとダーティな活躍ぶりが描かれています。数年前まで日本でもTV放映されていましたが、男達がもっと粋で自由でワイルドに生きられた時代へのノスタルジーに浸れる作品でした(笑)。

そんな世界観をバイクで表現したイベント、といっては語弊がありますが、クラシカルなバイクにお洒落ファッションでサクッと乗るという自由な発想には共感できますし、そういうカルチャーもありではないかと思います。

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▲「Distinguished Gentleman’s Ride」公式サイトのスクリーンショット

着飾ってバイクに乗って社会貢献できる

話を戻して、「ジェントルマンズライド」は今や英国バイクブランドの「トライアンフ」やスイス高級腕時計「ゼニス」などのスポンサードを得て、世界同日開催のバイクチャリティイベントとして定着しています。2017年には、93,000人以上のスマートな服装に身を包んだライダーたちが、92カ国581都市でクラシカルなヴィンテージバイクに乗ってイベントに参加。500万ドルの募金を集めたということですから大したものです。好きなバイクに乗って社会貢献できるのは素晴らしいことですよね。ちなみに女性ライダーも大歓迎だそうです。

Triumph DGR Roundup of 2017

The Distinguished Gentleman’s Ride official 2018 global wrap up video is live!

日本でも2016年から幕張、渋谷などの都市で開催を重ね、昨年2018年は10月7日にお台場に100台以上のバイクが集まりパレードランを楽しんだようです。参考までに2019年は9月29日に世界同時開催が決定していて専用サイトから登録もできます。日本での開催についてのアナウンスが待ち遠しいですね。

'''「Distinguished Gentleman’s Ride」'''

ベルリンの街で見たDGRは美しかった

実は昨年、仕事でドイツ・ベルリンに滞在していたときに、偶然にも「ジェントルマンズライド」を目撃するという幸運に恵まれました。

現地時間の9月30日のことでしたが、冷戦時代に東西ベルリンの境界線に設けられていた検問所跡「チェックポイント・チャーリー」辺りを散策していたときのことです。

街角がにわかに騒がしくなり、何台ものパトカーや白バイがけたたましいサイレンとともに凄い勢いですっ飛んでいくではないですか。最初は何が起こったのか分からず、まさかテロでも起きたのかと思ったほどです。しばらくすると爆音とともに美しく着飾ったライダーの一団が現れて、自分の目の前を悠々と走り去っていきました。中には年代物のクラシックバイクにタキシード姿で颯爽と走る老紳士もいたり…。迂闊にもその日とは知らず、そこではじめてコレか! と分かったわけです。

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新旧トライアンフを中心とした英国車が多かったように見えましたが、他にもBMWやドゥカティ、モトグッツィに日本製バイクなども含め、ビンテージモデルからネオクラシックまで多種多様なバイクがおそらく300台以上は連なっていたと思います。エレガントなライダーの装いと個性的なバイクの組み合わせは、なんとも言えないシュールな魅力で街ゆく人々の注目を集めていました。粋な大人のライダー達のコスプレとも言えなくもないですが、自分が気分よく楽しめて、チャリティを通じて社会貢献できるのであれば言うことなしですよね。

警察の神対応にバイク文化の成熟を見た

もうひとつ感心したのは警察の対応ぶり。数台の白バイが先導して大通りの交差点の真ん中に割って入ると、素早い身のこなしで行き交うクルマの流れを止めて、パレードを優先的に通していました。そしてまた次のポイントまでサイレンを鳴らしてすっ飛んでいきます。まさに神対応!

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非常に合理的で統制がとれている様子はいかにもドイツ的ではありますが、バイク文化に対する人々の理解の深さや、こうしたイベントに全面協力を惜しまない警察(国)の姿勢に社会の成熟度が表れている気がしました。

翻って我が国でも、ますますこうした文化的で社会的にも意義のあるバイクイベントが増えていってほしいと思った次第です。

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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