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日本GPでマルケスが年間タイトル獲得 MotoGPもやはり最後はメンタルだった!

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト
画像出典元:motogp.com

10月21日にツインリンクもてぎで開催されたMotoGP第16戦日本GP決勝で、ホンダのマルク・マルケスが優勝し、同時に自身5度目となる3年連続年間タイトルを獲得した。

今年も見応えのあるドラマが展開されたが、レースを見ていなかった人のために、まずは経緯をざっとおさらいしておきたい。

運命を分けたラスト2ラップ

ランキングトップで日本GPに臨んだマルケス。同2位につけるドゥカティのドヴィツィオーゾより前でゴールすれば自動的に年間タイトルを獲得できる状況だった。

その中で、レース序盤から積極的に前に出たドヴィをマルケスがぴったり背後から追う展開で、後半戦は2人で後続を引き離しつつ一騎打ちの様相に。21周目についにマルケスが動いてV字コーナーでイン側にねじ込むと一気にパスしてペースアップ。そのままちぎりにかかるマルケスに対し、そうはさせじとドゥカティのパワーと鬼の突っ込みで食い下がるドヴィ。そして、迎えたラスト2ラップのヘアピンで運命の時が訪れた。

なんと、ヘアピンに飛び込んだところでドヴィが転倒。そして、「DOV OUT」のピットサインを見て勝利を確信したマルケスは、歓喜に思わず首を大きく左右に振りながら悠然とラストラップをツーリング。ホンダのホーム「もてぎ」での年間タイトル獲得もこれで3度目となり、勝利に花を添えたかたちとなった。

ドヴィはプレッシャーを受けていた

マルケスはもちろん強かったし、予選ポールのドヴィも劣らず速かった。これまでの戦いを見ていてもマシンも含めて実力は伯仲していると言える。フルラップ近くあれだけ競い合ってその差はコンマ1秒もないほどなのだ。

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では明暗を分けたのは何だったのかと考えたとき、やはりメンタルだったとしか言いようがないだろう。自分はGPライダーでもプロレーサーでもないが、多少はロードレースの心得もあるのでそのマインドは理解できるつもりだ。

もてぎのヘアピンはコース全体の中でも最も速度が低くなるコーナーである。ただ、その後は最高速が出る裏ストレートが続くので、ここでは一気に減速して素早くマシンの向きを変えつつ、いち早く加速態勢に持っていきたいわけだ。

世界有数のブレーキングコースとして知られるツインリンクもてぎだが、接戦になるとさらにブレーキを遅らせてなるべく奥まで突っ込んでいく。ヘアピン前半の1次旋回ではフロントブレーキをかなり強く握っていたはずだ。もちろん、強くかけすぎればフロントから切れ込んで転倒するリスクが高まるが、あの状況では2人とも前輪のグリップ限界ギリギリのアタックをしていたと思う。

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ドヴィに運がなかったのはマルケスが前にいたことだ。番組解説者で元GPライダーの辻本聡さんがおっしゃった「レースでは普通は後ろからプレッシャーをかけるものだが、マルケスは前からプレッシャーをかけてきた」の言葉が印象的だった。

心理戦に勝ったマルケス

そこに至る数周に、何度も仕掛けようとしてはマルケスに頭を押さえられたドヴィ。今やマルケスの最大のライバルにまでのし上がってきた百戦錬磨のベテランだが、本人は頭では冷静だったつもりでも心の動揺は隠しきれなかった。残り2周のしかも終盤だ。その後の裏ストレートで抜き返さなければ、勢いに乗ったマルケスがそのままラストラップを制する可能性が高くなり、コーナーを曲がる度に自分が逆転できるチャンスは減っていく。それはすなわち自分がチャンピオンシップを失うことを意味する。

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パワーでホンダに勝る現在のドゥカティであれば、戦略的にもストレートで勝負するのが理にかなっているし、それは中盤戦のツバ競り合いの中でも見られた光景だ。当然、互いに手の内は分かっている。そのギリギリの鎬合いの中で、逸るドヴィの心まで見透かしてマルケスは残り数周で勝負に出たのだろう。昨年の日本GPのように最後に逆転される可能性もあったが、彼はギャンブルに勝った。

その一方で、転びつつあるマシンを執念で立て直そうとするドヴィの姿が痛々しかった。きっとあの瞬間、スローモーションのように感じていただろう。

最後はメンタル、だから面白い

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レース後にチャンピオンとなったマルケスは、ここ1年でさらにメンタル面でも成長できたのはドヴィのおかげ、と語っていたらしい。300km/hオーバー、バンク角65度の世界でレースを緻密に組み立て戦っているMotoGPライダーたち。その超人たち究極のバトルも、やはり最後はメンタル勝負なのだとあらためて思う。

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マシンやテクニックだけでは語り尽くせない、そこに人間が大きな意味を持って介在するモータースポーツの面白さをあらためて実感したのだった。

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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