身近にある重大な危険! 運転中に意識を失う「健康起因事故」とどう向き合うか!?
不可解な転倒
先日、サーキット走行イベント中にあるアクシデントが発生しました。コーナーへの進入でひとりのライダーがバイクのコントロールを失い転倒。そのまま意識を失ってしまったのです。
最初は転倒による脳震盪と思われたのですが、コースサイドに倒れたままピクリとも動かない様子から異変に気付きます。すぐに救急要請しつつスタッフらが応急処置を施しますが、非常に幸運なことに参加者の中に脳外科の医師がいたのです。
救急隊の到着を待ちながらヘルメットを脱がすなど処置をしていた医師の言葉は意外なものでした。「脳疾患の可能性がある」とのこと。駆け付けた救急隊員もその場に留まり、結局はドクターヘリで精密検査ができる救急病院へと搬送される大事に至ったのでした。
走行中に脳疾患の可能性
その後の報告によると、転倒したライダーはやはり脳内出血が認められたということですが、意識も回復し奇跡的に後遺症もないそうです。本人にアクシデント前後の記憶はなく、近くを走っていた他の参加者の証言からも不可解な転び方だったことから、やはり走行中に意識を失い転倒に至った可能性が高いと考えられます。
一歩間違えば命にも係わることだったので、その程度で済んだことはまさに不幸中の幸いでしょう。ただ、これは偶然のラッキーが重なったと見ることもできます。場所が公道ではなくサーキットで、しかもウォーミングアップ中の低速走行だったこと。たまたま専門の医師がその場にいたこと。本人がヘルメットリムーバー(万が一の場合にヘルメットを簡単に脱がせることができる頭巾タイプ)を装着していたこと……。リムーバーのおかげですぐにヘルメットを脱がし、速やかな応急処置を施すことができたのです。
また、サーキットということで転倒した先に構造物などがなく、ドクターヘリが直接アクセスできる広いスペースがあったことも幸運でした。逆にこれがもし、帰りの高速道路などを走行中だったらと考えるとゾッとします。
意外に多い健康起因事故
運転中に病気などが原因で起こった事故のことを「健康起因事故」と呼ぶそうです。国交省の資料によると、運転者の疾病により運転を継続できなくなったケースとして報告のあった件数は年々増えているようです。
資料は事業用自動車(バス、タクシー、トラック等)に限ったものであり、健康起因事故に対する事業者の意識の高まりが増加傾向に反映されていることもありますが、こうした事故がけっして少なくないことが示されています。
出典:「健康起因事故発生状況と健康起因事故防止のための取組」(国土交通省)
心臓・脳疾患が8割を占める
資料によると、健康起因事故の疾病別では貧血、熱中症、薬の副作用などが最も多くなっていますが、その中で運転者が死亡に至ったケースでは「心臓疾患」(心筋梗塞、心不全等)が50%と最も高く、「脳疾患」(くも膜下出血、脳内出血)と大動脈瘤および解離がそれぞれ15%と続き、これらで全体の約8割を占めています。
特に脳・心臓疾患などは急激に体調が悪化するため、運転中に発症すると車両のコントロールが不能となり重大事故につながることが多くなります。
近年では平成26年に発生した北陸自動車道での高速乗合バス事故などが記憶に新しいところですが、こうした事故を防止するために国交省も「事業用自動車の運転者の健康管理マニュアル」を通じて、事業者に健康診断やスクリーニング検査を推奨しています。
何かヘンと思ったら乗らない勇気も
翻ってバイクですが、我々のように趣味で乗っている個人のライダーには、こうしたマニュアルも組織的なバックアップもないですし、事故があっても調査も行われず「ハンドル操作を誤って……」ということで済ませてしまうかもしれません。
日頃から自分で責任を持って健康管理を行うことはもちろん、体調が優れないときは潔くキャンセルすることも大事です。予期できない疾患もありますが、「頭痛」や「めまい」、「息苦しさ」などの兆候が出ることも多いそうです。
ちなみに先の事例でも、ライダー本人には既往症などはなかったそうですが、年齢的には50代後半ということで健康リスクも高まってくる時期ではあります。ただ、20代でも突然の脳・心臓疾患は有り得るそうなので油断は禁物でしょう。また、もしもの事態にどう対応するか、家族や友人、会社にも相談しておくことが必要と思われます。
いずれ将来的には自動運転技術の応用によって「健康起因事故」が防げる時代が来るかもしれませんが、それまでは日頃から健康状態に気を配りつつ、万事に備えるしかないでしょう。