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MotoGPマシン譲りのスペックを引っさげて、新型「GSX-R1000R」が国内仕様で登場!

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト
SUZUKI GSX-R1000R ABS

世界のレースで栄光に輝いてきた伝統のモデル

新型「GSX‐R1000R ABS」がいよいよ国内デリバリーを開始した。

GSX-R1000は2001年より欧州、北米等で輸出専用モデルとして発売されて以来、全世界で累計20万台以上を販売。世界耐久選手権で11回のタイトルを含む、スーパーバイク世界選手権、鈴鹿8時間耐久レース、全日本ロードレース選手権など数々のレースで栄光を勝ち取ってきたスズキを代表するスーパースポーツモデル。

今回、「No.1スポーツバイク」をコンセプトに「走る・曲がる・止まる」の基本設計を徹底的に見直しつつ、MotoGPで培った技術を投入することでさらなる進化を遂げたのが新型GSX-R1000Rである。8年ぶりにフルチェンジされた6代目にして、初の日本仕様が設定されたことも注目を集めている。

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エンジンはMotoGPマシン譲り

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新開発の水冷並列4気筒999ccエンジンは、MotoGPマシン由来の新機構「ブロードパワーシステム」を採用し、低中速域のパフォーマンスと最高出力の向上を両立。動弁系にも新たにF1スタイルのフィンガーフォロワータイプのバルブ機構を採用し、高回転化とバルブリフト量の拡大を実現するなど、GSX-R史上最もパワフルかつ加速力に優れ、クリーンなエンジンとして作り上げられた。

空力性能を高めたボディデザインに、フレーム軽量化と強度の最適化、エンジン搭載角度の変更などによりコーナリング性能と操縦性をさらに高めているのが特徴だ。

足まわりには、レースで開発されたショーワ社製の高性能サスペンション、BFF(フロント)とBFRC lite(リヤ)を標準装備。ブレンボ製ラジアルマウント方式のモノブロックブレーキキャリパーと、同じくブレンボ社製Tドライブブレーキディスクを装備するなど、まさにスーパーバイクレーサー仕様そのもののスペックが与えられている。

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最新の電子制御システムを搭載

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また、ライダーをサポートする最新の電子制御システムが搭載されているのもポイントだ。

制動時の姿勢を安定させる「モーショントラック・ブレーキシステム」や、エンジン出力を制御し10段階から選択できる「モーショントラック・トラクションコントロール」などの装備に加え、シフトアップ&ダウンの両方に機能するクイックシフトシステムを採用。

さらに、サーキット走行用のフル加速発進をサポートするローンチコントロールシステムも採用した。

日本仕様はETC車載機も標準装備

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また、新型「GSX‐R1000R ABS」の日本仕様では、最高出力・最大トルク(145kW〈197馬力〉 / 13,200rpm)を実現。馬力表記などは、各国試験の基準などの違いで、異なっているが欧州仕様と全く同じエンジンスペックとのこと。

そして国内仕様は専用装備としてETC車載器を標準装備している点も見逃せない。

■注目の新機構その 1

シンプルで信頼性の高い「可変バルブ機構」

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以上、大幅な進化を遂げてた新型GSX-Rはシリーズ歴代最強であることは間違いないとして、個人的には今回投入された3つの新機構に関心がある。

ひとつは、MotoGPで開発した技術を取り入れ新型エンジンに搭載された、SR-VVT(スズキレーシングバリアブルバルブタイミングシステム)だ。新機構「ブロードパワーシステム」の中核を成す新技術で、簡単に言うと可変式バルブタイミングのこと。

仕組みとしては、カムスプロケットに内蔵したベアリングが高回転域に遠心力で外側に広がることでカムタイミングが可変するもので、機構的には軽量・コンパクトでシンプルであるが故に信頼性も高いという、素晴らしいアイデアだ。

MotoGPライダーですらバルブタイミングが変化した瞬間が分からないというほどスムーズで自然なフィーリングが特徴らしい。

これによって低中速でのパフオーマンスを維持しつつ、高回転でのパワー特性も犠牲にしないエンジン特性が引き出せている。

スズキのGSX-R1000といえば、低中速の力強いエンジンが評価されて来た過去があり、開発陣もその評価を引き継ぎ、開発の目標に掲げている。

完全新設計となったエンジンにおいてもこの特性を目標に「プロードパワーシステム」が投入されていると言っても良い。

■注目の新機構その 2

ミリ秒単位で姿勢を制御する「モーショントラックシステム」

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もうひとつは「モーショントラックシステム」だ。IMU(慣性計測装置)がピッチ、ロール、ヨーの3軸6方向の動きと姿勢を0.004秒単位で常にセンシングし制御するシステムで、トラクションコントロールとコーナリングABSの双方に機能している。

トラクションコントロールに関しては、10段階のレベルから任意に選択できるもので、各種センサーがいろいろな条件下で後輪のスピンを感知すると、点火タイミングとスロットルバルブ開度によって速やかにエンジン出力を制御する仕組みになっている。

10段階も設定があるため、ウェットや市街地、ワインディングやサーキットなど、シチュエーションに応じて細かいセッティングが可能なわけだ。

一方ABSに関しては、例えば下りのハードブレーキングセクションでも後輪のリフトを検知すると、ただちにABSユニットが介入。ブレーキ圧を調整してリフトを抑えたり、コーナリング中にブレーキ操作をした場合でも、ABSがブレーキ圧を最適化し、転倒リスクを低減するというもの。

このシステムによって、さらに高次元でのアグレッシブかつ安全マージンの高いライディングが可能となるわけだ。

■注目の新機構その 3

スズキの良心が垣間見える「ローRPMアシスト」

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そして、「ローRPMアシスト」。発進や低回転走行時にエンジン回転数を最適に制御するもので、発進時にありがちなエンジン回転の落ち込みを緩和してスムーズな発進をサポート。

渋滞時やUターンの際にもエンジン回転を安定してキープしてくれるという便利なシステム。

こちらもエンジン回転数やギヤポジション、スロットル開度、クラッチスイッチなどの情報に基づく高度な電子制御システムで、すでにSV650などにも搭載されているが、スーパースポーツであっても日常的な公道走行での使い勝手を考慮した、スズキの良心を感じさせる機構である。

国内仕様には180km/hのスピードリミッター

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新型GSX-R1000Rは近年激しさを増す、リッタースーパースポーツ戦線における台風の目になることは必至だろう。

唯一残念なのは、国内仕様は180km/hスピードリミッターが付いていること。ちなみに、それ以外の諸元はすべてEU仕様と全く同じ(エンジン出力表記の違いは試験の違いによるもので、エンジン性能自体は同じ)ということだ。

もちろん公道でその性能を使い切れるはずもないが、多くのユーザーはサーキット走行も楽しむことを前提に購入すると思われる。

だとすれば、サーキットでの使用に限定してスピードリミッターを解除する仕組みにするなど何かしらの対応策があっても良い気がする。朗報を期待したいところだ。

※原文より筆者自身が加筆修正しています。

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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