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【KTM 海外試乗レポート】よりパワフルに扱いやすく!走破性を高めた新型アドベンチャーシリーズ

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト
KTM新型アドベンチャーで豪州・ブルーマウンテンズの荒野を疾走する筆者

先頃、オーストラリアで開催されたKTMの新型アドベンチャーシリーズ海外試乗会に参加してきましたので、その模様をレポートしたいと思います。

KTMと言えば、世界一過酷とされるダカール・ラリーで2017年度のタイトルを含め16連覇を誇るなど、オフロード界で圧倒的な実績を誇るメーカーです。

中でもアドベンチャーシリーズは、その名が示すとおり世界中のラリーやデザートレースなどで長年鍛え上げられてきた、KTMの顔とも言えるモデル。現在のアドベンチャーブームの火付け役となった一台であることは間違いないでしょう。

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その正統派アドベンチャーモデルの最新版として、今回4年ぶりのフルモデルチェンジとなった2017年モデルに試乗する機会を得ることができました。

2017モデルは2系統4機種を新たに投入

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今回投入されたモデルは、「1290スーパーアドベンチャーS」と「1290スーパーアドベンチャーR」、「1090アドベンチャー」と「1090アドベンチャーR」の2系統4機種。

ネーミングから分かるとおり、従来の1190シリーズおよび1050の後継モデルという位置付けです。これに伴い、現行の1290スーパーアドベンチャーは「1290スーパーアドベンチャーT」へとネーミングを変更しています。

KTMは同じカテゴリーにリッターオーバークラスの5モデルを揃える稀有なメーカーです。逆に言えば、それだけ“アドベンチャー”の分野を重視している証とも取れます。

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ちなみにKTMの中では、これらのモデルは“トラベルエンデューロ”として括られ、オンロードモデルに位置付けられている点も興味深いところです。つまり、普段のツーリングの延長線上で冒険旅行ができるモデルという考え方です。

1290シリーズは最新の電子制御をまとい、オン「S」とオフ「R」にキャラクターを明確化

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▲1290スーパーアドベンチャーR

さて、簡単に新シリーズの特徴を紹介しておきます。

フラッグシップの位置付けとなる1290の「S」と「R」ですが、エンジンとシャーシなどの基本コンポーネンツは共通で、大雑把には「S」はオンロード寄り、「R」はオフロード寄りの仕様として作り分けられています。

4つのライドモードを搭載し、「スポーツ」「ストリート」「レイン」「オフロード」の中からボタンひとつで出力特性やトラクションコントロール、ABSの設定が最適化される仕組みも共通で、従来モデルから引き継がれた機能となっています。

新型では、コーナリングライトを搭載した特徴的な大型フルLEDヘッドライトや、大画面のフルカラーTFTディスプレイなどが新たに装備され、カウルのデザインなども刷新されてよりモダンな雰囲気になっています。

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▲1290スーパーアドベンチャーS

「S」と「R」で異なる部分としては、「S」には電子制御サスペンションが装備されていること。

ライドモードに合わせてダンパー設定を自動的に最適化するだけでなく、刻々と変化する路面状況に応じてリアルタイムでダンピングを調整する機能も与えられています。さらにプリロードもソロとタンデム、荷物の有無などで細かく調整することも可能です。

タイヤも「S」はフロント120/70-19、リヤ170/60-17のオンロード用をキャスホイールに装着しているのに対し、「R」はフロント90/90-21、リヤ150/70-18と細めで大径なデュアルパーパス用をワイヤースポークホイールに装着。

前後サスペンションのストローク長も「S」に対して「R」は前後とも20mm長い220mmを確保するなど、主に足まわりの仕様が大きく異なっているのが分かります。これは主となる走行シーンにおいて、「オン」と「オフ」のどちらに軸足を置いているかによる違いであり、ユーザーは目的や好みによって2つのモデルを選択できるということです。

1090シリーズは従来モデルをベースに大幅にパワーアップ

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▲1090アドベンチャー

一方、「1090」のスタンダードと「R」もほぼ同様の棲み分けができています。

エンジンは従来型を踏襲した水冷V型2気筒で排気量も同じ1050cc。ただし、最高出力は従来が95馬力に抑えられていたのに対し、新型ではフルスペックの125馬力となり、ネーミングも「1090」へと格上げされています。たぶん上級シリーズとの語呂合わせの意味合いもあるのでしょう。

車体や足まわりに関しては「1090」のスタンダードは従来の1050を踏襲する形で、タイヤもフロント110/80-19、リヤ150/70-17と上級モデルの1290に比べてワンサイズ細めのキャストホイール仕様。前後サスペンションも調整機構は最小限です。

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▲1090アドベンチャーR

これに対し新たに加わった「R」は、車体の基本構成こそ同じですが、タイヤはフロント90/90-21、リヤ150/70-18のスポークホイール仕様とし、フルアジャスタブルタイプの前後サスペンションを備えるなど、オフロード走行を前提としている点が従来とは異なります。

その意味で「R」は先代の1190アドベンチャーRのスケールダウン版という見方もできるでしょう。また、新型ではライドモードも4タイプを標準搭載(スタンダードの1090は「オフロード」を除く3タイプ)するなど、電子制御も一段と進んでいる点も見逃せないポイントです。

試乗コースは大自然の中のブルー・マウンテンズ国立公園周辺エリア

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試乗会の開催地はオーストラリアの首都・シドニーから150kmほど内陸に入った「ブルー・マウンテンズ国立公園」の周辺エリア。

さらに内陸部の砂漠地帯ほどではありませんが、大陸らしいスケールの大きなワインディングや、森林地帯を走破するコースで、存分に新型アドベンチャーのパフォーマンスを満喫することができました。

【1290スーパーアドベンチャーS】

圧倒的なパワーと電制サスの威力で路面に張り付くようなコーナリング

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まず午前中はオンロード中心のコースということで、「1290スーパーアドベンチャーS」で出発。市街地を抜けると徐々に高度が上がり、大平原の中を走る雄大なワインディングロードに入っていきました。

KTMのインストラクターが先導しますが、とにかく飛ばす飛ばす。メーターをちらっと見ると日本の高速道路の巡航速度をはるかに超えるペースでコーナリングしていたりします。

そんな速度レンジでも「S」のWP製の電子制御サスペンションは、路面にピタッと張り付くような安定感で気持ち良くコーナーを抜けていきます。

バンピーな路面でも外乱を瞬間的に収束させてしまう“路面をなめるような動き”は、電子制御サスペンションならではと言えるでしょう。

排気量アップによる余裕のトルクと160馬力のパワーは圧倒的で、そうした速度域からでもアクセルひとつで巨体をぐんぐん加速させていきます。簡単にダイヤルで調整できるようになったハイスクリーンのエアプロテクション効果も抜群で、上体を起こしたアップライトなポジションのままでもまったく風圧を感じません。

ライドモードも試してみましたが、まずフルカラーTFT大画面ディスプレイの見やすさとグレード感に感心。左手の十字タイプのスイッチで直感的に操作でき、すぐに使いこなせます。

通常の「ストリート」モードから、最強の「スポーツ」モードにすると、アクセルレスポンスもダイレクトでパワーが炸裂。電子制御サスペンションのダンパーも硬めに調整されて、切り返しなどのフットワークも俊敏になります。

けっこう使えるのが「レイン」モードでした。路面状態が怪しいときなどはパワーとレスポンスも穏やかになり、スロットルを開けやすくなります。トラクションコントロールの介入も早くなるので、オーストラリアの埃っぽいアスファルトでも安心して走ることができました。サスペンションもダンパーが緩んで乗り心地がソフトになります。

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さらにフラットダートでは「オフロード」モードの出番。砂の混じった乾いた土の路面では、有り余るパワーが簡単にリヤタイヤをスライドさせますが、適度な滑りを許容しつつも、トラクションコントロールが効果的に作動することで、車体を前に進めてくれます。

ABSもオフロードに合わせてリヤの効きが適度にコントロールされるため、コーナー手前でも思い切ってブレーキングできるなど、最先端の電子制御による素晴らしい順応性を体感することができました。

また、いずれのモードにしても基本的にスロットルのツキが穏やかで扱いやすく、ECUのマップ制御が熟成されている感じが印象的で、余裕のパワーと快適なライディングポジションと乗り心地の良いサスペンション、加えて電子制御の威力によって、あらゆる道を最も速く安全に移動できる旅マシンであることが実感できた試乗でした。

【1090アドベンチャー】

程よいサイズ感でタイトは有利

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ちなみに「1090」のスタンダードにも試乗しましたが、程よいパワー感とより軽量な車体、細めのタイヤによる軽快な乗り味が印象的で、タイトなワインディングなどではむしろ1290より扱いやすい感じもしました。

ただし、やはり1290と一緒に走ると高速セクションではパワーで置いて行かれる場面も度々。また、バンピーな路面での安心感は、やはり電子制御サスペンションに分があると思いました。

【1290スーパーアドベンチャーR】

マシンに助けられジャングルを走破 1300ccをオフで振り回せる凄さとは

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続いて午後は「1290スーパーアドベンチャーR」に乗り換えていざオフロードへ。

さらに100kmほど移動して森林地帯へと分け入っていきました。幹線道路から一歩脇道に入るといきなりジャングルのような薄暗い森。もちろん未舗装で、所々に倒木や深さの分からない大きな水溜まりがあったり、とクルマも入れないような本格的なオフロードです。

同行しているKTMのインストラクターからは「飛び出してくるカンガルーに注意しろ!」と笑えない冗談のような警告も(笑)。すかさず「オフロード」モードに切り替えて心のスイッチを入れました。

オフロードのエキスパートではない私としては、こんな場面ではマシンの性能に頼るしかありません。意を決して、海外ライダーの集団に付いていきました。すると不思議な感覚が……。

「R」には最初からブロックタイヤが装備されているのですが、まずグリップがいいことに感心しました。濡れたダートでもロックセクションでも普通に走っていればまず滑らないんですね。

WP製の前後サスのしなやかな動きにも助けられ、ヒザぐらいの高さのギャップならスタンディングで抜重すれば、そのまま越えていくことができます。本格的なオフを走るとフロント21インチの理由が分かります。

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素晴らしい走破性で、スロットルさえ開けていれば、何事も起きないという安心感。勢い余って開け過ぎても、トラクションコントロールがきれいにテールを流してくれるし、突っ込みすぎても、コーナリングABSがグリップ限界ギリギリのところで、うまく処理してくれる。

つまり、ライダーの“腕”をマシンが賢くカバーしてくれるわけです。「オレってこんなにオフが乗れたっけ!?」という感じで、勘違いしそうです。

ちなみに「R」のWP製サスペンションはマニュアル式調整タイプですが、基本的なセッティングはよく似ていて、けっこうダンパーが効いている感じ。従来型の1190アドベンチャーRと比べても剛性感があって、ギャップでも非常に車体の姿勢が安定しています。

短いストロークの中で仕事を済ませてしまっている感じです。エンジンの重心位置も若干下がっているようで、極論すると、ロードスポーツモデル的な乗り味が色濃くなったようでした。そのためか、オンロードでの走りもより自然に感じました。

【1090アドベンチャーR】

最もビッグオフらしさが光る

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「1090アドベンチャーR」にも試乗しましたが、こちらはまさに従来の「1190」の良さを残したままダウンスケールした感じ。「1290」より重心が高く前後サスペンションもソフトで、よりビッグオフ的な乗り味です。パワー的にも扱いやすく、車体もひと回り軽量スリムなので取りまわしもしやすく、灌木が茂る凸凹したウッズセクションなどは、むしろ向いていると感じました。

最終日にはKTM契約ライダーのクリス・バーチに先導してもらいつつ、撮影がてら地元の林道を「R」で突っ走るというサプライズ体験もあり、拳大の石が転がる、ガレたストレートをスロットル全開で飛ぶように走りました。

この頃になると、すっかりマシンに体も慣れ、より自在感を持って新型アドベンチャーシリーズを楽しむことができるように。

乗れば乗るほどに楽しくなり、マシンからオフロードの走り方や醍醐味を教わっている気がしてきました。それもオフロードを知り尽くしたKTMならではの魅力と言えるでしょう。

オーストラリアという日本とは異なる環境ですが、「冒険は意外と身近なところにある」という思いを強く感じた試乗会でした。

▲KTM新型アドベンチャー 走行オンボード映像

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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