Yahoo!ニュース

「コリジョンコースの罠」見通しの良い交差点で何故事故が…

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト

先月は仕事で北海道に一週間ほど滞在していました。ちょうど8月末に北海道を襲った台風10号とタイミングが重なっていたこともあり、大雨による河川の氾濫など台風が残していった爪痕の大きさを実感しつつも、一方では台風が上陸中でも晴天が広がる場所もあったり、とあらためて北海道のスケールの大きさに思いを巡らせています。

見通しは良いのになぜ?

さて、北海道といえば、交通事故死者数が多いことも知られています。

これは統計でも裏付けられていて、全国事故統計のデータなどを見てみると、都道府県別の交通事故死者数において1970年から2002年までの約30年間、ほぼ毎年のように北海道がワーストワンになっていました。ここ数年は以前ほどではないものの依然上位につけています。北海道の人口は全国第8位で540万人程度と少なくはないですが、人口密度では断トツで最下位ということを考え合わせると、やはり交通事故死者数の多さは異常とも言えるのではないでしょうか。

広大な土地に直線道路も多く、速度を出しやすいこともあるでしょう。ただ、北海道での事故の特徴として、見通しの良い交差点における出会い頭の衝突事故が意外にも多いそうです。牧草地が広がるのどかな田園風景の中で、なぜ悲惨な事故が起きるのでしょうか。

画像

視覚に潜むワナ

「コリジョンコース現象」というものがあります。

これは「衝突進路」という意味で、互いにそのまま進めば衝突することが予測できたにも関わらず、互いに避けることなく衝突してしまう事故のパターンで、「田園型事故」や「十勝型事故」とも呼ばれています。元々は航空機事故の研究から知られるようになったのだとか。

これは人間の視覚特性が影響していると言われます。

人間の目は動いているものにはよく反応しますが、止まっているものは気づきにくいという特性があります。特に「周辺視」という視覚の中でもぼんやり見える部分では、動かないものは認識しずらいそうです。ちなみに人間の視野は180度~200度程度あると言われますが、モノの形や色がハッキリ見える「中心視」は左右3度程度と狭く、それ以外の大部分は「周辺視」で見ていることになります。

つまり、交差する道路を自分と同じ速度で進入してくるクルマがいたとしても、自分から見える角度は視野の中では一定なので、あたかも止まっているように見えてしまうのです。お互いがこうした状態に陥っていた場合に事故が起きると考えられています。

もちろん、近づいてくるクルマに気づきながらも互いに自分が優先道路と思っていたとか、ピラーの陰に相手が入り込んでしまい気づくのが遅れたなどの原因も考えられますが、いろいろ調べていくとコリジョンコース現象が一因となっているケースも多いようです。

バイクの運転では頭を動かして周囲を見回しながら視野を確保する場合が多く、またピラーもないためクルマと単純比較はできませんが、それでも信号や一時停止の標識がない道路ではつい油断しがちな自分がいます。

北海道に限らず、同じようなシチュエーションはどこにでもあるはずです。どうかお気をつけて日々のライディングを楽しんでいただければ幸いです。

※原文より筆者自身が加筆修正しています。

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

佐川健太郎の最近の記事