【試乗レポート】DUCATI最新モデル「ハイパーモタード939/SP」動画+試乗インプレッション
ドゥカティの中でもひと際ユニークなモデル
「パニガーレ」に代表されるスーパーバイクシリーズや、スポーツネイキッドとして確固たる地位を築いた「モンスター」、最近ではアドベンチャーの「ムルティストラーダ」やクルーザーの「ディアベル」など、近年急速にラインナップを拡大しつつ勢いに乗るドゥカティ。そのほとんどが1000cc超のフラッグシップモデルを揃える中で、唯一リッター未満の排気量しか持たないのがハイパーモタードシリーズだ。 特に先代の「821」はミドルクラスとも言える位置づけだった。
加えてモタード系マシン独特の“脚長スタイル”ということもあって、これまでは個性的な脇役というか、マニアックなモデルと映ることもあった。かつてのWSB王者、T・ベイリスが初代ハイパーモタードで大カウンターを当てながら進入スライドしてくる鮮烈な映像を覚えている人も多いことだろう。これに乗るならトリッキーな走りが求められる、という強迫観念のようなものが自分にもあった。ただ今回、新型に乗ってみてそれが杞憂であったと確信した。
排気量を拡大した進化版テスタストレッタ11°を搭載
ハイパーモタードの歴史は比較的新しい。2007年に空冷1078ccLツインを搭載した初代がデビュー。その後、「796」や「1100EVO」などのバリエーションモデルを輩出しながら、2013年には新世代のコンパクトな水冷エンジンを搭載した「821」が登場。
そして今回、その正常進化版ともいえる「939」が発表された。
従来型から最も変わったのがエンジンだ。 新型に搭載される水冷L型2気筒のテスタストレッタ11°はボアを拡大することで排気量を937ccに拡大、最高出力を3psアップの113ps(国内表記108ps)とした。
ちなみに今年から欧州ではユーロ4が適用となり、エキゾーストシステムもこれに対応したことで、国内にもほとんど同じ仕様で導入できるようになった。つまり、フルパワーの本国仕様とスペック的な差はないと考えていい。最高出力の表記の違いに関しては測定方法の違いということだ。
さておき、注目したいのは中回転域のトルクが18%も向上していることだ。つまり、今回の排気量拡大はトルクアップを目的としていることは明白である。車重で7kg増えてはいるが、それを補って余りあるミッドレンジの力強さが新型の魅力となっている。
ウェットコンディションでも感じられる接地感と加速力
バルセロナ郊外のサーキットでまず試乗したのは「SP」仕様。鮮やかなMotoGPマシンカラーに彩られ、オーリンズ製前後サスペンションとマルケジーニ製ホイールを装備した上級バージョンである。
新設されたオイルクーラーやビルトインタイプのLEDウインカーが新型であることを主張する。造形の美しさはさすがイタリアン。長い脚と引き締まったボディが見る者を魅了する。 跨ってみるとさすがにシートは高めだが、スリムな車体と初期の沈み込みが豊富なオーリンズのおかげもあって足着きは見た目ほど悪くはない。
エンジンはスペックどおり、6000rpm辺りの常用域のトルクが持ち上げられていて、従来型のように回転数を上げて走らなくても十分な加速が得られる。出力特性も穏やかで、スロットルに対して忠実かつスムーズにパワーが出てくるし、ドゥカティらしいLツインの鼓動がうまく路面にトラクションを伝えてくれる。
試乗時は気温も低くウェットコンディションだったが、このエンジン特性とストローク感のある長い脚のおかげで、常に接地感を感じながら安心して走ることができた。その意味でこのマシンは外見だけでなく、悪路でのコントロール性に優れるモタードマシンとしてのメリットはちゃんと持っているのだ。
もちろん、この天候に合わせてドゥカティ側があらかじめ用意してくれた、ピレリのレインタイヤが大きなアドバンテージとなったことは言うまでもない。
滑りやすい路面でこそ感じる電子デバイスの恩恵
電子デバイスの恩恵にもどっぷりと浸かった。新型にもライド・バイ・ワイヤーによるパワーモードやトラクションコントロール(DTC)、ブレンボ&ボッシュ製ABSなどの最新の電子制御がふんだんに盛り込まれている。
SPには「ウェット」「スポーツ」「レース」の3段階のモードが設定されていて、それぞれに合わせて出力特性やトラコンとABSの設定も自動的に最適化されるため、滑りやすいウェットではなおさら安心感がある。例えば、コーナー立ち上がりでアクセルを開けすぎたり、ブレーキングで突っ込みすぎたりといったライダー側のミスをマシンがリカバーしてくれるのだ。
走り込んでマシンとコースに慣れるにしたがってモードを格上げしていったが、エンジン特性が豹変することもなく、よりリニアかつパワフルな加速Gを終始リラックスして楽しむことができた。
ストリートに最適化されたスタンダード仕様
スタンダード仕様の「ハイパーモタード939」の試乗では、山岳路でのショートツーリングが設定された。
SPと共通の最大の違いはサスペンションで、スタンダードはフロントがカヤバ製、リヤがザックス製となり、前後のホイールトラベルもSPに比べて20mmほど短い。結果としてサスペンションの動きも抑えられていて、SPと比べてブレーキングでも車体の姿勢変化が少ない。
どちらが良い悪いではなく想定している使い方の違いだ。SPに比べるとバンク角もやや少なめだが、ストリートで不足を感じることはないはず。足着きも若干だが優位で、気軽とまでは言えないものの普通に街乗りもこなせるスタイリッシュなロードバイクといった感じだ。
ツーリングで実感したトルクアップの恩恵
排気量アップの恩恵は公道でも感じられた。エンジンは中回転域のトルクが増したことで、回転数で引っ張らずとも十分な加速が得られるためライディングに余裕が生まれる。おそらくギヤチェンジの回数も減らせるだろうから、その分ツーリングなどでは楽で快適なはずだ。
ストリート用に最適化されたライディングモードもSP同様に秀逸で、雨天であるが故にトラコンやABS介入時のスムーズで自然な作動感が際立った。OEタイヤに設定されているディアブロ・ロッソ2のしなやかなグリップ感も貢献しているはずだ。
モタードの雰囲気とともに楽しめるドゥカティの最新性能
実は先頃、国内のプレス向け試乗会で再びSPに試乗する機会を得たのだが、ちょっと印象が違っていたので追記しておきたい。サスペンションのセッティングが異なっていたのかもしれないが、海外試乗ではややフワフワしていた乗り心地が、しっとり落ち着いた感じに思えた。
会場となった袖ヶ浦サーキットはドライコンディションだったため、無意識にしっかり荷重をかけられたのかもしれない。セッティング次第でどうにでも味付けを変えられるオーリンズの強みだろう。
いずれにしても、扱いやすいパワーや優れたコントロール性、快適性を備えたスポーツ性能は実感できたと思う。別にスライドさせたり、トリッキーな走り方をさせたりしなくてもいい。ドゥカティの性能をモタードの雰囲気とともに楽しみたい。そんな人に是非おすすめしたいモデルだ。