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【伝える難しさ】ライディングを「言葉」で伝えるのは本当に難しい

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト

言葉のニュアンスだけでは難しい

先日、サーキットで2輪のライディングスクールを開催したときのこと。サーキットを安全に速く走るためのシンプルなコツとして、「直線でスロットルを全開にすること」と皆さんに伝えたところ、ある参加者から「こんなところで全開にしたらコーナー手前で減速が間に合わず危ないのでは」というご指摘がありました。

そこはショートコースだったので、本格的なサーキットと比べるとたしかに直線が短く、止まれない感じがしたのでしょう。一理あります。

ただ、問題はスロットルを全開にしている「時間」です。後からよく話を聞いて分かったのですが、彼はコーナー直前まで怖いのを我慢して全開にしなくてはいけない、と思い込んでいたとのこと。私が言いたかったのは、ダラダラと走るのではなく「直線を見つけたら短い時間でいいので、コツコツとスロットルを開ける」走り方をしよう、という意味でした。もちろん、これはサーキットでの話ではありますが、コーナリングやブレーキングで頑張るより、ずっと安全で確実にタイムを稼げるのはストレートだと言いたかったわけです。

このように丁寧に話を積み上げていけば、お互いの理解の隔たりが縮まるのですが、言葉というのは難しいものですね。つくづくそう思いました。

ことライディング用語に関しては奥が深いと思います。たとえばブレーキ操作。ブレーキ(レバー)を「握る」「引く」「かける」「当てる」「引きずる」「舐める」・・・・・・。ぽっと浮かんだだけでも、いろいろ出てきます。バイクに乗ったことがない人なら何のことか分からないかもしれませんが、操作のニュアンスを伝える言葉です。ご存じのようにバイクの操作はとてもデリケートなもので、ライダーは皆、ミリ単位で微妙な入力加減をコントロールしています。これを言葉のニュアンスで伝えるのは大変です。だから、言葉だけでなく身振り手振り、絵にかいたり実演して見せたりして、なんとか伝えようと必死にやるわけです。

真意を伝える必要性

それでも、誤解は生じます。たとえば、サーキットライディングでのアグレッシブな走り方の例として、「コーナー手前でフルブレーキングして一気に倒し込む!」などと表現されることもあります。ただ、こうした説明を額面通りに受けとめて実行していたら、それだけで気負いすぎて転倒してしまいそうです。本来であれば、「フルブレーキングでも最初はジワッとかけてフロントフォークを沈めて、タイヤが路面に押し付けられたら徐々に入力を強く。倒し込みは一気にではなく一回でスムーズに」と言いたいわけです。相手に誤解を与えないようにするためには、言葉を選んで具体的かつイメージしやすい表現を探す必要がありますね。

言葉の持つ暗示力はとても強いもので、一旦そう思い込むとなかなかその呪縛から逃れられないものです。スクールでもよく転ぶ人がいますが、なぜそのような操作や乗り方をしたのか理由を聞いてみると、間違って理解している人が多いようです。そして、だいたいは言葉に惑わされているパターンです。「脇をしめる」「ステップを踏み込む」「外足荷重」など、バイクの世界で昔から言い伝えられている慣用句のようなものですが、盲目的に信じていると間違った乗り方、危険な走り方になってしまうことも。

バイクの場合、ちょっとした誤解が事故に発展する可能性もあります。特にそれが公道であれば、人命にかかわることも。冒頭の例でも、彼が「全開」の意味を間違って理解したまま走っていたら、危険が増大したかもしれません。そう考えると恐いし、責任の重さを感じます。皆さんも善意で誰かにアドバイスしてあげるときには、その真意がちゃんと正しく伝わっているか、よくよく確認しながら会話を進めていただければと思います。

※原文から著者自身が一部加筆しています。

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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