【明日のMotoGPライダーを育てるには】企業メセナで世界に通じる選手を!
先日、「Webikeチームノリックヤマハ」2015チーム体制発表会がありました。同チームは「世界で通用する日本人ライダーを育てる」という設立当初からの方針に基づき、若手ライダーの育成に取り組んでいます。
昨年、筑波、もてぎ、菅生の3つの地方選手権をすべてコースレコード更新してチャンピオンを獲得した上和田拓海(18歳)は今年から全日本選手権J-GP2クラスに。今年からST600で地方選手権に参戦する岡本裕生(15歳)の他、ST250の中原美海(13歳の女の子!) と阿部恵斗(11歳)の新人を加えた4人体制となりました。
まだまだあどけなさが残る「子供」といってもいい彼らですが、その実力はかなりのもの。たとえば一例ですが、岡本選手などは「初めて乗ったST600で、ツインリンクもてぎを2分そこそこで走った」と阿部監督(元WGPライダーでノリックの愛称で親しまれた故阿部典史のお父さん)が太鼓判を押すように、煌めく才能を持った若いライダーたちです。目標は世界へ。ぜひ将来は最高峰クラスのMotoGPへと羽ばたいてもらいたいものです。
MotoGPと言えば、今年は最高峰クラスのエントリーリストから日本人ライダーの名前が消えてしまい、ちょっと寂しい気がします。最近のモータースポーツ界において日本人はやや低迷している感は否めません。かつては黄金時代もありました。90年代にはロードレース世界選手権(WGP)で世界チャンピオンを獲得した原田哲也(93年GP250)や坂田和人(94年GP125)、青木治親(95,96年GP125)などをはじめ、各カテゴリーで多くの日本人ライダーがトップレベルの戦いを繰り広げていました。
当時はレースブームやバブル景気の余韻などもあり、今より人々の関心がモータースポーツに向けられていたこともあると思いますが、それにしても日本人ライダーが毎回のように表彰台争いをしていたあの頃の強さは一体何だったのでしょう。
彼らに共通しているのは、幼少の頃からボケバイなどでレースに親しみ、同年代のライバル同士で切磋琢磨しながら成長してきたことです。ある選手が「子供の頃からサーキットで競い合ってきたけれど、気づいたら皆で世界に行っていた」と語っていたのが印象的でした。今よりもずっと身近なところに“世界"があったということでしょう。言葉を変えれば、世界に通用する人材を育てる環境がそこにあったわけです。
スポーツの世界では、裾野の広さが強さにつながると言われます。その好例がバレエ。最近、日本人の活躍が世界でも注目を集めています。若手バレエダンサーの登竜門として知られるローザンヌ国際バレエコンクールで、2014年は入賞者6名のうち優勝、準優勝を含む3名(2名は男子)が日本人、2015年も2人(1名が男子)が入賞しています。
子供の「習い事」として人気のバレエは今や駅ごとに教室があるとも言われ、生徒数は40万人以上とも。バレエを気軽に始められる環境と、全国に広がる町のバレエ教室が世界的なダンサーの育成を支えています。もうひとつ日本のお家芸となったフィギュアスケートにしても、日本スケート連盟による全国の才能あるジュニア選手を掘り出すための「野辺山合宿」にその原点を見ることができます。そして、世界で活躍する選手が増えるほど、そのスポーツの人気は高まり競技人口は増えていきます。その証拠に全国のスケートリンクには明日の浅田真央を目指す子供たちが溢れています。
モータースポーツはたしかにお金がかかります。ポケバイやミニバイクなどのレベルであれば普通のサラリーマン家庭でも続けられそうですが、これが選手権レベルになると専門的なトレーニングが必要になってきます。そうしたときに若い才能を育てられる優れた指導者とこれをバックアップする資金が必要になってくるわけです。
そういう意味で特にモータースポーツにおいては、企業が行うメセナ(即効的な販促宣伝効果を求めるのではなく社会貢献の一環として行う芸術・文化・スポーツなどの支援活動)が重要になってくると考えます。たまに現れる天才を待っているだけでは将来は開けません。裾野を広げて才能を伸ばせる機会を作ること、そして長い目でバックアップできる環境を整えること。日本が世界的なモータースポーツ大国となるためのファーストステップかもしれません。