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教職離れ、女子学生に顕著 学年進むと男女差拡大、女性の教採受験者数も急減【独自調査速報】

内田良名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授
(写真:アフロ)

「女性が働きやすい」と長らく言われてきた職種がある。学校の教員である。待遇面で性別による不利益はなく、出産後も働きやすい。職場によっては女性のほうが多数派で、また女性管理職も多い。

ところが実際には、そのイメージを覆すような事態が生じている。女子学生の教職離れである。教職に関心をもっていても、女子学生は教員の道から離脱していく。独自調査の速報値を用いながら、その実態を明らかにしたい。

小学校の倍率1.3倍の自治体も 採用試験は広き門

教職を目指す大学生にとって、春の季節が慌ただしくなっている。文部科学省の方針により、教職志望の大学生が受ける教員採用試験の標準日が、従来の7月から今年度は6月に、来年度からは5月に前倒しされる。

その背景には、教員のなり手不足がある。

文科省の発表によると、2023年度に採用された公立校教員の採用倍率は3.4倍と、過去最低を記録した【図1】。とくに小学校は2.3倍にまで低下し、秋田県と大分県では1.3倍と、受験者の大多数が合格する広き門となっている。文科省が示す採用試験日程の前倒しには、人材を早期に確保したいという狙いがある。

図1:小学校 受験者数・採用者数・競争率(採用倍率)の推移 ※文部科学省「令和5年度(令和4年度実施)公立学校教員採用選考試験の実施状況について」より引用。
図1:小学校 受験者数・採用者数・競争率(採用倍率)の推移 ※文部科学省「令和5年度(令和4年度実施)公立学校教員採用選考試験の実施状況について」より引用。

受験者の女性割合、減少がつづく

受験者数については、その倍率低下ばかりが話題になっているが、一方でほとんど注目されていない事実がある。受験者全体に占める女性の割合が、長期的に減少しつづけているのだ。

図2:教員採用試験の受験者における女性の割合 ※文部科学省「公立学校教員採用選考試験の実施状況について」の各年度の資料をもとに筆者が作図。
図2:教員採用試験の受験者における女性の割合 ※文部科学省「公立学校教員採用選考試験の実施状況について」の各年度の資料をもとに筆者が作図。

文部科学省の資料からは、男女別の受験者数がわかる。そこで、小学校、中学校、高校、特別支援学校それぞれの受験者(新卒者にくわえ既卒者も含まれる)における女性の割合を抽出し、整理した【図2】。

一見して明らかなように、総じて2019年度採用試験まで、女性受験者の割合が低下している。

小学校・中学校・特別支援学校では、1990年代半ば頃、受験者の約7割が女性であった。ところがその後、小学校・特別支援学校は5割近くにまで減少し、中学校に至っては4割を切っている。全体として受験者の多数派は、男性である。

なお、2020年度以降は性別を把握しない自治体があらわれ、その自治体数は年々増えている。このことから、連続した統計としては、女性割合は2019年度までしか算出できない【※数値の一部訂正について、記事下部を参照(2024年5月10日)】。

女性の受験者数そのものが減少

女性割合の低下は、かつては男性受験者数の増加の側面が強かったが、ここ数年については、とくに女性受験者数数の減少による影響が大きい。

たとえば小学校でみると、1996年度採用の受験者のうち女性は31,708人で、それ以降も3万人超がつづき、ピーク時の2012年度には34,117人にまで達した。ところが、7年後の2019年度には最小の24,091人にまで、女性の受験者数が急速に減っている【図3】。短期間の急な減少は、気がかりな動向である。

一方で、小学校では男性の受験者数は1990年代に増加しつづけ、2010年代後半は高止まりあるいは微減の傾向が確認できる。

図3:小学校の教員採用試験における男女別の受験者数 ※文部科学省「公立学校教員採用選考試験の実施状況について」の各年度をもとに筆者が作図。
図3:小学校の教員採用試験における男女別の受験者数 ※文部科学省「公立学校教員採用選考試験の実施状況について」の各年度をもとに筆者が作図。

総じて教職は、男性を引きつける一方、女性はそこから離脱している【注1】。

女性の教員採用試験離れは、仮に、女性が民間企業で働きやすくなったからとの説明が成り立つのだとすれば、その意味においてはまだよいことなのかもしれない。だが、いずれにしても上記の傾向が今後もつづけば、学校という職場は、現在よりも男社会化していくことになりかねない。

独自調査からみる大学生の教員志望度の変化

次に、短期的な視点として、教員志望の大学生における志望度の変化を明らかにしたい。

教員免許を取得しようとする学生は、一般に大学入学の時点から教職関連科目の単位を積み重ねていく。教職に関する学びを深めるなかで、学生の志望はいかに変容していくのか。その変化にジェンダー差はあるのか。

私は共同研究のプロジェクトとして、「大学生の教職志向性に関する調査」を、全国のウェブモニターを対象に、2023年11月15日~22日にアンケート方式で実施した(調査概要は記事下部に記載)。その研究成果の一部を、ここに速報として公開する。

調査は、教員免許取得に必要な科目を一つ以上取得したことがある大学3年生と4年生を対象とした。回答者数は、大学3年生が289人(女性196人、男性93人)、大学4年生331人(女性217人、男性114人)の計620人である。

調査では回答者に過去からの教職志望度を質問した。「次の時期にあなたはどのくらい教師になることを考えていましたか」として、中学校段階から調査時点(2023年11月)までの志望度を0~7の整数で評価してもらった(非志望の場合には0、志望している場合にはその程度を1~7で回答してもらった【注2】)。

写真:アフロ

非志望も高志望も増えていく

大学4年生は3年生よりも1年ぶんの経験が多く、4年生4月の志望度を回答しているため、3年生と4年生の回答をわけたうえで、志望度の変化を確認してみよう。

時期区分は、中学3年4月/高校3年4月/大学1年4月/大学2年4月/大学3年4月/大学4年4月/調査時点(2023年11月)とした。志望度の変化をとらえやすくするためにデータを要約し、非志望/低志望(志望度1)/中志望(志望度2~6)/高志望(志望度7)の4分類で図示した。

3年生も4年生も、志望度の変化は酷似している【図4】。

まず、強い意志をもって教職を希望している高志望の割合をみてみよう。教職科目を受講して2年目の時期(大2_4月)に、高志望者は若干減少するものの、総じて高志望者は時間の経過とともに増加している。

次に、非志望・低志望の変化に目を移そう。

中学3年生の時点では約4割は、教職をほとんど意識していない。教職科目を受講し始めた大学1年生の時点では、非志望・低志望の割合は大幅に減少し、そこから学年があがるにつれて徐々に割合が増加していく。

在籍中に教職へと志望を固めていく学生がいるとともに、教職以外の職業に移行していく学生もまた一定数いることがわかる。

図4:大学3年生と4年生における教職志望度の変化 ※独自調査より筆者が作図。各時期区分における非志望・低志望/中志望/高志望の割合について、大学3年生と4年生の間に統計的な差は認められなかった。
図4:大学3年生と4年生における教職志望度の変化 ※独自調査より筆者が作図。各時期区分における非志望・低志望/中志望/高志望の割合について、大学3年生と4年生の間に統計的な差は認められなかった。

女子学生における教職離れ

本記事では先に、女性の教職離れの可能性を指摘した。

そこで、最終的な進路を固めている大学4年生に限定して、男女別に入学以降の志望度の変化を分析した。すると男女の間における変化の差異が、浮かび上がってきた。

とくに顕著なのは、女子学生における非志望者の増加である【図5】。

大学1年4月時点では、非志望者は男子学生が14.0%、女子学生が16.6%と、ほぼ同程度である。

その後は学年があがるにつれて、男女ともに非志望者の割合は増加していく。とりわけ女子学生の増加幅が大きい。大学1年4月時点では非志望者について女子から男子を差し引いた値は2.6%であったが、大学2年4月が3.1%、大学3年4月が4.5%、大学4年4月が8.2%と、男女間の差は大きくなっている。

最後の段階となる大学4年11月の時点では、非志望者は男子が19.3%、女子が29.0%と、9.7%の差が生じている。改めて、入学時点では、男女の間にほぼ差がなかったことを思い出したい。時間の経過とともに、女子学生が男子よりも相対的に多く、非志望層に移っていく。

高志望者については、男女ともほとんど傾向は同じである。大学1年4月時点では、高志望者は男子が22.8%、女子が21.2%、大学4年11月時点では、男子が31.6%、女子が32.3%である。

すなわち、高志望者については男女ともに同様の変化をたどっている。非志望者については、入学時点では男女とも同程度の割合であるが、学年があがるにつれて、女子学生における非志望者の割合が男子よりも大きくなっていく。

ここまでの教職志望度に関する分析結果を一言で表現するならば、「就職が近づくにつれ、女子学生における教職離れが顕著になる」とまとめられる。

図5:大学4年生の男女別にみた教職志望度の変化 ※独自調査より筆者が作図。各時期区分における非志望・低志望/中志望/高志望の割合について、大学4年11月のみ男女間に統計的な差(5%水準)が確認された。
図5:大学4年生の男女別にみた教職志望度の変化 ※独自調査より筆者が作図。各時期区分における非志望・低志望/中志望/高志望の割合について、大学4年11月のみ男女間に統計的な差(5%水準)が確認された。

学校教育の男性化 女性が忌避する職場へ

以上、文部科学省の教員採用試験のデータと、私自身のウェブ調査のデータ(速報値)から、これまでほとんど注目されることのなかった、「女性の教職離れ」の現実を明らかにした。

浜銀総合研究所の調査(2022年2月~3月に実施)によると、民間企業の魅力や、教職科目の単位取得における困難にくわえて、職場環境・勤務実態に対する不安が、大学生における教職からの離脱志向を生み出している。

教員不足の背景の一つに、職場環境・勤務実態に対する不安、とりわけ長時間労働への忌避感があると考えられる。本記事における男女別の分析を踏まえると、長時間労働の忌避感などについて、ジェンダーの視点を主軸に据えた調査研究が急ぎ必要であることを、強調しなければならない。

「女性が働きやすい職場」だと思われてきた学校は、いまや「女性が忌避する職場」へと変容してしまったかのようにみえる。「女性が働きやすい」と標榜しておきながら、じつは男性ばかりが集まってくる。「学校教育の男性化」とでも呼ぶべき今日の状況に、私は明るい未来を見いだすことはできない。

▼数値の一部訂正について

  • 受験者における男女別の人数や女性の割合は、文部科学省「公立学校教員採用選考試験の実施状況」の(近年における資料の表番号でいうと)第4表などをもとに作成した。第4表あるいはそのもととなる各年の第1表には、「受験者数」と「女性(内数)」の数値が記載されている。当初公開した記事においては、これら2つの数値から、女性の割合や男性の人数を算出したグラフを掲載した。
  • だが厳密に言うと、2020年度採用以降については、都市部を中心に性別を把握しない自治体があらわれており、第4表の「女性(内数)」には、それらの自治体の人数が含まれないようになっていた。ただし「受験者数」は性別の影響を受けないため、従来どおり、すべての自治体の人数が含まれるかたちで表記されていた。したがって「受験者数」のなかには性別が把握できていない自治体の受験者数も含まれている一方で、その「女性(内数)」からは、当該自治体の受験者が省かれている。
  • 受験者の性別を把握していない自治体は、2020年度以降、都市部を中心に年度を追うごとに増えてきている。2020年度以降における女性の人数と割合は、母集団が年度とともに大きく変化しつづけていることから、過去から連続する数値として取り扱うのは適当ではないと考えられる。そこで、推移を示す数値は、2019年度までにとどめることとした。またそれに合わせて、本文中で2020年度以降の数値や傾向に言及した箇所は、適宜修正をくわえた。なお、2019年度までの推移のみでも、記事公開当初に執筆した推移の傾向や本文の趣旨は変わらない。
  • 注意深く文科省の資料を確認していれば上記のことに気づけたはずだが、筆者の注意不足により数値上の誤記が生じることとなった。この場を借りてお詫びする。[2024年5月10日]

▼注記

  • 注1:採用者数についても、受験者ほどではないものの、とくにここ十数年の間における女性割合の低下が確認できる。2019年度採用において、たとえば小学校では女性の割合は、ピークとなった2006年度の65.4%から、2019年度には58.3%にまで低下している。小学校・中学校・高校・特別支援学校全体では女性の割合は、ピークとなった2006年度の58.4%から2019年度には51.3%に減少している。
  • 注2:教員免許取得のために教職関連の授業をとっている学生を対象としているものの、最初から教員になるつもりがまったくない非志望の学生が含まれている。

▼「大学生の教職志向性に関する調査」の概要

  • 目的:学校の長時間労働の実態が明らかになった今日、教職科目を履修してきた大学生は、教職に対していかなる意識をもっているのか、全国を対象にしたウェブ調査から明らかにする。
  • 実施期間:2023年11月15日~22日。
  • 方法:ウェブ調査(インターネットによるアンケート調査。株式会社マクロミルのウェブモニターを利用。)
  • 対象:教員免許取得に必要な科目を一つ以上取得したことがある大学3年生と4年生。
  • サンプルサイズ:大学3年生289人(女性196人、男性93人)、大学4年生331人(女性217人、男性114人)の計620人。
  • 研究組織:内田良(1)、菊地原守(2)・澤田涼(2)・溝脇克弥(2)・藤川寛之(2)・田口愛梨(2)・長谷川哲也(3)の7名。 ※(1)名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授、(2)名古屋大学大学院教育発達科学研究科・博士後期課程大学院生、(3)岐阜大学教育学部・准教授
  • 研究倫理審査:調査は、名古屋大学大学院教育発達科学研究科倫理審査委員会の承認を経て実施した(認可番号:23-2040)。
  • 付記1:本記事のデータは速報値である。
  • 付記2:本記事は、日本学術振興会科学研究費補助金・基盤研究B(課題名:「教員の働き方」の現在:危機の実態把握にもとづく啓発活動の迅速な展開、研究代表者:内田良)の助成を受けた研究成果の一部である。

名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授

学校リスク(校則、スポーツ傷害、組み体操事故、体罰、自殺、2分の1成人式、教員の部活動負担・長時間労働など)の事例やデータを収集し、隠れた実態を明らかにすべく、研究をおこなっています。また啓発活動として、教員研修等の場において直接に情報を提供しています。専門は教育社会学。博士(教育学)。ヤフーオーサーアワード2015受賞。消費者庁消費者安全調査委員会専門委員。著書に『ブラック部活動』(東洋館出版社)、『教育という病』(光文社新書)、『学校ハラスメント』(朝日新聞出版)など。■依頼等のご連絡はこちら:dada(at)dadala.net

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